「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」によると、日本の不登校児童生徒は12年間連続で増加し、2024年度には小学校で13万7,704人、中学校では21万6,266人の計35万3,970人となりました。

こうした背景から登場したのが、学びの多様化学校です。現在、全国で設置が進んでいます。学校法人三幸学園が運営する東京みらい中学校(東京都足立区)も、そうした学びの多様化学校の一つです。

東京みらい中学校では、生徒たちはどのように学びを進めているのでしょうか。本校の立ち上げから携わる主幹教諭の室町翔馬先生と、スクールタクトの導入をリードし、国語科を担当するスタッフにお話を聞きました。

 

「明日も行きたくなる場所へ」-学びの多様化学校で子供たちはどう学んでいるのか

―東京みらい中学校は、どのような特徴を持った学校でしょうか。

室町:全国的に不登校の子供たちが増加しています。学校法人三幸学園東京みらい中学校は、こうした不登校を経験した子供たちが学ぶ「学びの多様化学校」として2024年4月に開校しました。三幸学園はミッションを「困難を希望に変える」と掲げ、私たち教職員もまさにそれを目指して、日々の教育活動にあたっています。

学びの多様化学校は、中学校の場合には年間1,015時間必要な学習時間を約3割程度減の再編成が文部科学省より認められた特例校です。フリースクールと間違われることもありますが、いわゆる一条校の学校です。

現在、さまざまな学びの多様化学校が登場していますが、本校は1,015時間から775時間に授業時数を再編し、まずは登校ハードルを下げながら、一人ひとりの生徒が授業や行事を頑張っていくことができるようになることを目指しています。

学びの多様化学校として、2024年東京・足立区に開校した東京みらい中学校


―生徒たちが安心して学べるようにどのような工夫をしていますか。

室町:小学校1年生から6年生までの6年間、不登校を経験した子もいれば、6年生の1年間だけ学校に行けなかったという生徒もいます。本校にとって、多様な子供たちに合わせた学びを実践していくことは大前提です。

重要なことは、これまでの「学校の当たり前を疑う」ということではないかと思います。見えやすいところでは、教員ではなく「スタッフ」と呼んだり、制服は自由だったり、生徒たちの心理的安全性を実現していくために、ほかの中学校では当たり前とされていることを見直しています。多くの学校では、もし遅刻したり校則を守らずに登校してきたら注意をするでしょう。しかし、本校ではまず登校したことを褒めることから始めます。子供たちが気持ちよく学校に来られることを重視していったときに、転換をしなければいけないことは多々あると感じています。

ちなみに、どの生徒も本当に優しくて、他者を受け入れる素地が備わっている子たちが多く、誰かが困っていると、みんなが集まってきて対応するようなこともあります。

主幹教諭の室町翔馬先生

国語科スタッフ:私はもともと通信制高校で教員をしていました。前任校でも不登校の生徒と接していましたが、対象が中学生になったことで、高校生とはまた違った不登校の原因や悩みがあることを知りました。

高校生でも不登校の原因を自分で捉えて語ることは難しいですが、学齢が下がるとなおのこと、自己分析力や語彙力の面から何に苦しさを抱えていたのかを言葉で伝えるのがより困難だと感じます。

室町:不登校になった原因も分からないけれど、来られるようになったのがどうしてかも分からないことが多いです。中学2年の段階ではなかなか学校に来られなかった子が、3年生になって毎日学校に来るようになりました。先日、担任とその生徒が三者面談をした際に、「どうしてそんなに頑張れるようになったの?」と聞いたところ、その子が「分からない」と言っていたのが印象的でした。

原因が分かればそれを取り除いたり、環境を整えたりすることはできるかもしれませんが、実際はそんなに簡単ではありません。何が正解かは誰も分からないので、常に悩みながら、スタッフ間で話し合い、ベターな方向へと手探りで進んでいっています。

―ちなみに、先生方も多様な方が集まってきているのでしょうか。

室町:三幸学園のグループ内から異動してきた教職員もいれば、公立の小中学校、私立の中高一貫校、あるいは海外の日本人学校など多様な学校で働いた経験がある教員がいます。全員が「不登校問題に真剣に向き合いたい」と思い集まってきているので、情熱を持って臨んでいます。

1年生は1クラスで4人、2年生2クラスで7人、3年生は2クラスで6人の教員が関わり、常に生徒情報を共有しながら、対応を検討しています。常駐しているスクールカウンセラーやソーシャルワーカー、2名の養護教諭も入りながら、学年会などで生徒たちへの対応を協議します。

 

生徒を支援する2つの特徴的な教科

―東京みらい中学校ではどのような学びを実現しているのでしょう。

室町:安心して登校したり学びに向かっていったりすることが大前提ですが、生徒たちの中学校3年間の先には高校進学などの進路も控えています。進路を見据え、人と関わる力を身に付けられるような教科を設定しています。こうした学びは学校でしか身に付けられない学びだとも考えています。

こうした背景から、本校では2つの独自の時間を設けています。一つは朝と帰りの時間に設けている「マイタイム」。生徒の自主性や自立性を育んでいくことを目的に、自分の弱点に関する自習や学び直し、読書など、自分で内容を選択して行っています。夕方にも15分のマイタイムがあり、そこでは「今日、自分がどの教科をどのように頑張ったのか」「嬉しかったことは何か」といったことを振り返ります。

もう一つはSST(ソーシャルスキル・トレーニング)の時間です。この時間では、①自分の将来について考えるキャリアデザインと、②ライフデザインとして、聞く練習や話す練習など、人との関わり方を学んでいます。②は一般的なSSTの内容かと思いますが、①に関しては仕事に対する関心を醸成したり「大人になることは楽しそう」という感覚を育んだりする時間として重きを置いているのです。われわれの法人内に専門学校と大学、短大、通信制高校が揃っているので、そうした強みを生かしながら実現している学びだともいえます。ほかにも、本校と縁のある建設会社や証券会社、JICAの方などに講演をしていただいたこともありました。

東京みらい中学校の時間割例(東京みらい中学校公式サイトより)

 

「見えることが安心に」。見通しを持った授業展開で生徒の安心感を醸成

教科の授業はいわゆるほかの中学校と変わらずに行われているのでしょうか?

国語科スタッフ:1日5コマ、金曜日だけ4コマで、ほかの中学校と変わらない雰囲気の授業スタイルになっていると思います。ただし、進度をゆるめたり、何かしら楽しめる活動を入れたりする工夫は大事にしています。例えば、理科であれば実験を中心にして体験的に学べることを重視しています。

不登校期間が長く勉強に苦手意識を持っている生徒も少なくないので、私が担当している国語の授業では授業冒頭によくアイスブレイクを実施しています。アイスブレイクでは、インタビューゲームやNGワードを避けてお題の言葉を伝えるゲーム、ことわざクイズ大会、古語単語クイズ大会、漢文クイズ大会などをペアワークやグループワークで取り組みます。クラスメートと関わり合いながら楽しく答えを探すことは、学校ならではの学びです。一人で集中することも、もちろん尊重しますが、こうした人と関わり合うからこそ得られる学びの機会も提供したいと考えています。

“遊びの中に教科の学びがある活動”をいかに組み込むか、本校のスタッフの腕の見せ所かもしれません。実際にアイスブレイクを楽しみにしている生徒も多く、授業に参加するか迷う生徒の出席への後押しになることもあります。

クイズ形式のアイスブレイクで盛り上がる生徒たち

また、生徒たちが授業の見通しを持てるように、先の授業で何を行うかが分かる学習の手引きを用意しています。もし生徒が休んだとしても、現在、どの進捗にあるのかが分かります。「次に何をするか分からない授業に出るのが不安」という声もあるので、あらかじめ生徒が授業の内容を分かっていれば「この授業は面白そうだから出てみようかな」といった思いを抱きやすくなるのではないかと考えているんです。

加えて、オンラインでも授業に参加できるようにしています。自宅から接続する生徒もいれば、「チャレンジスペース」という別室で接続する生徒もいます。「教室以外にも学ぶことができる場所がある」という選択肢の存在が生徒の安心につながっています。日常的には6割ほどが教室で授業を受けて、4割はオンラインや欠席を選択しています。

 

生徒の心理的安全性と教員の負担を軽減するICT

―スクールタクトを導入した背景を教えてください。

国語科スタッフ:スクールタクトはまなびポケット(※)のパッケージとして導入しました。導入の背景としては、リアルタイムで生徒の学習状況が把握でき、教材テンプレートが豊富にある、先生メモ機能の存在、チャット機能、AIでの振り返り機能なども大きかったです。必要とする機能がすべて揃っていたことが決め手となりました。さらに、ホームページを見ていると常にアップデートが繰り返されていて、ユーザー目線で開発が行われている点も好印象を持ちました。

また、私は高校の教員だったので、中学校の教材を作るのは初めての体験。教材テンプレートが充実していることで負荷の軽減にもつながると考えました。また、分かりやすいUIは、生徒のストレスを減らす面でも有効だと感じています。

※NTTドコモビジネス株式会社が提供する学習eポータル https://manabipocket.ed-cl.com/

室町:授業にリアルで出ている生徒もオンラインで参加している生徒も両方を大切にできるツールだと感じています。動作が早くリアルタイムでライブ感を持って生徒を見取ることができることは大きなポイントです。

―現在の活用状況を教えてください。

国語科スタッフ:全教科でスクールタクトを使用し、教材配布を行っています。主に板書で授業を行うスタッフも、その日書いた板書を写真に撮ってスクールタクトにアップしています。学びに空白ができることで学校から足が遠のくこともあります。休んだ生徒向けに、板書の写真を載せたり、「先生メモ」機能でワークシートの模範解答を載せたり、参考資料を共有することは本校にとっては不可欠な配慮です。

また、さまざまなツールに情報が分散されていることが大きな負担になる生徒もいます。そのため生徒には「授業で必要なものはスクールタクトにあるよ」と伝え、情報を極力集約させるようにしています。そのため、全員がスクールタクトの基本機能は使える状態となっています。そして、授業内容に合わせ、さまざまな機能の活用にチャレンジしています。

 

学びの選択肢や匿名モード機能の活用で、生徒の自信を積み上げる

―実際のスクールタクトの活用方法を教えてください。

国語科スタッフ:私は国語科担当なので、例えば作品の読解を行う際に、スクールタクトでワークシートを配布し、本文の要約文の空欄補充などを行っています。遠くのホワイトボードと手元のタブレットとの視線の往復や、字の見えにくさに疲れを感じやすい生徒もいるため、先生メモに板書の内容を必ず載せ、リアルタイムで共有し、一番後ろの席の生徒もオンラインで参加している生徒も見やすいように工夫しています。

先日は、孟浩然の漢詩「春暁」を読み、詩の内容を理解するため、「起承転結」の情景を4コマにする取り組みをスクールタクトで行いました。絵が得意な生徒はイラストを描いたり、AIイラストなどを活用して仕上げたりする生徒もいます。
また、こうした成果物については、一人で仕上げてもいいですし、グループで取り組んでもいいと伝えています。学び方や成果物に対し、選択肢の幅を広げることも意識して授業を作っています。

好きな手法での表現がアウトプットを活性化。生徒の理解状況がつかみやすくなると言う。

また、協働学習と個別学習の両立も目指しており、なるべく辛くならないように配慮をしながら、最近では単元内自由進度学習にも挑戦しています。例えば、「論理を捉えて」という単元で「モアイは語る」という文章を読むと、「①本文から根拠を読み取る」「②意見文を書く」という2つの取り組みが出てきます。その際に、1人で進めるか、クラスメートと教え合うかを選び、自分のペースで進め、完了したら進捗リストに丸を付ける仕組みを作りました。

基本的に、国語では他者参照をする場面では必ず匿名表示にした上で、「この意見、とてもいいね」「こんな回答があったよ!」などと共有をしています。これは一般的な学校でもそうだと思いますが、たとえ褒められることであっても氏名を出してほしくないと思っている生徒はいます。そうした抵抗感を持っている生徒への配慮として、匿名モード機能を使っています。匿名で紹介できることもスクールタクトの魅力です。

「個」を尊重しながら、他者との学びを深める。匿名モード機能が欠かせない存在になっている

自信がない生徒こそ、まずは匿名でみんなの前で意見を褒めることで、自己肯定感を醸成していくことができるのではないか、と考えています。また、スタッフがリアルタイムで生徒の意見を拾うことで、「スタッフは自分の学習の頑張りをしっかりと見てくれている」という気持ちを持ってくれるのではないか、とも考えています。

匿名モード機能によって、子供たちのストレスを軽減しながら、過度に目立たずともスタッフやクラスメートに認められる環境が醸成できているのではないかと思います。小さな自信の積み重ねが心理的安全性につながり、この科目を頑張ろう」という思いにつながっているのではないか、と思います。

―オンラインで入っている生徒もリアルタイムで参加できる点も大きなポイントですね。

国語科スタッフ:自宅や別室からオンラインで参加している生徒に対しては、ついてこられているかや、指示が伝わっているかなどが常に不安なものです。しかし、スクールタクトに書き込んでいれば、その様子がリアルタイムで分かるので「授業に参加しているんだな」ということが把握できます。

反応がない子に対して、「大丈夫そう? 今、ここをやっているよ」とチャットで伝えてサポートをすることもあります。一覧で進捗を見ているので、教室で参加している子もオンラインの子も両方に声かけができる点は非常に大きいです。

―実際にスクールタクトを使用して、現在はどのようなことをお感じでしょうか。

国語科スタッフ:スクールタクトでは過去の授業内容を遡れるので、「休んでしまった」という負い目を持っている生徒に対して、「前回はこれくらいまで書いて終わったよ」「ここをメモしたら次回の授業には合流できると思うよ」といった具体的な声かけをすることができます。不登校を経験した子供たちにとって、いつからでも復帰できるということは大きな安心感だと思っています。

室町:SSTのチームビルディングの時間などでも、スクールタクトの共同編集機能を使い、「みんなで作っていく場」を作りやすいと感じています。教室にいてもオンラインにいてもリアルタイムで参加でき、学校という場で協働する体験ができることは非常に大きなメリットです。これからも、生徒たちが安心して学べる場を日々作っていきたいと思っています。スクールタクトはそのために不可欠なツールだと実感しています。


不登校の理由は、本人にすら分からないこともあります。だからこそ、原因の特定だけに奔走するのではなく、これまでの「当たり前」を疑い、学びの中の小さな「不安の芽」を取り除きながら、子供たちの変化を見守っていくことも必要なのかもしれません。スクールタクトは、そのための有効な手段です。

東京みらい中学校の実践は、特別な教育課程だけでなく、通常学級や別室登校支援、さらには学校を休みがちな子供への「合理的配慮」としても応用できるヒントが詰まっています。こうした配慮を日常の学びの中に組み込んでいくことが、不登校を未然に防ぐ一助にもなるのではないでしょうか。

「先生が見ていてくれる」「目立たずにも認められる」「休んでもいつでも戻れる」。そんな安心の積み重ねの先に、子供たちの「明日もまた、行きたい」という言葉があるのだと感じました。

 

学校法人三幸学園 東京みらい中学校

所在地
東京都足立区

Webサイト
https://jhs.sanko.ac.jp/