2025年8月27日にイベント「『対話する教室』の自由進度学習ー自己調整力を高める授業ー」を開催しました。愛媛県西条市の公立小学校教諭、山下楓馬先生をお招きし、子供たちの「自己調整力」を高めるための「自由進度学習」の実践や、その土台として大切にしている「対話」について、ご紹介いただきました。

山下先生の実践の根底にあるのは、「子供たちの将来の幸せのために、自分で自分の学びをコントロールできるようになってほしい」という願い。子供たちを信じ、「学びのハンドルは子供が持つ」ということを、学級開きの際にクラスの子供たちにも伝えているそうです。

「対話」が全ての基盤

学びのハンドルを子供たちに渡そうと自由進度学習を始めた山下先生ですが、実践を重ねていくうちに、個別最適な学びは実現できているものの、協働的な学びに課題があると感じるようになったそうです。協働的な学び、つまり「一人一人の良い点や可能性を生かすことで、異なる考え方が組み合わさり、よりよい学びを生み出す」(※中央教育審議会「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」(答申)【概要】より)ために、山下先生は対話を通じてクラスの子供たちの間の「関係性の質」を高める必要があると考えました。

山下先生のご発表資料より、学習する組織「チーム学習」

(※山下先生のご発表資料より)

「対話する教室」を目指す山下先生のクラスでは、子供たちが日常的にチームで動き、学習しています。登校するとチームごとに座り、朝学習の時間からチームで哲学対話を行ったり、お互いの行動・思考・感情の背景にある「ニーズ」に耳を傾けることを学んだりすることを通して、対話的な風土が育まれています。

自分の意見が正しいと主張するだけではなく、相手の立場に立って共感的に耳を傾け、その上でお互いに納得できる解を創造することができるような対話レベルにクラスを持っていきたいと話す山下先生。「対話する教室」が、この後の学び合いの質へとつながっていきます。

子供たちと作る授業

では、どのようにして子供たちに学びのハンドルを渡しているのでしょうか。自由進度学習を含む実際の授業についてお話しいただきました。山下先生は単元計画を子供たちに共有し、一斉学習を行うタイミング、自由進度学習で進めるタイミングも子供たち自身が把握できるようにしています。

山下先生のご発表資料より:単元の計画を記したスクールタクトの画面

(※山下先生のご発表資料より:単元の計画を記したスクールタクトの画面)

一斉学習の授業でも、子供たちはチームで学び合いながら学習を進めます。チームの中だけで解決できない場合、山下先生は「ほかのチームに聞きに行っておいで」と促します。子供たち同士をつなぎ、チームだけでなく教室全体の学び合いへとつなげていくファシリテーターの役割を意識されているそうです。

自由進度学習のやり方も子供たちと一緒に試行錯誤しながら作っているという山下先生。自由進度学習を始めた当初は、学習内容を全て子供たちに任せるパターンと、問題を選択するパターンがありました。子供たちの声を聞きながら、現在は問題を選択する形に落ち着いているそうです。

自由進度学習の授業の中でも、チームやクラス全体で学び合います。授業の最初に立てためあてをスクールタクトに書き込むことで、他の人が何に取り組んでいるのかがわかり、学び合いのきっかけにもなっているそうです。子供たちは、「誰と」「どこで」「何を使って」学ぶかを選択し、それぞれの学習に向かい、最後に振り返りを行います。

山下先生のご発表資料より、学び合い学習について

(※山下先生のご発表資料より)

個別と協働を行き来する「自由進度学習」

ある時、自由進度学習、チーム学習に取り組む中で、「誰と取り組むか」が仲の良い人に限定されてしまっていることに気づいた山下先生は、「同じめあてに取り組んでいる人とやろう」などと声をかけて気の合う友達以外との関わりを促すことで、学び合いをクラス全体へと波及させていきました。授業のどんな時に楽しいと感じるかという子供たちへのアンケートを行ってみると、「友達と一緒に問題を解いている時」という回答が圧倒的に多かったそうです。

子供たちの様子から、自由進度学習を通して「個別最適な学び」と「協働的な学び」を行ったり来たりしながら学び合うことで、子供たちの学びが深まっていると感じているそうです。

山下先生のご発表資料より、自由進度学習における、個別最適な学びと協働的な学びの行き来

(※山下先生のご発表資料より)

振り返りの質が対話の質も高める

山下先生の学校では対話に加えて振り返りについても研究を行っています。「書き言葉の質の向上が、話し言葉(対話)の質の向上につながる」という仮説を持ち、スクールタクトの「振り返りAI分析」機能を活用し、子供たちの振り返りの質を高めることに取り組んでいます。この取り組みについて先生方で話し合ったところ、子供が自分の文章の癖に気付くことができる、試行錯誤する力がつく、子供たちの意欲につながる、などの意見が出たそうです。実際に、子供たちは自分たちで振り返りAI分析を活用して、繰り返し振り返りの文を校正しているそうです。その結果、書く文章量が増えたり、45分の授業について自分の言葉で語ることができる子供が増えてきたといいます。

山下先生のご発表資料より:スクールタクトに記入された子供たちの振り返りの一部

(※山下先生のご発表資料より:スクールタクトに記入された子供たちの振り返りの一部)

終わりに:「先生が実現したい学び」とスクールタクト

「対話」「自由進度学習」「自己調整」と先生方のご関心の高いキーワードがいくつもタイトルに含まれるイベントでした。そのためイベントの冒頭、参加者の方からはそれぞれのキーワードの関係性を知りたいという声も上がっていました。対話できる関係性を土台に、学びのハンドルを子供たちが持ち、自分で決めためあてに向かって、自分で決めた方法で進んでいく。そのプロセスで子供たちは、知識を定着させたり進化させたりする個別の学びと、自分とは異なる考え方や視点に触れる協働的な学びを行き来しながら学びを深めていきます。学習の途中で山下先生から投げかけられる「めあてに向かって進めているかな?」「方法は適切かな?」といったメタ認知を促す問いや、振り返りを通じて、自己調整力も高まっていきます。

山下先生の思いやスクールタクトを活用した具体的な実践事例、そして試行錯誤のプロセス、参考文献の紹介なども含めた盛りだくさんのお話から、対話、自由進度学習、自己調整学習、それぞれの関係性が見えてきました。

スクールタクトは、一斉授業・個別最適な学び・協働的な学びといったどんな形態の学習活動にも活用でき、それらをボタン1つで切り替え簡単に行き来することができるのが特徴です。山下先生のお話をお伺いして、「スクールタクト(ICT)を使う」ことが目的ではなく、子供たちにどんな風に学んでほしいから、子供たちとどういうクラスを作っていきたいから、スクールタクトのこの機能をこういう風に使ってみよう、と考えてくださっていることを大変うれしく感じました。

ぜひアーカイブ動画で山下先生のお話を最後までお聞きください!

また、ご紹介いただいた実践はスクールタクト活用ライブラリ実践事例として掲載しています。その中で使われているワークシートは、山下先生監修の課題テンプレートとしてすぐにお使いいただけるようになっています。ぜひ活用してみてください。

<山下先生の実践事例>

めあての設定と振り返りを工夫して学びの自己調整を促す:場合を順序よく整理して
自分の学びをコントロールしてチームで自己調整能力を育む:分数×分数

▼イベントのアーカイブ動画は以下からご覧いただけます