大島指導主事

栃木県宇都宮市では、NTTコミュニケーションズが提供するクラウド型プラットフォーム「まなびポケット」と端末管理ツールをパッケージ化した「GIGAスクールパック」を導入しています。2021年3月に宇都宮市すべての小中学校で児童生徒に端末が行き渡り、GIGAスクールパック経由でスクールタクトの利用も始まりました。

今年度は本格的な活用を進めるとともに、ICTを活用することで「授業が変わること」を伝えていく一年にしたいという宇都宮市教育委員会の大島指導主事。現在のICT活用状況やスクールタクトの活用についてお話を伺いました。

GIGAスクールパックの「スクールタクト」がChromebook導入の後押しに

―2020年度から全国の小中学校でGIGAスクール構想が急ピッチで進められていますが、宇都宮市ではどのような構想を立てていますか?

大島:宇都宮市ではGIGAスクール構想の推進のため市独自のGIGAスクール構想の実現イメージを示しています。ステップ1〜3までの3段階の目標があり、ステップ1では『すべての児童生徒、教職員が1人1台端末を文具の一つとして、授業の内外で日常的に活用できるようにする。』ステップ2では『協働学習ソフトなどを活用した授業を行えるようにする。』ステップ3では『教科の学びをつなぎ、社会課題の解決に生かす。』という目標設定を掲げています。


宇都宮市GIGAスクール特設サイト「宇都宮市におけるGIGAスクール構想の実現」より。

宇都宮市には小学校が69校、中学校が25校ありますが、2021年3月にすべての小中学校で児童生徒に端末が行き渡りました。文具の一つとして活用していくために、まずは写真やQRコードの読み取り、検索など簡単なことから始め、端末に慣れることに重点を置いてきました。2022年5月時点では、多くの学校がステップ1の段階にいます。一方で、ICTが進んでいる一部の学校では、ステップ2の1人1台端末を活用した協働学習にステップアップしつつあります。これだけの学校数があるので、学校や教職員によって、どうしても取り組みに差が出てしまうというのが課題ですが、その差を解消していきたいと考えています。

―スクールタクトを導入された経緯を教えてください。

大島:2020年の前半、多くの自治体がそうであったように、宇都宮市も1人1台端末のOSを何にするかで悩んでいました。

選定委員会を経て、NTTコミュニケーションズのGIGAスクールパックによりChromebookを導入することが決まりました。このGIGAスクールパックにスクールタクトが含まれているのですが、優れた協働学習支援ツールであるのはもちろんのこと、縦書きに対応できないGoogleドキュメントの短所を補うことができるのも導入の要因となりました。

またこの時点で私たちは小金井市のスクールタクト活用事例も聞いていましたし、クラウドのよさを集約したようなChromebookこそGIGAスクール時代の端末にふさわしいと考えていました。

導入後は2021年から少しずつスクールタクトなどの利用が始まっていき、体制が整っていくのはうれしかったです。

スクールタクトを使った「振り返り」で子ども同士の交流が活発に

―スクールタクトはどのように活用されていますか?

大島:最も効果的に活用されていると感じるのが「授業の振り返り」です。今までの授業では、授業の最後に児童生徒が振り返りの文章を書き、それを回収した後で教師が読み、一人一人にフィードバックするという流れでした。それが、ICTを活用することによって、教師が児童生徒の振り返りを瞬時に把握できるだけでなく、児童生徒が振り返りをお互いに共有できるようになり、いいねボタンで賛意を示したり、意見や感想を送り合ったりすることができるようになりました。

以前は先に書き終えた児童生徒は時間を持て余していましたが、自分が書いた後に友達の感想を読んだり、コメントをつけたりすることができるので、振り返りをさらに進化させることができるようになりました。それによって授業が活性化し、デジタル化のミッションである「学習者主体の学び」に近づきつつあると実感しています。

―一方で、現時点で課題はありますか?

大島:ICTを積極的に活用することで、学習者を中心にした授業へと変換できているのは、まだ一部の教職員に限られています。ですが、「ICTを活用して行こう,授業を変えよう」という動きが少しずつ出てきていると感じています。その入口として、スクールタクトが活躍しています。9000点以上用意されているテンプレートはさまざまな場面で活用できます。これまでの授業の中にそのまま組み込んで使う人もいれば、一部アレンジする人もいます。日常的なICT活用を目指す教職員が、最初に挑戦する協働学習支援ツールとしてスクールタクトの多様なテンプレートは大変役に立ちます。

スクールタクトのテンプレート画面
スクールタクトのテンプレート画面

ただ現状は、まだ紙でやっていたことがデジタルに置き換わっただけという実態もあります。宇都宮市がICT導入により目指すところは授業の変革です。進んでいる学校では、授業の予習は児童生徒各自が家庭で行い、授業はそれらを生かした協働的な学びを中心としたものに変わりつつあります。こうした学校間の差をなくしていくために、市では25名のICT支援員をおおむね4校に1人配置し、児童生徒・教職員の端末操作支援や授業支援などをサポートしています。ICT支援員は月に一度集まり、各校から上がった声や課題を共有し合い、改善につなげています。

主体的な学びに必要なのは“安心感”

―スクールタクトを導入されてから、生徒に何か変化はありましたか?

大島:やはりスクールタクトを使っての「振り返り」の効果は大きいですね。振り返りをすることで、子ども同士の交流が盛んになり、「笑顔が増えた」と感じています。特に高学年になると、先生からの評価をもらうよりも、友達から「いいね!」や感想をもらうほうが嬉しいみたいですね。こうした活動を通じて、普段はあまり一緒にいない友達ともコメントのやりとりができ、学級の中で認め合う雰囲気作りができてきています。それが学校生活への「安心感」につながっているように感じます。

先生が「仲良くしなさい」と言うよりも、子どもたちの中で自主的にできたつながりのほうが「安心感」を得られるのだと思います。どんな考えや感想を持ってもいいんだ。そう思えるから主体的な行動ができるようになる。こうした交流から生まれた「安心感」の先に「主体的な学び」があるのだと感じています。

大島指導主事
宇都宮市教育委員会 教育センター 副主幹・指導主事 大島昌幸氏

―今後、スクールタクトにどのようなことを期待されていますか?

大島:学習履歴だけではなく、子どもたち同士のつながりを可視化できるようになる※ と、心のケアにも使えるようになるのではないかと考えています。

データに基づいた教育を、と言われていますが、実際にデータの解析や分析ができる教職員はごくわずかだと思います。ですが、「心の天気」というアプリが注目されているように、子どもたちの様子をもっと知りたい、と気にかけている教職員は多いと思います。まずはそういう簡単なところから始めてみたほうが、学校には馴染むのではないかと考えています。今後、それをスクールタクトが担ってくれるのではないかと期待しています。

―今年度はどんな1年にしたいと考えていますか?

大島:ICTを活用することで「授業が変わること」を伝えていく1年にしたいと思います。きれいなノートを書くことを指導し、教職員によってまとめられた板書を写せば、知識が身につくだろうというような授業は、そろそろ終わりにしなければいけません。

子どもたちはChromebookを手にしたので、教職員が教えなくても児童生徒同士が相互に学んだり、自分で調べたりすることで分かることがたくさんあります。「教える授業」から「学び合う授業」へ。1年で大きな転換が起こるとは言い切れないですが、ICTを使えば、学習者を中心に考えた授業に変わっていきます。その意義を伝えていく1年にしたいですね。

※スクールタクトでは、生徒同士のコメントのやり取りの回数などが可視化できる「発言マップ」機能がご利用いただけます。

宇都宮市教育委員会

所在地
栃木県宇都宮市天神

市内学校数
小学校69校、中学校25校

インタビュー対象者
宇都宮市教育委員会 教育センター 副主幹・指導主事 大島昌幸氏

宇都宮市教育委員会