schoolTakt 開発経緯

提案者紹介

後藤正樹

後藤正樹

東京大学大学院総合文化研究科、洗足学園大学指揮研究所を卒業。大手予備校にて物理科講師、高校にて数学講師、教育系企業でのコンサルティング、CTO職などを経て、現在は、株式会社コードタクト代表取締役、総務省プロジェクトマネージャー、株式会社スタディラボ 取締役などを務める。

慶應義塾大学特任招聘教授である夏野剛氏のもと、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)「未踏IT人材発掘・育成事業」においてスーパークリエータに認定。第8回日本e-Learning大賞 奨励賞受賞。日本デジタル教科書学会委員。

教育・IT分野での活動の傍ら指揮活動も行っており、2012年9月より、琉球フィルハーモニック・チェンバーオーケストラ指揮者、2013年8月より那覇ジュニアオーケストラ常任指揮者に就任。2013年9月、エルミタージュ美術館オーケストラ(ロシア/サンクトペテルブルク)を指揮、2014年3月、日本最大級のゲーム音楽フェスティバル「沖縄ゲームタクト」の指揮/総合ディレクターを務める。

「先生が教えやすく、生徒が楽しく学べる」環境作りへ

先生は、日々授業準備、採点、事務作業、会議、保護者対応、部活など校務に追われています。そして一般企業と異なり、学校ではアルバイトを雇うという文化が無いため、一人でこなさなくてはならない雑務も多く、本来生徒に割くべき時間を中々取れないのが現状です。つまり。先生が一人一人の子どもに向き合える時間の確保や環境の整備が重要となります。

また一方で生徒については、統計調査により、学ぶ意欲や学力・体力の低下、問題行動などの多くの課題が明らかになっています。生徒の学ぶ意欲・学力の向上、規範意識の涵養、豊かな心と健やかな体の育成をするための教育が必要です。

もう少し具体的に言うならば、「先生は日々の雑務から開放され、生徒と直接向き合う時間が増えること」そして「生徒は能動的・主体的に授業に参加することによって学習がより楽しくなること」。こうした環境こそが、schoolTaktの目指す姿です。

一斉授業の問題点

そもそも一斉授業とは、イギリス産業革命時代に、大量に必要になった工場労働者たちに、安価に知識を届け、労働力化するための手法として開発されたものです。確かに、多くの人数を一箇所に集め、一人の先生が授業をすることは効率が良いのですが、色々な課題も抱えています。例えば、以下の様なことです。

生徒を飽きさせないための、高いスキルが先生に必要

一般的に、一斉授業は塾や家庭教師などの個別指導と比べ、生徒を飽きさせないための高い技術が必要となります。個別指導では一対一であるため、先生・生徒間のコミュニケーションが密になり、普段の会話の技術でも授業することで可能です。

しかし、その方法で一斉授業に望むとどうしても生徒は「聞くだけ」という姿勢になりがちになってしまい、退屈な授業になりがちです。

講師一人が同時に気を配れる生徒数は「10人」という限界

国立教育政策研究所の調査によると、1人の教師が生徒に目を行き届かせることができる限界は、例えば算数であれば10人〜20人程度という統計があります。そして学級規模が大きくなるにつれ,生徒一人一人のものの考え方や見方の把握などが困難になります。
しかし日本の「学校授業」は、少子化に転じた現在でも20~40人のクラスが一般的となっています。
1人の教師への負担の集中を軽減する目的で、ティーチング・アシスタント制度が取り入れられるなどの対策は講じられてきましたが、根本的な解決には至っていません。このことは文科省も以下のように課題であると認識しています。

「日本の小・中学校における教員1人当たり児童生徒数は、各国と比較して大きい。少人数指導や習熟度別学習など、よりきめ細やかな指導体制の充実が課題。」 (文科省「現在の教育に関する主な課題」より)

アウトプットこそ先生が必要

一斉授業は大量の知識をインプットさせるために発展されたものです。アウトプットである演習は、授業時間が足りないため宿題になることも多く、知識の運用の部分がなおざりになりがちです。しかし、演習こそ人それぞれ躓くポイントが異なるので、先生による指導が必要です。

近年、従来からの一斉授業への反省として、「演習中心」の授業スタイルが模索されています。フィンランドなどではカリキュラムさえも廃止し、学校は「アウトプットの場」とする動きも増えています。今流行りの「反転授業」もその1つです。また、生徒たちが自分でカリキュラムを見つけるような方式を採用した小学校が日本にも登場するなど、国内でも取り組みは少しずつ進んできています。

知識よりも知恵が必要な世の中に対応しづらい

学ぶべき内容も近年大きく変わってきています。「知識よりも知恵を重視する」ことがその一例です。これまでの社会は、「知っている」ことそのものに大きな価値がありました。

しかしインターネットによる検索技術の進歩した現代は、より簡単に、より多くの情報に接することができます。教育の価値が「知識」から「妥当な解を得ること」すなわち「知恵」へと社会が転換してきています。それにも関わらず教育現場はそうした変化への対応が遅れています。
近年、必要性が叫ばれている「協働学習」がその一例です。教師自身が協働学習を経験したことが少ないため、ノウハウや方法論が十分に整備されていません。こうした状況の改善も急務であるといえます。

教育システムの問題点

政府は「2020年までに全国の小中学校で1人1台のタブレット端末の整備」を目標に掲げ、タブレット端末を活用した課題解決型学習をしようという動きがあります。そのため学校や塾などでiPadなどのタブレットの配備が進んできています。

しかし、その使い方は英語の辞書アプリであったり、反復ドリルであったり、紙でも出来る使い方をしているケースを良く見かけます。私は、1人1台デバイスを持つ価値として、ネットワークに繋がることで「みんなで学び合う」ことが出来ることに本質があるのではないかと考えます。

また、動画やパーツを動かす機能を持つデジタル教科書も広まってきましたが、先生がシステムを使うのではなく、業者の作ったシステムに先生が「教え方を合わせなければならない」事が多く、今までの先生の教え方を変えなければならないという非効率さも見えます。

教育は、生徒の将来にとって非常に大切なものです。システムによって先生が教えにくくなり、生徒に悪影響が出ては本末転倒です。そうならないためには、今までの教え方の延長線上にシステムがなければならない。つまり、なめらかな進歩が必要と考えます。

これからの「一斉授業のあり方」

一斉授業においても(個別指導のように)1対1で先生と生徒がつながり、個々の生徒の学びを大切にできる授業がITを活用すればできると考えています。このコンセプトの上に、これまでに挙げた問題点の解決と、もう一歩進んだ授業のあり方についての思いをまとめようと思います。

生徒1人1台タブレット端末を持っている環境では、情報の共有がしやすくなります。例えば、生徒全員の解答やそのプロセスを一覧表示し、それをプロジェクターや電子黒板に投影することで、クイズ番組に参加しているような環境が作れ、聞くだけの授業から生徒は主体的に授業に参加できます。この方法には、

  • 全員の解答をカンタンに集めることが出来、他人の解答に学ぶことが出来る
  • すぐに生徒のレスポンスを拾い上げることができるので、一斉授業であっても1対1で先生と生徒がつながりが築きやすい
  • 普段発言があまりない生徒が良い答えをした時に、褒めることが出来る
  • 今までは問題をとく時間でも、どうせ先生が答えを言うからと解かない生徒が出てくるが、それが無くなる。

など様々なメリットがあります。

また、最近「反転授業(Flipped Classroom)」というキーワードが流行っています。これは、生徒たちは新たな学習内容を、自宅でビデオ授業を視聴して予習し、教室では講義は行わず、逆に従来であれば宿題とされていた課題について、教師が個々の生徒に合わせた指導を与えたり、生徒が他の生徒と協働しながら取り組む形態の授業のことです。

つまりこれは、知識のインプットは、授業スキルの高い一人の先生が動画を撮って、それを流せば良い。知識の運用であるアウトプットこそ人それぞれ躓くポイントが異なるので、先生がサポートしたり、生徒同士で解決する力を養うべきだということです。

少し過激な言い方にはなりますが、今までの学校に生徒が集まって行う一斉授業は、インターネットがない時代の古い方法論であるということが出来ます。多くの生徒に大量の知識を効率的に学ばさせるには、学校という一箇所の器に集めるしかなかったからです。しかし、現在はYoutubeやニコニコ動画などインターネット授業で、一箇所に集まらなくとも学ぶことは出来ます。教え方の上手い先生が授業をしたり、NHKの教育番組のようにCGなど工夫をされたもので学習したほうがインプットしては、生徒のためにもなるのではないかという考え方です。こういった学習メソッドも生徒1人1台タブレットを持つ時代になったことで可能になりました。そして1人1台であることで、生徒個人の学習の詳細なログが残ります。この「ログ」の活用がこれからの学習のキーワードとなるでしょう。

またもう一つのキーワードとして「Adaptive Lerning(アダブティブ・ラーニング)」というものがあります。これは、生徒個人に最適化した学習を支援する方法のことで、学習に関する膨大なログ(ビッグデータ)を解析することで、各生徒が、授業内容のどこにつまずき、どこに理解不足があるのかを容易に特定しようとする技術のことです。「アダプティブ・ラーニング」は、「この問題に正答したら、次の問題を出す。間違えたら、理解を確認するための次の問題を出す」というようなコンピューター支援学習システム(CAIシステム)と異なり、ビッグデータに基づいているところが大きな違いであると言えます。
生徒のつまずきを放置することなく、1人1人に最適化した授業を提供する「アダプティブ・ラーニング」は、今後の教育の新潮流として注目されています。

「schoolTakt」はこのような一斉授業の課題の克服や、新しい学びのあり方を支援するツールになることを目標にしています。