茨城県牛久市にある東洋大学附属牛久中学校・高等学校は、生徒一人ひとりにChromebookを配布し、2022年からスクールタクトを導入しました。現在、各先生方の工夫のもと、活用が広がっています。導入2年目となる現状について、ICT担当者の徳竹圭太郎先生(地歴・公民科)と浅沼大祐先生(国語科)にお話を伺いました。同校における授業での実践や今後の取り組みの展望に迫ります。

 

ICTによる効果効率化で余白を生み、本質的な業務に注力

―東洋大学附属牛久中学校・高等学校の特徴とICTの活用状況について教えてください。

徳竹:東洋大学附属牛久中学校・高等学校は、「豊かな教養」「確かな学力」「未来を拓く国際力」を重視し、この3つの要素が重なり合う21世紀型の人間力の育成に力を注ぐ学校です。私がメインに受け持っている高校には、毎年、60人から80人ほどが附属の中学校から進学してきます。1学年は600人ほどで、そのうちの約250人が東洋大学に進学します。

生徒たちには全員Chromebookが配布されており、コロナ禍を機にお知らせをオンラインで届けるなどの取り組みが行われてきました。授業については、生徒間のシェアを促進して協働的な学びを実現したいという考えと、生徒の学習のログを残せるアプリケーションであるという利点から、2022年よりスクールタクトを導入しています。

浅沼:私は今年の4月に本校に着任しました。前任校でもスクールタクトを使っていたので、本校でも活用を進化させていきたいと考えています。自身の実践の幅を広げるだけでなく、私が担当する国語科においては使いやすいテンプレートをシェアするといった動きが生まれてきているので、そうした環境づくりにも注力していきたいです。

徳竹:私はICTを導入して教育が劇的に変わるというものではないと考えています。例えば、プリントの回収の手間が省けたり、個々の生徒の学習を共有しやすくなったりといった、これまで煩雑化していたことが効果・効率化するということが主たるメリットでしょう。そして、空いた余白を、本質的な生徒の成長支援に使っていく。こうした考え方を土台に、ICT活用を進めています。


ICT担当 徳竹圭太郎先生(地歴・公民科)

 

協働的な学びを実現するツールとして導入

―スクールタクトをどのような意図で活用しているのでしょうか。

浅沼:スクールタクトは、授業中にリアルタイムで教員が個々の生徒の取り組みを見て取れるここと、生徒たちがお互いに情報共有できるということに意義を感じ、使用しています。その大前提の上で、私が担当する評論文と古典などでは、それぞれに合ったスクールタクトの活用の仕方を進めています。

徳竹:私は社会システムや歴史的な出来事に直面した人々の感情・思考に関心があり、社会科の教員になりました。授業の中で、「この時代の人たちは、こんな価値観で生きていた」「この時はこういう判断をすべきだったのではないか」などの考察を交えるためには協働的な学びが不可欠です。そして、直接対話をするという方法ももちろん有効ですが、書かれた意見を読み合い、それを自身の考えに活かす学びを実現するためには、スクールタクトの活用が重要だと思っています。

私は現在、本校の教員であるとともに、スクールタクトを提供する株式会社コードタクトの教育総研にて理論的・実践的研究を行っています。教育工学が専門なので、生徒が書いたものに関して、誰が、どういうふうに閲覧したのかというログを残して検証したいと考えています。スクールタクトでは、「いいね」やコメント、閲覧履歴まで追えるので、たとえば、グループの中で閲覧回数が少なかった時とたくさんの閲覧をした時とでどちらが良い話し合いを行えたかといった検証が可能になると考えています。こうした検証を、教員の授業の設計や問いの立て方のブラッシュアップにつなげていくのです。

 

ICTは主体的に学習するための補助輪

―浅沼先生の具体的なスクールタクトの活用方法を教えてください。


スクールタクトを使って授業を行う浅沼大祐先生(国語科)

浅沼:古典の『伊勢物語』の導入部分では、スクールタクトにある投票機能を用いました。『伊勢物語』のイントロは男が恋愛に目覚めていくストーリです。高校生にとってはなかなかイメージがしにくい、あるいは思っていることがあったとしても表明しにくいテーマです。そこで、匿名となる投票機能を使って「お見合い結婚と恋愛結婚どちらがいい?」や「付き合っていた人と別れて、新しい人と結婚をしようとしたところで、前の恋人が帰ってきた。さあ、どちらを選ぶ?」といったお題に対して投票し、「こんなふうに感じた人が◯%いました」とそれぞれの考えの違いを数字で見せるような工夫をしました。

スクールタクト活用以前は、選択肢を示して「心の中で手を挙げてみよう」といった声掛けをしていたのですが、正直、生徒たちが何を考えているのかがわからないので授業の手応えは感じにくかったです。投票機能を使うことで、自分と他の子の考え方の違いに触れることができ、生徒の関心をグッと高めることができたと感じています。

―他にも古典での活用を進めているのでしょうか。

浅沼:1年生の古典の文法の授業で活用しました。古典の文法はある程度トレーニングが必要な学習です。これまでは、ノートの上方部に原文を貼って、下方部に文章を抜き出して文法を書き込むような学習を行なってきました。これをスクールタクトを用いて実施しようと考え、用法確認表のテンプレートを作って、何行何段活用を書き込めるようにしました。例えば、原文から「いふ」という動詞を赤丸でマークして抜き出し、テンプレートに「はひふふへへ」といった四段活用を書き込みます。どうやってテンプレートを活用すればいいかというデモンストレーションを動画で作成していたので、生徒たちは混乱なく学習に入ることができていました。


浅沼先生が独自に作成した用法確認表のテンプレートを使い、スクールタクトで上で古典の文法を学習。デモンストレーション動画はこちら

―他には、どのような活用を行っていますか。

浅沼:夏休みに、『羅生門』についてのポップを作成するという課題を出しました。これまでは、こうした制作物を作ると、教室の壁に展示するという流れが多かったと思います。これに対して、掲示するなどの教員の作業は多いものの、生徒たちはあまり他のクラスメイトの作品を読んでいないという歯痒さを感じていました。

そこで、今回はポップの写真をスクールタクトにアップして、匿名機能を使い、誰の作品かわからない状態で閲覧して、印象に残ったポップに対して「いいね」を押すという時間を設けました。匿名機能を用いれば、よりフラットな目線でクラスメイトの作品を読み込むことができ、成績が良い子などに「いいね」が集中するといったことがなくなります。結果的に生徒たちは多様な意見に触れることができるようになると考えています。


匿名にすることで、生徒たちはフラットな目線でいいねを押すことができる

他にも、評論の学習の際に、スクールタクトで感想を書く課題を出しました。そこで出されたキーワードを抽出して、ワードクラウドで見せるという活動も取り入れました。


感想からワードクラウドを抽出

―これらの活用は、生徒たちにとってはどのようなメリットがあると感じていますか。

浅沼:まっさらな状態で「自由に意見や感想を書きましょう」と言われても手が止まってしまう子は多くいます。そうした生徒でも、教員がフレームを示したり、共同閲覧で友達からヒントを得たりすることで、書き始めることができる。スクールタクトにはそんな主体性を引き出す効果があると感じています。

また、授業の中では古典の文法理解のようにインプットが必要な学びが少なからずあります。そうした学習にいかに関心を持って取り組んでもらうかは重要なポイントです。スクールタクトは、ビジュアル的で興味を持って取り組むことができるため取り掛かりやすく、学習の自転車の補助輪のような存在になっていると考えています。

―業務の効率化という利点はありますか。

浅沼:前任校は1学年100人ほどだったので、ノートを集めてチェックすることはなんとかできていました。しかし、現任校は1学年600人。ノートを600冊集めてきてチェックするのは至難の業だと感じていました。そこで、プリントを作ってスクールタクトで配信し、提出機能を用いることでノート提出としようと考えました。ちなみに、チェック後はスタンプを押して返却しています。

スクールタクトをプラットフォームにすることで、ノートや用紙の受け取りや出し忘れなどのトラブルがなくなりました。また、生徒が提出ボタンを押すと提出時刻が記録されるので、早い子は30分ほどで提出しているけれど、中には10日くらいかかって提出する子もいるなどの生徒の個性や状況をつぶさに見て取ることができるようになりました。こうした個々の傾向を掴んでおくことで、有効な声かけができます。さらに、国語の課題の提出が遅れる傾向がある子は、他の教科でも遅れる傾向があるので、データを基にしながら担任と適切な支援方法について話し合うことができるとも考えています。

 

学習効果の検証ツールとしてスクールタクトを活用

―徳竹先生はスクールタクトをどう活用していますか。

徳竹:歴史の学習では、個別の出来事が単体で存在しているのではなく、さまざまな事件が繋がりあっていることを意識することが重要です。こうした事件と事件のつながりを理解するために、「近代欧州・アメリカ世界の成立」の単元では相互の因果関係を矢印で結んで整理するコンセプトマップのワークに取り組みました。個々で検討した後はグループで、「こことここはつながるのではなないか」といった意見を交わし、チャートを完成。その後、グループ間でシェアをしました。

こうした取り組みにより、個々の生徒がどのような歴史認識を持っているかを可視化できました。実際のところ、グループによってかなり意見が分かれており、そこに協働的な学びのおもしろさがあるとも感じました。


黒がグループで書き込んだ線。赤が徳竹先生の解説を聞いて書き込んだ線。

また、こうした生徒の学習の記録を取ることで、教員は次の授業作りへと活かしていくことができるとも考えています。例えば「4番と5番の項目がつながっていることを理解している生徒が少なかった」ということがわかれば、次の授業では改めてその部分を手厚く解説していきます。逆もまた然りで、みんなが理解していることについてあえて時間を割いて解説をする必要はないという判断をすることもできます。このように、実践→検証→改善→実践の学びのサイクルを回していくことで、生徒の学習定着度を上げていくことができます。

―スクールタクト活用の中から取れたデータを活かして、授業改善につなげているということですね。

徳竹:そうです。スクールタクトで取れたデータをCSVで出力します。生徒が、正解していたら「1」、不正解であれば「0」と記入します。そして、正答率が高い順にソートをかけていくと、階段状に正答率を示すことができます。この面積比で全体の正答率を把握することができます。「全員が全部正解していれば、全てが青色で塗りつぶされます。こうすることで、クラス全体の理解度も把握できますし、個々の生徒がどこで躓いているのかも理解できる。この検証結果を、次回以降の授業に活かしていくのです。


正答率を示すヒストグラム

―他にどのような活用をしていますか。

徳竹:「皆さんが日本政府だとしたら、積極的に外国からの労働者を受け入れる政策を実施しますか? 受け入れを抑止する政策を実施しますか?」というマスタークエッションに対して、A・B・Cの資料を読み取って答えるジグソー法をスクールタクトを使って行いました。ジグソー法では、元のグループから離れて、Aの資料を読んでいる人たちと集まって、「この資料はこういう内容だろう」とディスカッションをした上で、元のグループに戻って、ABCの資料の考察をそれぞれ伝え合うことで答えを導き出します。


スクールタクトを活用してジグソー法を実践

スクールタクトを使用することで、生徒のポートフォリオとして学びの履歴を残しやすく、先ほどお伝えした通り、教員の授業の振り返りにもつなげやすくなります。また、浅沼先生がおっしゃっていた通り、匿名機能を使ってシェアすることで、特定の生徒に注目が集中することを避けることができます。バイアスがない状態で他の生徒の考察を読み込むため、その後のディスカッションがすごく活発になると感じています。

 

スクールタクト上で作品を作る協働学習に挑戦したい

―今後、スクールタクトを使って取り組んでみたいことを教えてください。

浅沼共同閲覧の活用だけでなく、スクールタクト上で生徒たちが相互に学び合いながら一つの作品を作り上げるという協働的な学習を行なってみたいと考えています。そして、その作品は国語の授業の中だけでとどめておくのではなく、担任や学年団に共有していきたいです。こうしたアプローチによって、生徒たちの多面的理解やスクールタクトの活用の浸透にもつながっていくことができるのではないでしょうか。

徳竹:私はスクールタクトだけでなくICTで取り組んだ学習が、生徒たちの復習の対象になっていないという課題意識を持っています。例えば、先ほどのコンセプトマップは、「これを基に論述問題を解きます。その論述問題はテストに出します」というところまで伝えて、ようやく生徒にとって復習の対象となるのです。現段階ではICTが、ノートや教科書を見返すのと同じような位置付けになっていないということでしょう。今後は、「ICTは文房具の一つである」という認識を定着させて、復習の際にスクールタクトを開こうという方向づけができるよう授業作りをしていきたいと考えていきます。

―他の先生方への取り組みの波及という点で考えていることはありますか。

浅沼:他の先生方に「自分もやってみたい」思ってもらえるような取り組みをお伝えしていく必要があると考えています。そのためには、私自身が「やってよかった」と思う挑戦を続けていくことが大切ですね。

徳竹:実際にスクールタクトに触れてみることで、先生方の中で「自分だったらこう使いたい」「この学習にはマッチするかも」といった発想が生まれてくることはよくあります。そこで、これからはクラスごとの「朝ノート」の活用など、気軽に使いやすい環境づくりを行っていくことも視野に入れていきたいと思っています。

東洋大学附属牛久中学校・高等学校

東洋大学附属牛久中学校・高等学校は、茨城県牛久市にある私立中高一貫校です。「豊かな教養」「確かな学力」「未来を拓く国際力」を重視し、この3つの要素が重なり合う21世紀型の人間力の育成に注力しています。グローバル教育とICT教育に力を入れており、海外研修や国際交流プログラムを実施しています。

インタビュー対象者:
徳竹圭太郎先生(地歴・公民科)
浅沼大祐先生(国語科)

Webサイト:https://www.toyo.ac.jp/ushiku/