2025年9月25日にオンラインイベント「見取りの見取り~自ら学ぶ子供たちの支援の仕方~」を開催しました。

登壇者に東京都世田谷区のオルタナティブスクール、HILLOCK初等部スクールディレクター(校長)の五木田洋平先生を、ファシリテーターとしてフューチャーインスティテュート株式会社の為田裕行氏をお迎えし、デジタル時代においてどのように「見取り」が変わっていくかについて議論を深めました。

「見取り」のアップデートがなぜ必要か

幼稚園・小学校・中学校・高校・大学で教壇に立つ為田氏は、先生方が「見取り」を大切にしている一方で、長年の経験と勘に裏打ちされた職人芸的な側面が強いと指摘します。

しかし、ICTの普及により子供たちの学習に関するデジタルデータが容易に取得・蓄積可能となった今、「見取り」のあり方は変わってきています。本イベントでは、先生方の長年の知見を否定するのではなく、経験や勘に「データという客観的な視点」を加えることの重要性について、事例を交えて考えていきました。

「見取り」から始まる

五木田先生が目指しているのは、子供たちが自分の人生を生きられるように、支援すること。

そんな五木田先生にとって「見取り」とは、単にある学習ができたかできなかったかを見ることではなく、「今のその子」になるべく近づくことであり、毎日変化していく子供たちに近づいていく唯一の手段。見取りが的確であるほどいろいろな解釈が生まれ、選択肢が生まれると言います。

「見取りから始まる」という考え方が、自身の教員人生において核になっているそうです。

HILLOCKでの実践:子供の変容を見取り、働きかける

HILLOCK初等部での実践において、スクールタクトに蓄積される学習データから見取ることができる、ある児童の変化や児童同士の関係性について紹介していただきました。

子供の変容を捉える「見取り」

入学したばかりのころ、自信のなさを抱えていた小学1年生の女の子。当初の振り返りには「かんぜんにできる」と書かれており、「できない」ことと向き合うのを避けている様子が見受けられました。

しばらく経つと、間違うことは当たり前のことだと捉えられるようになり、「間違えたところ」から学習を始めたり、「自分にとって難しすぎたかな」といったメタな視点で学習を捉えられるようになったそうです。

このようにデジタル上に蓄積されたログから子供の変化を捉えることで、「今、学びに対してどのような姿勢で取り組んでいるのか」という深い部分まで「見取る」ことができると五木田先生は話します。

多角的でリアルタイムな「見取り」

HILLOCKでは、日々のめあてと振り返りのシートをスクールタクトで子供たち同士相互に閲覧できるようになっています(共同閲覧モード)。子供たちが「いいね」やコメントを送り合うことができるため、やりとりから自然とフィードバック文化が生まれています。たとえば、ある児童は友達から「どういう問題を間違えたか書くといいと思うよ」というフィードバックを受け、振り返りを改善していく様子が見られたそうです。

また、スクールタクトの「交流マップ」では、このような閲覧やコメントの履歴から児童間の関係性を可視化することができます。五木田先生は、交流マップのデータを毎日のように見て、自分のリアルでの「見取り」とのずれを探すために活用しているといいます。

例えば、交流マップから特定の児童間のつながりが思っていたよりも薄いとわかれば、「この子とこの子がくっつくようなワークをやってみようかな」といった具体的な計画に繋げることができます。子供たち同士の関係性ができることで、学習面での相互のフィードバックもしやすくなるためです。

経験にデータが加わることで、今まで見えていなかったことが見え、自分の「見取り」を疑うきっかけになっているそうです。もちろんデータが全てというわけではありませんが、データという別の視点を得て、自分の主観とのずれの中に新しい気づきがあるかもしれないという考え方が大切だといいます。

「見取り」にもとづいた子供への働きかけ

五木田先生の子供への働きかけは、まず「今できていること」をしっかり伝えるところから始まります。成長のポイントは小さな失敗の中に隠れていますが、子供たちにとってはできることとできないことの切り分けが難しいため、まずは小さなことでもできていることを伝え、その上で「こんなことやってみない?」とあれこれ紹介をすると言います。すると、子供自身の中に「これもできるかもしれない」という期待が生まれ、次の一歩が踏み出しやすくなるそうです。「今のこの子の状況なら、ここまでいけるのではないか」という感覚は「見取り」からしか生まれません。

また、表面的な事実だけでなく「なぜ今この子はこういう行動をとっているのだろう」と背景にまで思いを馳せたり、定点観測することでその子の傾向を掴んだりすることも重要だと言います。

データで「見取り」を深め、広げる

イベントの冒頭で為田氏から、デジタル化によって「見取り」に経験が不要になるのではなく、経験にデータから見えてくることをプラスすることで、「見取り」は変わるというお話がありました。五木田先生の実践の紹介からも、データがあること、蓄積されていることによって、先生方の「見取り」はさらに深まり、広がると捉えることができるのではないでしょうか。

スクールタクトには、先生方の「見取り」をサポートする機能がたくさんあります。

  • 個人の考えやクラスの学びの傾向を瞬時に把握できる
  • 児童生徒の考えや意見を簡単に集約できる
  • 児童生徒同士の関係性を可視化できる

データを用いた「見取り」がどのように子供たちの主体的な成長を支援するのか、詳しくはアーカイブ動画をご覧ください。

▼アーカイブ動画は以下からご覧いただけます