文部科学省は「教育の情報化ビジョン」の中で、21世紀の子供たちには「多様性を尊重し、個に応じた教育」、「協働して新たな価値を生み出す教育」が重要と述べています。
スクールタクトでは、代表の後藤が開発を始めた2010年当初から、「学び合い」を重視し絶えず進化を続けてきました。もちろん、「学び合い」だけでなく、先生が主導する授業、「個」に応じた学び、児童生徒起点の学びなど、さまざまな学びの形に対応しています。
2024年10月27日に開催したイベント、「スクールタクトが描く学びの今と未来~汎用クラウドツールではなく、『教育に特化したツール』だからできること~」では、スクールタクトを活用した学校の「今」、そしてスクールタクトが考える未来の学びへの展望についてお伝えしました。
この記事では、当社代表 後藤の発表内容をレポートします。
1. 自己紹介
コードタクトの後藤正樹です。教育とITと音楽が私の専門です。
コードタクトという会社を経営しスクールタクトの開発を行っています。学校向けだけでなく企業向けのサービスも提供しています。
また、教育心理学の分野で博士課程を卒業し、デジタル庁で非常勤国家公務員として教育分野のプロジェクトマネージャーを務めています。
加えて、オーケストラもやっていて、指揮者でもあります。
2. スクールタクトが描く学びの今
汎用ツールを授業で使用する際の煩雑さを解決し、先生と児童生徒の負担を軽減!
今日の白杉先生のご発表にもありましたが、Googleのスライドやフォーム、スプレッドシート、MicrosoftのPowerPointやExcelといった汎用的なツールと、教育専用に作られたスクールタクトをはじめとする授業支援ソフトでは何が違うのかということを私からも改めてお伝えできればと思います。

白杉先生・後藤の対談の様子
先生の授業準備の負担軽減
先生方の授業準備の場面を想像してみてください。
Googleなどの汎用ツールは授業で使う用途で作られていないので、課題やワークシートを作るなどの授業前の準備は先生が1から行う必要があります。
スクールタクトでは、「課題テンプレート」と呼ばれるワークシートが9,000個以上(※スクールタクト公式のもの)入っています。単元に沿ったものが候補として出てくるようになっているので、目的に沿ったワークシートを選びそのまま、あるいは編集して使用することができます。
後藤の発表資料より
授業中の先生・児童生徒の負担軽減
表計算ソフトやプレゼンテーションソフト、文書作成ソフトといった汎用ツールは、表計算をする、プレゼンを作る、文書を作る目的で作られています。授業で汎用ツールを使う場合、Excelに振り返りを書いたり、PowerPointを模造紙のように使ったりと、本来の目的と違う使い方をしているので、どうしても先生や児童生徒の負荷が大きくなってしまいます。
私も授業見学をさせていただくことがあるのですが、まず先生がTeamsやGoogle Classroomで子供たちにリンクを送り、Formsで子供たちから意見を集約し、それをスプレッドシートやExcelでみんなで見て、その後に自分の考えを書こうとGoogleスライドやPowerPointを開く、といった流れを見かけます。活動時間を測るためにタイマーアプリも必要ですね。このように、複数のアプリケーションを組み合わせて行き来する必要があります。
また、Formsでのアンケートや人数分のスライド、お互いに見合うためのURL一覧表作成などの授業準備も必要です。
準備に手間や時間がかかったり、授業中にアプリケーションの行き来の負担がかかったりする点はデメリットと言えます。加えて、児童生徒が他者を参照しようとした際に迷子になってしまうケースも見られます。

後藤の発表資料より
それに比べ、スクールタクトには、アンケート形式で子供たちの意見を集約したり、クラス全体の傾向を確認したり、各自が自分の考えを書き込んだり、相互に見合ったりするなど、学校の授業に最適化された機能が搭載されています。スクールタクトさえ開けば、先生が行いたい活動をワンストップで完結できるので、先生の業務負荷を軽減することができます。
また、汎用ツールでは子供にとって大事な手書きがしづらいですが、教育現場に最適化されたスクールタクトでは、手書きも含めて児童生徒の表現の選択肢が複数あります。これも、児童生徒の負荷を軽減していると言えます。

白杉先生のご発表より、授業への参加やノートを書くことが難しかった子も、スクールタクトなら書くことができるようになった例
リアルタイム性と、個別/協働をスムーズに行き来できることの重要性
教育専用ツールの中でも、スクールタクトの特徴はリアルタイム性です。ユーザーの先生方からも他のシステムと比べて非常に評価いただいているポイントでもあるのですが、児童生徒が提出をしなくても、記入した内容がリアルタイムで反映されます。先生が子供たちの状況を瞬時に把握できることはもちろん、先生が設定すれば、子供たち同士で常にお互いに学び合うことができるのです。
一方、教育専用ツールでも、提出をしないと先生が書き込んだ内容を確認したり児童生徒同士で共有し合ったりすることができないものも多いです。

後藤の発表資料より
また、汎用ツールには先生と児童生徒のような関係性がありません。そのため、先生が児童生徒の状況を管理するということが不得意です。たとえば、先生が児童生徒同士で共有するかしないかを設定をする、個別に書き込むか皆で書き込むかを設定をする、といったことができません。
スクールタクトでは、児童生徒が相互に閲覧できない共同閲覧モードオフ、相互に閲覧できる共同閲覧モードオン、ホワイトボードのように協働で編集できる共同編集モードという3つのモードを、簡単に切り替えることができます。児童生徒の書き込みを一旦ロックし先生の話に集中することを促すことも可能です。
言ってみれば、汎用ツールでは常に共同編集モードの状態ということになりますが、スクールタクトは、先生がクラスの状況を見とり「今は子供たちだけで学ばせよう」とか「ここは先生が介入しよう」といったことがしやすく設計されています。

先生がクラスの状況を見とり、共同閲覧・共同編集のオンオフをすることができる
また、お互いが記入したテキストを分析したり、それをリアルタイムにグラフ化したりという機能があるのも特徴です。たとえば、クラス全体で多く書かれた単語が何か、クラスの中で誰が一番他の人の回答を見に行っているか、逆に参考にされているのが誰かといったことを瞬時に見える化することができます。
汎用ツールでは、一般的なアクセスログ程度しか見ることができません。

児童生徒のやり取りや一人ひとりの参加度を可視化する交流マップ機能
今後は、どんな科目でどんな課題を解いたか、結果がどうだったかなど、もっと細かいスタディログを蓄積し、分析したり、次にやるべきことをリコメンドしたりと、よりリッチにしていこうと考えています。これについては、後ほど未来の学びについてのパートで詳しくお話しします。

後藤の発表資料より
先生や児童生徒が「今」使いやすいものを選ぶべき
教育専用ソフトは有料です。汎用ソフトは実際には有料でもGIGAパッケージの中に組み込まれているため一見すると無料のような印象があるようで、汎用ソフトを使えば良いという声もあります。ただ、私としてはここまでお話ししてきたような思いがあります。
まず1つが先生に業務負荷がかかる点です。1つの授業を準備するのに20分と5分という違いがあったとして、その時間と専用ソフトの金額を天秤にかけてどちらをとるべきでしょうか。

後藤の発表資料より
また、今AIの発達など社会が目まぐるしいスピードで変化しています。そんな中で、今の子供たちが大人になった時に本当に今の表計算ソフトやプレゼンツールやフォームを使うのでしょうか。昔ガラケーだったものがスマートフォンになったように、誰にもわかりません。子供たちが大人になった時に使うツールを学校で使うべきという考えもありますが、未来は誰にもわからないのですから、私は今先生や児童生徒が使いやすいツールを選ぶべきだと考えています。
3. スクールタクトが描く学びの未来

白杉先生・後藤の対談の様子
スクールタクトが目指す世界観
- 誰がどんな活動をしてどんなことを学んだかという情報が蓄積される(活動情報)
- アプリケーションを越えて、それらを分析できる
- 活動情報にもとづいて次の学びにつなげられる
- 活動情報にもとづいて何ができるようになったかを証明できる
- いつどこにいても(院内学級や不登校など)、活動情報をベースにある程度正当に評価できる
次に、スクールタクトが実現したい未来の学びについてお話します。
スクールタクトは、「スタディログ」つまり学習者の学びの記録(主体情報・内容情報・活動情報)を蓄積することで、分析したり、次の学習につなげたりすることができる世界を作っていきたいと考えています。
誰が、どんな活動をして、どんな内容を学んだのかの記録、それも、たとえば自由進度学習の際に教科書のこの単元に関してこのドリルを解いて、その結果がどうだったかなどかなり細かいレベルでの記録が蓄積されるようになったらどうでしょう。
また、それらのデータを教科書の単元や3観点、非認知能力などに紐づけることができたら、子供たちにとっても、先生が子供たちを見取る意味でも、すごく役立つのではないかと考えています。小中高の学びの連続性や、卒業後の学びにも役立てることができるでしょう。

デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」より
そんな世界を実現させるために、必要な要素がいくつかあります。
データの標準化
一つはデータの標準化です。
データを標準化しておくことで、子供たちの学習の記録「スタディログ」を、アプリケーションをまたいで活用することができるようになります。
携帯のキャリアを変えても番号が変わらない「ナンバーポータビリティ」を思い浮かべていただくと、わかりやすいかもしれません。学習に使うさまざまなアプリから吐き出されるログが標準化されていることによって、アプリをまたいで相互に分析可能になるのです。

デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」より
パーソナルデータストア(PDS)
データを標準化した上で、大切になってくるのがパーソナルデータストア(PDS)という考え方です。
たとえば、模試を受けた結果は紙で返ってきます。データは模試を行った業者が所持し、受験者本人が持つことはできません。そのため、いくつか模試を受験して結果を分析しようと思うと、自分で表計算ソフトなどに結果を転記する必要があります。
しかし、自分が受験した模試の結果は自分のものですから、本来は自分でデータを持つことができるようになっていくべきです。そうなれば、自分がいつどんな学びをしたか、その結果などを、自分が見たいときにいつでも見られるようになります。さらに、そのデータが標準化されていれば、複数のコンテンツをまたいで分析ができるわけです。

デジタル庁「教育データ利活用ロードマップ」より
オープンバッジによる学習成果の証明
さまざまな学習記録を標準化されたデータで自分で管理できるようになると、その学習記録に則り、「自分が何ができるようになったか」をデジタルで証明できるようになります(オープンバッジ)。オープンバッジは世界共通のデジタル証明です。たとえば漢検3級に合格すると、漢検からバッジがもらえて、「私は漢検3級を持っている」ということをデジタルで証明できるのです。
その技術を使うと、各企業、あるいは先生がここまで来たらこういうことができるというバッジを出して証明する、ということが可能になります。自分の学習の記録が蓄積され、何を習得したかをオープンバッジで証明できるというわけです。私はそれによって「履修主義」から「修得主義」への転換への道すじを作ることもできると考えています。
今お話したような世界を実現できれば、不登校だったり病気で院内学級で学ぶ児童生徒の成績も、ある程度実態に沿った形で正当に評価できるようになります。スクールタクトを開発する株式会社コードタクトには、「学びを革新し、誰もが自由に生きる世界を創る」というミッションがあります。誰もが自由に学べるためにも、こういったことを支援していきたいと思っています。

誰もが、どこにいても、自由に学ぶことができる
先生の業務も効率化できる
子供たちは、いつでもどこでも学べて、スタディログの蓄積によって個に応じた自分らしい学びもできるようになるでしょう。
先生にとっても、子供たちの学習の記録が一元管理され、そこから次の学習へのリコメンドができれば業務効率化が可能です。それだけではなく、データからケアが必要な子供が見えてきたり、クラスの状況を見て「この教材だと子供たちが理解できていないようだから違う教材を使おう」といった判断もできる可能性があるわけです。
未来に向けて今取り組んでいること
ここまで未来の話をしましたが、現状スクールタクトでできることや、直近できるようにしたいと思っていることもお話したいと思います。
スクールタクトでは、学習指導要領に対応した単元を授業作成時に自動作成することができます(単元の自動作成)。また、単元と公式課題テンプレートが紐づいており、先生が1から課題を作らなくても、ボタンひとつで単元に対応した課題の作成を行うことができます。

単元の自動生成機能
加えて、裏側には「学習指導要領コード」というものが入っています。「学習指導要領コード」とは、学習指導要領の内容・単元等に16桁の数字を割り振った共通のコードのことです。
実は他にもさまざまなタグを入れることで、「このワークシートは3観点で言うと知識・技能を、このワークシートは思考判断表現の中でも思考力を扱うもの」といったことがわかるようにしたいと考えています。すると、たとえば「月と太陽という単元においてAさんは、知識・技能型の方に関してよくわかっている。一方思考は十分にできていない」といった情報が溜まっていきます。
先ほどお話ししたようにスクールタクトの裏側には学習指導要領コードが紐づいていますので、同じように学習指導要領コードが紐づいたNHK for Schoolやドリルのeboard(イーボード)と自動連携することができます。
知識技能のところで躓いているBさんには、NHK for Schoolの動画をリコメンドしたり、eboardで簡単なドリルを解いてみようと勧めたりということもできるようになるのです。

白杉先生・後藤の対談の様子
何を学習したかの情報だけでなく、スクールタクトの共同閲覧モードでお互いに見合ったり、共同編集モードで皆で一緒に考えてみるといったことに取り組んだ際に、お互いにコメントやいいねをしたログも蓄積されます。これによって「学びに向かう力」を測ることもできるのではないでしょうか。
他にも、振り返りAI分析をはじめとするテキスト分析もできるので、その結果がどうだったか、たとえば「この子は仮説検証ができているな」など、思考力のさらに細かいところを見ることもできます。
これらのことが全てスタディログとして吐き出せるので、それをもとにさまざまなバッジをつけることができるような世界観、それが学習歴としてたまっていく世界観が作れると思っていて、今1つ1つ開発を進めています。
ここまでお話してきたように、スタディログを活用していく未来を見据えながらスクールタクトの未来像を描いています。スクールタクトはできる限りデジタル庁や文部科学省の方針に準拠して、皆さんのお役に立ちたいなと思っています。
今後もスクールタクトを使って感じたことやご要望などがあれば、ぜひご連絡をいただけたらと思います。