【対談レポート】オンラインでも自ら学ぶ子どもたちの育て方 前編

  2021年8月16日  

秋山貴俊先生、蓑手章吾先生をゲストスピーカーにお招きした『【出版記念対談】 教師はICTを使った指揮者<コンダクター>!~オンラインでも自ら学ぶ子どもたちの育て方~』

大盛況に終わった当日の様子を、前編後編に分けてインタビュー形式でご紹介します。

イベント概要

約1時間半にわたって行われた本イベントでは、秋山先生、蓑手先生が進めている新しい取り組みについて伺いました。
2020年春に休校措置が取られた際の対応や、ICT教育の特徴や大切にしていること、活用例など多岐にわたってお話しいただいています。
お二人に共通していたのは、紙とICTの長所・短所を把握し、子どもたちのための教育を常に模索していることでした。

動画でご覧になりたい方は、YouTubeよりご覧ください。

 

登壇者紹介


※ 蓑手先生はイベント後の現在、理想の学校を設立すべく、来年2022年4月開校予定のHILLOCKのスクールディレクタ(校長)を務めていらっしゃいます。

対談の様子

本ブログ前編の対談では、2020年春からの休校対応やICT教育の特徴、大切にしていることをお伺いしています。蓑手先生の「学びの楽しさを取り戻す」お話や、秋山先生の「デジタルでのコミュニケーション」への考え方は必読です。是非ご一読ください。

ーー2020年春の休校対応について

後藤:まず最初に、何年生の担任を持たれていたのか、休校対応時の状況などを教えてください。

秋山:そうですね、休校対応となった昨年は小学校6年生を担任していました。本校のICT環境は少々特殊で、私のクラスだけChromeBookが40台ありましたので、休校になりそうなタイミングで児童に持ち帰ってもらいました。今年担任をしている3年生には、必要に応じて貸し出している状況です。

蓑手:私は昨年5年生の担任で、そのまま持ち上がりで現在は6年生の担任をしています。休校開始当初は端末の貸出が出来なかったのですが、徐々に貸し出せるようになっていきました。現在は小金井市全体の決定で、端末の貸出ができなくなっている状態です。

後藤:そうなんですね。では、蓑手先生がオンライン対応をされていた時期は、具体的にいつ頃でしょうか。

蓑手:一応、(2020年春の)休校が終わるまではZoomを活用し、オンライン対応をしていました。ただ現在も「宿題はオンラインで提出していいよ」と伝えていて、児童の半分弱はオンラインで提出していますね。また、Zoomを使って、学校に来られない子と教室とを繋ぐこともしています。

後藤:秋山先生はいかがですか?

秋山:ちょうど1年前の休校初日からZoomやスクールタクトを使ったオンライン授業を実施していました。6年生が卒業し、3年生の担任になったあとの5月頃から6月末までは完全にオンラインのみでした。
休校期間が終了した後も、学校の中でICT端末を使ったり、長期休みには持ち帰らせて週に一回のフィードバックを求めたり、毎日インターネット上での課題を出したりしているので、ずっとオンラインといえばオンラインな感じです。

後藤:去年の3月~1学期あたりは、小中だけでなく高校も含めてオンライン授業を行っている学校が多くありましたよね。
オフラインに戻ると”いつもの学習”に戻ってしまう先生方が多い中、お二人は継続して新しい取り組みを進めていると思うのですが、休校前後でなにか変化はありましたか?

蓑手:休校時にZoomの使い方がわかったので、オフラインに戻った今も同じ教室内にいながらZoomを使ったりしていますね。そうすると、たとえば外部講師の話を聞くときなど、1つの画面をみんなで見る時よりも子供たちの主体性が出てくる効果がありました。また、チャットならたくさん喋れる子がいるのでチャットを活用したり、学年合同での授業を体育館に集めて行うのではなくZoomを使ったりと、新たな可能性を感じますね。

秋山:現在担任をしている3年生はオンラインから始まっているので、なにごともオンラインの方がスムーズなんですよね。なので、全て紙にするよりは、目的に応じて使い分けています。みんなで意見を共有したり、考えをまとめたりするのはデジタルのほうがやりやすく、もちろん一部紙に戻ったものもありますけど、オンラインがやりやすいものはオンラインのまま残っているという感じですね。

ーーオンライン授業・ICT教育の特徴について

後藤:先ほど蓑手先生の話にありましたが、オンラインの特徴として、クラスという単位で区切る必要がなくなる点があると思います。学年合同での取り組みは今も継続して行っているのですか?

蓑手:そうですね、そもそも前原小では、休校前からスクールタクトで朝の会「朝ノート」を行っていました。朝ノートとは、その日の健康状態や、昨日の出来事、今日楽しみなことなどを書きあってコミュニケーションをとる、という取り組みです。朝ノートに取り組み始めた当初はクラス単位で行っていたのですが、昨年担任した5年生は(コロナ禍前の2019年4月)当初から学年全体で行っていました。
なので、休校時のオンラインでの取り組みも、必然的に全て学年合同になりました。その後、クラス替えもありましたが、みんなお互いに知っているので、クラスはあって無いような感じがあります。

秋山:本校はまだ1人1台環境が整っていないので、(1人1台環境となる)来年度からは学年合同の取り組みも増えると思いますが、今は基本的にクラス単位で行うことが多いですね。

後藤:少し話が変わりますが、一般的に「ITを学校教育で使う」というと、”AIドリルで速く学べる”といった「学力」という観点もあると思います。しかし、お二人の実践は学力面もさることながら、学級経営といいますか、グループエンカウンターやソーシャルスキルといった「子どもたちが主体的に学びにいく」ところにITを使っているのが特徴だなと思っているのですが、その点で心がけていることを教えてください。

蓑手:そうですね、私はICTで学力をバリバリ上げたいというわけではなく、どちらかというと本人の学びやすさを保証してあげることが一番純粋で持続可能な学びの形だと思っています。
「授業についていける/いけない」「褒められる/怒られる」といった、学校にある学びを嫌いになってしまう要素を取り除いてあげれば、基本的に学びは楽しいはずだ思っていて、それを私は「学びの楽しさを取り戻す」と表現しています。学びの楽しさを味わわせなきゃいけないと思うと、パフォーマンス的な授業になりがちなところもありますが、本来学びそのものに楽しさは全部含まれているはずなので、それ以外の要素を取り除いて学びやすくできる実践を日々模索しています。

秋山:そうですね、私も蓑手先生のおっしゃる通りだと思います。あと、私はコミュニケーションをとるということを意識しながら活用していますね。クラス全員が一人ずつ発表すると、それだけで多くの時間がかかるし、全員が全員とコミュニケーションをとれているわけでもありません。しかし、ICT、例えばチャット機能などを使うと、普段あまり話さない子とのコミュニケーションや、”意図しない衝突”も生まれます。子どもたちが大人になるにつれ、デジタルでのコミュニケーションは絶対増えていくと思うので、そういったコミュニケーションを安心して体験できる場が学校にあることが大切だと考えています。

ーーオンラインやデジタルでのコミュニケーションについて

後藤:今の秋山先生のお話は、私がスクールタクトを作る際に考えていることにつながる点なので、少しお話しできればと思います。
例えば何かの課題を出したとき、先生が机間巡視をしたり、手を挙げた児童を指名したりして、一人の児童に発言してもらうことが通常だと思います。その時、発言者以外の児童がきちんと聞いているかはコントロールできません。私はそこに課題感をもち、「みんなが主役になるためにはどうすればよいか」を考えています。そこで、先生が選んだもの、加工されたものを見せるのではなく、児童が自身で選んでコメントしていく、興味関心を持つようになることを目指してコメント機能を設計しました。
このコメント機能はお二人もよく使っているかと思いますが、どのように捉えていますか。

蓑手:コメント自体を好きでしている児童が多い印象ですね。子どもたちから「コメントしていいですか?」と聞かれて、「いいよ」と答えると、自分の気になったものや、友達の作ったものにコメントしあっていることはよくあります。お互いにいろいろ見ているな、ということを感じますね。

秋山:回答一覧をコメント数順に並べ替えることができるので、「コメントが多い子から発表」とすると、「こういうことを書くとコメントがたくさんもらえる」などを学んでいきます。また、はじめのうちは注目するようなものへのコメントが多かったりしますが、使い続けているうちに内容を見て「教科書以外のことが書かれている」など、どのような回答にコメントを付けたら良いのかも育っています。そうやって、資料や他人が作ったものに対する見方が養われていくので、コメント機能は面白いなと感じています。

後藤:確かにそうですね。コメント機能は、先生によっては「喧嘩がおこる」とか「変なことを書かれたら困る」という理由から、禁止してほしいという声が出ることもあります。
ただ、さきほど秋山先生もおっしゃったように、最初は荒れることもあると思いますが、一度乗り越えると「共感してもらうためには」を考えていきますよね。紙で回答を提出し、先生=わかっている人からしかフィードバックをもらえないところから解き放ちたいという思いがあるので、非常にありがたい意見でした。

ー後編へ続くー

後半では、より具体的にどのようにスクールタクトの機能を授業で活用していたかをお伺いしています。また質疑応答部分にて、アナログとICTの使い分けや、これからICTを使っていく先生へのメッセージもありますので、ぜひ続けてお楽しみください。

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