東京都・私立淑徳小学校では2020年11月に児童一人に1台ずつiPadを導入し、日常の学習で使用を開始しました。2021年4月にはNTTコミュニケーションズが提供するクラウド型プラットフォーム「まなびポケット」経由でスクールタクトを導入しました。スクールタクト導入2年目の活用状況について、ICT担当の新井麻規子先生に学校全体の活用状況について、そしてそれぞれの授業での活用について川鍋航平先生(3年生学級担任)、中嶋亜佐子先生(図工専科教員)、田村裕子先生(情報専科教員)にお話を伺いました。

自由度の高い導入方針により各教員が自発的に活用

―淑徳小学校でのICT導入の経緯を教えてください。

新井:本校は建学の精神である共生の理念を実践するために、「感謝する心」「いつくしみの心」「創造する心」の3つを大切にしています。6年間でこの3つの心を育むために、勉学はもちろん、体験的な活動にも力を入れています。こうした体験的な学びをサポートするツールとしてICTがあると考えています。子どもたちはiPadを一人一台持ち、自宅でも使用します。またすべての教室に電子黒板と書画カメラを配備しています。


ICT担当の新井麻規子先生と淑徳小学校の児童のみなさん

―スクールタクト導入の経緯を教えてください。

新井:iPad導入時、学習の土台となるプラットフォームが必要であるという議論がなされました。本校では、3年生から「情報」の授業を設けているのですが、その授業をサポートし、放課後クラブ「淑徳アルファ」でも授業を担当してくださっているフューチャーインスティテュートの為田裕行さんに相談したところ、「子どもが学んでいる過程が見られる」「インターフェースが子どもにやさしい」とスクールタクトを勧められ、導入を決断しました。

導入に際しては、学校全体で使っていこうと方針を定めました。ただし、使い方は個々の教員に任せています。自由度を高くしたことで、個々の教員が工夫をし、活用が浸透していきました。

―導入直後、先生たちの間で活用を進めるために何をしましたか?

新井:導入時にオンライン研修を2回実施しました。その後も手厚くサポートいただき、夏休みのオーダメイド研修や活用についてのアドバイスをいただきました。また継続的に先生方がスクールタクトについて学べるよう、スクールタクトサイトに掲載されたセミナー情報を校内のグループウェアで紹介したり職員室に掲示をしたりしていました。

―先生間でノウハウを共有するようなことはありますか。

川鍋:月に1回若手の教員が集まる勉強会を開催しています。そこでの議題はICTだけではありませんが、よくスクールタクトについて「こういう使い方してますよ」「そんな使い方があるんですね」といった会話が交わされます。そこで「おもしろいな」と思った活用方法をそれぞれの教員が授業で試しています。

子ども同士の「対話的な学び」を促すツール

―川鍋先生の授業での活用方法を教えてください。


3年生学級担任の川鍋航平先生

川鍋:私は3年生の担任で、さまざまな場面でスクールタクトを活用しています。国語の授業で取り上げる『ちいちゃんのかげおくり』という物語文では、「あなたは、この物語はハッピーエンドだと思いますか。」という発問をします。これまでは、子どもたちの意見を一通りチェックした後に、教員が何名かを指名して、ノートに書いたものを発表させたり黒板に書かせたりしていました。しかし、こうしたステップではどうしても授業のテンポが悪くなってしまいます。

そこでスクールタクトを用いて、子どもたちに「ハッピーエンドだと思うなら○」を「バッドエンドだと思うなら×」を書いてもらい、その意見を記述して、その場で私がiPadでチェックをしました。これにより、効率よく子どもたちに意見をどんどん発表してもらうことができました。

―他教科でもスクールタクトは活用していますか。

川鍋:学力差があるので算数では課題が終わった子の手が空いてしまうようなことがあります。しかし、スクールタクトであれば、「次はこれ」「終わったらこの問題」とどんどん配信していくことができます。一方で、共同閲覧モードにしているので、手が止まってしまう子には「他のクラスメイトの解き方を見て学んでいいよ」と伝えます。そうすることで、ヒントを得て、前向きに取り組んでいことができます。スクールタクトは、個別最適化の学習を支援するツールであるとも実感しています。

また、コロナ禍でオンライン授業になった際にもスクールタクトを活用しました。算数の問題を解いていったのですが、オンラインでは教員がそれぞれのノートをチェックすることができません。そこでノートに書いた内容をiPadで撮影して、スクールタクトで提出させることとしました。教室外でもリアルタイムに教員が子どもたちの活動を確認できることはとても大きなメリットです。

―学級経営においてもスクールタクトを活用していますか。

川鍋:コロナ禍でもあり、欠席が長引いてしまう児童がいます。その際に、連絡ツールとしてスクールタクトを活用しました。保護者の方から「休んでいる間の学習の進度が気になる」というお声もいただいたので、授業の内容も伝えていきました。また、学級通信などのお便りも送っています。登校できなくても、教員のメッセージを子どもに直接伝えられる機会となっています。

また、夏季休暇の際には暑中見舞いをクラスの子どもたちに配信しました。これまではハガキを書いていましたが、今年はスクールタクトで送ってみたんです。長期休暇の際のコミュニケーションツールとしても活用の可能性があると感じています。

―スクールタクトを用いることで、子どもたちの学びに変化はありましたか。

川鍋:解答や意見を書く際には共同閲覧モードにして、「友達の意見を見ていいよ」と促すことで手が止まっている子が書き進めることができています。「他の人の考えを見るのも学びだからね」「見て気付くことも大事だよ」と声かけを続けていたら、最近では友達同士でお互いの書いたものを自然に確認するようになりました。「対話的な学び」というと、机をつけて話し合うようなイメージがありますが、iPadの画面上でもそれは十分に可能だと実感しています。


川鍋航平先生の授業風景

また、クラスにはすごくよい意見を書いているけれど、手を挙げる勇気がない子もいます。これまでは、教員が机間指導をしてなるべく「この意見、とてもよいから発表してね」と声かけをしてきましたが、よいものを持っているのに発表できず、そのため賞賛される機会を逃してしまっているケースは多々あったように思います。しかし、スクールタクトであれば教員がiPadの画面でクラス全員分をパッと確認でき、「○○さん、発表してね」と声かけができます。加えて、ピックアップして電子黒板に投影することもできる。スクールタクトを使うことで、これまであまり注目される経験を積めなかった子にも光が当たると感じています。

【図工】作品を展示・共有するツールとして活用

―図工の授業での活用方法を教えてください。


図工専科教員の中嶋亜佐子先生

中嶋:私は1、4、6年生の図工を担当しています。図工は基本的に手を使って作ったり描いたりすることがメインなので、スクールタクトではでき上がった作品を写真に撮ってクラス全体に共有する際に活用しています。

例えば、6年生では写生会で描いた絵に感想を添えて1人ずつ提出させました。共同閲覧モードでクラスメイトも見られますし、私も「見ているよ」という意味を込めて「Good!」など簡単なコメントを書き込んでいます。

―他の学年でも活用なさっていますか。

中嶋:4年生では、スルメイカを観察し、インクをつけた割り箸ペンで、イカを描く活動をし、でき上がった作品をスクールタクトで発表しました。2ヶ月くらいかけて行う取り組みなので、どうしても子どもたちの進度にバラツキが出てきます。そこで、イカの絵を描き終わった子どもには、2ページ目に「自分の描いたイカを自由に使って表現していいよ」と伝えました。すると、スクールタクトの切り取り機能を使って、色々な素材を集めたコラージュを作る子が出てきたり、気に入った友達の絵があれば話し合ってコラボレーションさせたりと、とても楽しい作品ができあがりました。子どもたちの進度に合わせて自由に取り組めるのも、スクールタクトのおもしろいところだと思っています。

スクールタクトを用いることで、子どもたちの学びに変化はありましたか。

中嶋:授業中はスクールタクトで提出された内容を電子黒板に投影して、子どもたちの作品をシェアしています。この時間は、それぞれの作品を見合い、認め合う機会になっているようです。

また、1週間程共同閲覧モードのままにしておき、自由に子どもたちで閲覧できるような期間も設けています。その中で、自然に他の作品へ「いいね」を押す子どもも出てきているようです。図工ではたくさんの「いいね」をもらうことを目指す活動ではないと考えているので、特に教員から促しているわけではないですが、自発的にクラスメイトを賞賛し合う雰囲気が生まれているようです。

今後、スクールタクトをこんなふうに活用したいと考えていることはありますか。

中嶋:子どもたちが自身の作品の写真を撮りためて、自分の成長を実感できるようなポートフォリオ機能として活用してみたいです。スクールタクト上で、担当教員が変わっても子どもの成長を見取るようにしていきたいと考えています。


中嶋亜佐子先生の授業風景

【情報】クラスで考えさせる問いを配信し学び合う

―情報の授業での活用方法を教えてください。


情報専科教員の田村裕子先生

田村:本校では3年生から情報の授業を行います。1学期はタイピングの練習をしますが、2学期からは情報モラルや情報リテラシーなどの内容に入っていきます。その学習の際に、スクールタクトを活用しました。授業の中では、「タブレットの使いすぎ」という課題を考えていきました。「主人公が保護者のいない間に、盗み見たパスワードでサインインし、タブレットで動画をたくさん観てしまう」という動画を観た後に、「なぜ、主人公は見続けてしまったのか」を問いかけます。それに対して、子どもたちは「楽しいから」「自分に負けたから」などの意見を書いていきます。

続いて、授業を振り返りながら「『これを追加したら、もっと自制心を持ってタブレットを使うことができる』というルールを作りましょう」という課題を設定しました。この記述も共同閲覧モードで見合う予定です。

―スクールタクトの他の機能も活用していますか。

田村:スクールタクトの○×で回答できる機能を使って、子どもたちが設問に解答していく取り組みをしました。例えば、「自分のパソコンのパスワードはきちんと管理できている」「自分のGoogleアカウントのメールアドレスとパスワードはもう覚えた」など、IDやパスワードに関する設問を用意しました。いいことと悪いことを覚えさせるというよりは、みんなで対話しながら考えてほしいというねらいから、こうした設問としました。○×方式で回答するクイズ形式にしたことで、子どもたちが楽しく考えるきっかけになったと思います。

―スクールタクトを用いることで、子どもたちの学びに変化はありましたか。

田村:共同閲覧モードに切り替えて、友達の意見を参考にしながら加筆できるような時間を設けています。全員の画面が見えたときには、「ああ、そうなんだ!」と気づきが生まれているのを感じます。クラス全体で対話的に考えるときのツールとしてとても便利です。子どもたちの学び合いを促す方法の一つとして、これからも活用していきたいと考えています。


田村裕子先生の授業風景

教員の働き方改革や保護者との連絡ツールとしての活用も視野に

―これまでの活用例をお聞きしていくと、先生方が工夫をされ柔軟に活用いただけているようですね。

新井:私自身も、試行錯誤しながら英語の授業でスクールタクトを活用しています。英語では、授業の中でよく音読をさせます。音読の発表をする際には、どうしても活発な子たちが挙手をするので、そうした子たちが目立つ機会が増えます。そうした課題意識から、自分で音読を録音してスクールタクトで提出させるような取り組みを実施しました。授業中は発言が少ない子の音読も確認できますし、中には「僕の音読どうでしたか?」とコメントをしてきた子もいて、私と子どもの間でコミュニケーションも生まれました。このように各教員が工夫をし、それぞれが効果を実感しているのが、本校のスクールタクト活用の状況といえます。

―スクールタクトが日常に浸透している中、今後の展望をお聞かせください。

川鍋:スクールタクトを「授業の実践に使う」ことは、ある程度果たされました。今後は、これまで教員の手間がかかっていた作業を解消するような働き方改革に貢献させた活用をしたり、保護者との連絡ツールとしての利用方法を模索したりしたいと、考えています。

淑徳小学校

大乗仏教精神にもとづく児童の育成を志して昭和24年に設立された私立の小学校。大乗仏教精神にもとづく「共に生きて、共に生かしあう」という「共生の心」を土台に、「感謝する心」「いつくしみの心」「創造する心」の育成を目指している。6年間でこの3つの心を育むために、勉学だけでなく体験的な活動にも力を入れている。
Webサイト:https://www.es.shukutoku.ac.jp/