2025年3月26日に開催された本イベントでは、HILLOCK初等部の五木田洋平先生をお迎えし、「自由進度学習を通した子供の変化とシェルパの関わり」をテーマにお話を伺いました。

イベントのアーカイブ動画を見る

子供が自ら学びを選ぶ、その背景にある想い
── HILLOCKの学びの様子

HILLOCK初等部は、2022年に設立された東京にあるオルタナティブスクールです。子供たちは地元の公立小学校に籍を置きながら、HILLOCKで日々の学びを積み重ねています。
五木田先生は、自身の学生時代の経験や教員としてのキャリアを通じて、「二次障害を避ける」ことを教育の根幹に据えています。画一的な枠にはめ込み「あなたはダメな人だ」と伝えるのではなく、「あなた自身が自分の人生を生き、充実感を得てほしい」と願う場づくりに取り組んでいます。
開校当初は心に殻をかぶっていた子供たちも、1年半が経った今では「目に光がある」「安心しているような」表情を見せるようになったといいます。この変化は、五木田先生自身が過去に感じた「自分の人生を生きる」ことによる満たされ方と重なっており、「心に希望が灯る学びの場を広めていきたい」という想いが語られました。

五木田先生が大切にされている、核になる部分の動画はこちら

「自由進度学習」が育てる、自己理解と『あて感』

HILLOCKでは、毎日1時間、子供たちが自ら決めた学習に取り組む「自由進度学習」の時間があります。

「めあてを立てる」「活動する」「振り返る」というシンプルな流れですが、ポイントは「自己調整」に重きを置いていることです。例えば、「今日はどれくらいやる?」「昨日つまずいたところから始めてみよう」など、自分のペースで学びを進めます。

自由進度学習の大きな目的の1つに、自分の学びのオーナーシップは自分にあることを伝えたいという思いがあると五木田先生。とはいえ、すべてが自由で制限がないわけではありません。時間の制限がある場合もあれば、ある子には「調べた後は問題を解いてね」という制限を加えたり、ある子には「何か知ったことを僕に話してね」という制限を加えたりすることもあるといいます。

ここで育まれるのは、学力だけでなく「今の自分にとってちょうどいい学びの量と質」を見極める力。五木田先生は、自由進度学習を行うと子供たちは自分自身に興味が湧いてくるといいます。できそうでできないポイントを探し、「あと少しでできそう」という『あて感』をつかむ練習が、子供たちの自信と自律性を支えていきます。

HILLOCKでの自由進度学習についての動画はこちら

子供たちに起きた変化

自信とは、「自分が成長できると信じる」こと。こうした学びを通じて子供たちは、自分自身への理解を深め、自信や自己肯定感を育んでいきます。

この変化は、漢字や算数といった教科の学びだけでなく、マイプロジェクト(自分の興味を深める時間)での実践など、多様な活動にも共通して見られます。
また、学びの中で困難に直面したとき、「助けを求めたり、協力したりしていいんだ」「誰に聞けば自分は成長できるだろう」という他者との関わり方も自然と身につけていきます。

HILLOCKでは、「Confidence(自信)」「Creativity(創意工夫)」「Caring(思いやり)」「Contribution(貢献)」という4つのCを大切にしています。自分は自分でいいんだという自信を何より大切にし、お互いに思いやりを持ったり、みんなに貢献したり、創意工夫をしたり、創意工夫をしている人のそばにいたりすることを通して、4つのCは相互に関係し合いながら育まれていきます。

HILLOCKの4つのC

HILLOCKで大切にしたい4つのC(HILLOCKウェブサイトより)

マイプロジェクトや4つのCについての動画はこちらから

学びを支える「シェルパ」の存在

HILLOCKでは、先生のことを「シェルパ」と呼びます。子供たちの学びを深く理解するため、シェルパ同士で対話をしながら見取りを行っています。

「この問題ができたか」などの教科の学びに関することだけに捉われず、「この子はなぜ今この計算に取り組んでいるんだろう」「感情が動いているか」といった背景や心の動きにも目を向け、多角的な理解を大切にしています。シェルパ同士が「今の状況はどう見えていますか」と声をかけ合い、対話をしながら見取りの精度を高めていきます。対話を通じて子供たちを立体的に理解する営みは、子供たちの心に寄り添う上で欠かせないプロセスです。

シェルパの見取りについての動画はこちら

「スクールタクト」で可視化される学び

授業支援クラウド「スクールタクト」も、日々の学びの中で活用されています。
例えば漢字学習では、習熟度に応じて「見ないで書ける」「お手本を見れば書ける」「チラ見で思い出せる」といったステップに分類することで、「あとちょっとでできそう」「ヒントがあればできる」という感覚をつかみやすくなり、「見ないでできる」に持っていくことができます。
この「あと少し」の感覚を大切に扱うことで、自由進度学習の本質である「自分で調整する力」がさらに深まっていきます。

自由進度学習的な漢字学習の実践の動画はこちら

漢字学習の課題テンプレート

五木田先生監修のスクールタクト公式課題テンプレート

課題テンプレートの検索の仕方

課題テンプレートの検索画面。全学年・全科目・すべて・「五木田」で検索すると五木田先生監修のテンプレートが見つかります。

「自由進度学習」以外も、それぞれの子供が主人公

HILLOCKの一日は、午前中に教科学習や自由進度学習、午後には公園でのランチ、マイプロジェクトやテーマ学習などを行い、14:30には下校します。
このタイムスケジュールは、「潤沢な放課後を確保する」という方針に基づいて設計されています。子供たちは、「やらされている」感覚ではなく、「自分の人生を生きる」時間の主人公として一日を過ごしています。

国語の授業では、物語文の冒頭の一文からさまざまな想像を広げる実践が紹介されました。正解かどうかではなく、子供たちが何を感じたかを見取ることから始めることが、自由進度学習を含めたオープンエンドな学びには大切だと五木田先生。
スクールタクトではリアルタイムに思考プロセスを共有することができるため、HILLOCKでは完成品ではなくプロセスから、共有し合っています。お互いに刺激し合いながら学んでいく様子も伺えました。

HILLOCKの時間割などについてはこちら

 

本イベントでは、「自由進度学習」という手法に止まらず、何のために自由進度学習を行うのか、その際に五木田先生が大切にしていることなども含めてお話いただきました。
ぜひアーカイブ動画もあわせてご覧ください。