学校法人市川学園市川中学校・高等学校

導入前の課題
1 他のICTを導入したものの、リアルタイムで生徒の学びを把握できなかった
2 生徒の主体的な学びを促進したい
導入後の効果
1 生徒の学習進捗をスムーズに把握でき、授業での活用イメージが広がった
2 「共同閲覧モード」の活用により、生徒間で学びや考えをシェアできるようになった

学校法人市川学園 市川中学校・高等学校は、千葉県の創立85年を迎える進学校です。生徒の多くが、国公立大学や難関私立大学の進学を目指す中で、一人一台タブレットを配布。授業、ホームルーム、自宅学習でICTを導入、生徒の学習をサポートするツールとして活用している。ICT導入の経緯と授業でのスクールタクト活用方法について、笹尾弘之先生(社会・教育研究部部長)と飯高匡展先生(物理・教育研究部副部長)にお話を聞きました。

※市川学園中学校・高等学校様でご利用いただいているサービスの名称はClassiNOTEです。ClassiNOTEは、Classiユーザー用に提供しているスクールタクトの別名称です。システム上の違いはありません。
※授業風景の写真は分散登校時のものです。

段階的にICTを導入し教員の目指したい授業に合わせて活用

ーICTの導入の背景を教えてください。

笹尾:本校の生徒のほとんどが大学進学を目指しています。2020年の大学入試改革が発表された当初は、議論の中にCBT(Computer Based Testing)の活用なども含まれており、準備が必要だと考えていました。結果的にその導入は見送られましたが、これからの社会ではITを活用する力は欠かせません。遅かれ早かれ学校教育の中でのICT活用は不可欠であると考えて、2016年から現場教員主導のもと、ボトムアップで導入を図っていきました。

本校の教育を支える方針として、「第三教育」という考え方があります。家庭で受ける教育を第一教育学校で受ける教育を第二教育、そして自分で自身を教育することを第三教育と呼びます。第二教育の充実のために、授業ではスクールタクトを、ホームルームでClassiを導入しました。さらに、第三教育ではLibry(リブリー)という自学自習ツールを活用しています。

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笹尾弘之先生(社会・教育研究部部長)

ー授業での活用をスクールタクトにした決め手を教えてください。

笹尾:他のツールも試してみましたが、当時生徒が画面に書いている内容をリアルタイムに確認できるのはスクールタクトだけでした。生徒の学習進捗をスムーズに把握でき、授業での活用イメージを具体的に持つことができました。

ー導入のステップを教えてください。

笹尾:導入1年目は、特別教室3教室分にタブレットを126台用意し、スクールタクトを利用した授業実践を積み重ねていきました。なぜならば、タブレット本体の性能も含めて研究する必要があると考えたからです。各教科で一人エバンジェリスト(伝道師)を決めて、スクールタクトを活用したアクティブ・ラーニングの授業を実践していきました。国語科、英語科、社会科(地歴・公民科)が先行し、続いて数学科と理科が検討を重ねていきました。

2年目の2017年には、中学3年生にタブレットを貸与して活用をスタート。現在は紙とペンで書くことを学ぶコンセプトの中学1・2年を経て、中学3年生から高校3年生まで約1700名がタブレットを所有しています。さらに、各教室に電子黒板付きのプロジェクターを配備して、授業での活用の幅を広げていきました。

ー教科・科目によって導入のバラツキは出ましたか。

飯高:物理は、紙とペンで数式や図を書いて解いていく学習が多いです。時には、タブレットの限られたスペースの中で計算式や図を書ききれないという課題がありました。

また、理科では動画や写真を共有するのではなく、実験など実際に実物を観察する体験が大事だと考えています。五感を使って実物を見て興味関心を持ち、学びに向かう気持ちを高めていくことが重要です。とはいえ、私は今ではスクールタクトを毎時間使用しています。教科・科目の特性だけでなく、個々の教員が授業の目的に合わせてICTを活用していくことが必要だと考えています。

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飯高匡展先生(物理・教育研究部副部長)

【実践事例 物理】授業で得た知識と日常を結びつける振り返りの機能として活用

ー物理の授業ではスクールタクトをどう活用していますか。

飯高:私は物理を日常生活と関連づけて学んでほしいと考えています。そのため、授業の最後の5分間を使って、スクールタクトで振り返りシートを配信し、「日常的な事柄や既有知識と本時の内容を関連づけて、考えたことを記述する」ことに取り組ませています。例えば、「スキージャンプの滞空時間が長いのは空気抵抗が関係しているのでしょうか」と、物理で学んだことをスポーツ競技と結びつけている生徒などが出てきます。

生徒のこうした問いを次の授業の導入にもつなげています。冒頭の5分間、「共同閲覧モード」で、他の生徒のコメントを読み、考えたことを記述させます。私も授業内でいくつか振り返りを取り上げて、学びを広げていきます。こうした活動により各授業がつながりますし、生徒は他者の多様な考えと自分の考えを関連づけて視野を広げていきます

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ー実際に生徒さんからはスクールタクトを使った振り返りについて、どのような感想が聞かれますか。

飯高:わかっていたつもりでいた内容を、他者の疑問を見て改めて考えることができた」「さまざまな日常との結びつきを見て、納得する機会が複数回あり、深い学びにつながったと思う」といった意見がありました。

ーこの振り返りの手法はあらゆる授業で応用できそうですね。他に、どのような活用をしていますか。

飯高:単元の導入の時間に、物理の用語からイメージすることを書かせた上で、「ワードクラウド」の機能で整理をしています。例えば、「波」について学ぶ際に「波と聞いて連想するものをたくさん挙げよう」と促すと、「電磁波」「超音波」といった物理の用語だけでなく、コロナ禍特有の「第3波」などもありました。私が思いつかないような言葉も出てきて面白いです。スクールタクトがなければ、一人一人の考えをここまで瞬時にすくい上げることはできません。個別に指名していったとしても無難な回答に終始する可能性があります。このような導入を行うことで、生徒の関心を足がかりにした授業を展開できました

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生徒に波と聞いて連想するものを挙げてもらい、ワードクラウドで整理。生徒の生の声を可視化して共有。

少し話はそれますが、生徒が自己の内面を表現しやすい環境を作っていくことは重要だと思っています。考えていることをどんどんアウトプットし、生徒同士が授業を共同構築していく。「間違ってもいい。それが他の生徒にとっての学びにもなる」ということを知ってもらえる雰囲気を作るのにスクールタクトは有効だと考えています。

【実践事例 地歴・公民科】「共同閲覧モード」で生徒がリアルタイムで相互に学び合う

ー地理の授業ではスクールタクトをどう活用していますか。

笹尾:私が作ったパワーポイントのスライドをスクールタクトで配信し、そこに生徒が記述する問題演習をしています。これまではプリントで配布していたのですが、地理はどうしてもカラーで見せたい資料が多く、悩ましいポイントでした。スクールタクトではその問題がクリアできますし、生徒が自分の学びを蓄積していける点にも魅力を感じています。定期試験や入試前には、簡単に復習することができます


今までプリントで配布していたものをスクールタクトで配信。試験前の復習も簡単に。

もう一つ重要なポイントは、生徒同士学びをシェアできるという点です。例えば、東京大学の論述問題を配信して、それを生徒が解く活動をしたとします。生徒の解答にどんどん私が赤字でコメントを入れていくのですが、「共同閲覧モード」にしているのでクラスメイトが何を書いているのかどんな指摘を受けているのかを全員が確認できます。その添削を見ながら自ら学び、自分の解答に生かしていく。これは、まさに本校が大事にしている「第三教育」にもつながる姿勢だと考えています。こうした取り組みは、2020年のコロナ禍の休校措置期間にも実施し、遠隔で協働学習ができる手応えを得ることもできました。

ー自身の学びにつなげるだけでなく、生徒が相互に協力しながら学びに向かう姿勢も生まれていきそうです。

笹尾:そうですね。例えば、東京大学を目指す生徒たちのクラスでは、同じ目標に向けて頑張っているので、「あの子は頑張っているから、これだけの文章を書けるんだ。自分も頑張ろう」と励まされます。互いに問題へ挑戦する姿勢が見えることで、生徒同士で学び合い、モチベーションを高めていけるメリットは大きいと感じています。さらに、前年度同じ授業を受けた先輩が作成した論述が蓄積されているので、それを提示することも生徒同士の学びを加速させるポイントになると思います。

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ー公民分野でも活用は進んでいますか。

笹尾:私は法教育に力を入れています。中学3年生では、一つの事案に関して、有罪か無罪かを論理的に説明するという学習をします。「なぜ有罪と書いたのか」の理由を書くだけでなく、生徒間で有罪・無罪相互の主張を見合い、「この無罪の論理に対してどう説得したらよいかを考える」ところにまで学習を広げています。

他にも、社説を読んで自分の意見をスクールタクトに記述するといった活動も行なっています。スクールタクト導入以前は、私がチェックして、シェアしたい意見をプリントにピックアップし、生徒の人数分印刷して配るという工程がありました。その手間がなくなったことは、私にとっては大きな省力化でした。

生徒の学びの履歴のシェアや相互評価に活用し、生徒をコーディネートする存在へ

ー今後、スクールタクトをどう使っていきたいですか。

飯高:大きく2点あります。1点目は、振り返りの記述の蓄積を生かすことです。例えば、私自身が生徒の興味関心や日常生活での経験、つまづくポイントなどを捉えて授業を組み立てるのに役立てることができます。過年度生の振り返りを授業で紹介することもできますね。データの有効活用の視点です。

2点目は、生徒の学びをシェアしていくことに使いたいと思っています。休校期間中、動画を配信していましたが、観る生徒もいれば観ない生徒もいる状態でした。学校から「観てね」と伝えることも重要ですが、生徒に動画を見た感想をスクールタクトに記述させれば学習の履歴を残すことにもなるし、生徒間での学びのシェアにもなります

笹尾:私は生徒同士の相互評価に用いたいと考えています。最終的には教員が評価しますが、仲間のスピーチを聞いてそれを正統に評価するということをスクールタクト上で行なっていきたい。そのためには、生徒が評価の意味や設計を理解しなければいけませし、仲の良し悪しといったバイアスがかからないようにしなければいけません。導入には何段階かステップが必要ですが、スクールタクトの機能があれば実現しやすいと考えています。

ー学校全体として、スクールタクトを導入したことによる変化はありますか。

笹尾:スクールタクトだけの要因ではありませんが、教員の役割がティーチングからコーチングやファシリテーションへと移行していることはひしひしと感じます。生徒のアウトプットを教員がコーディネートして意見を拾い上げて議論に落とし込んでいく。スクールタクトはそれを補助する有効なツールになりうると考えています。各教員が目指す授業を実現する道具として、うまく活用していきたいと考えています。

 

学校法人市川学園 市川中学校・高等学校

1936年に開校した千葉県にある進学校。教育の基本方針として、「真の学力」「教養力」「科学力」「国際力」「人間力」の5つの力の修得を目標としています。SSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定され、リベラルアーツ教育に力を注ぎ、教科横断的な探究的な学びも重視します。

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