大盛況だったイベント『【出版記念対談】 教師はICTを使った指揮者<コンダクター>!~オンラインでも自ら学ぶ子どもたちの育て方~』のレポート 後編です。
後編では、著書に収まりきらなかったスクールタクトの具体的な活用方法をお伺いしています。また、質疑応答部分ではアナログとICTの使い分けや、なぜスクールタクトを選んだのかについても語っていただいています。
そのほか、機能面ではスクールタクト開発者の後藤が機能ごとの裏にある想いを少しだけお話しさせていただいています。蓑手先生、秋山先生から皆様へのメッセージもございますので、ぜひ前編に続けてお楽しみください。
登壇者紹介
※ 蓑手先生はイベント後の現在、理想の学校を設立すべく、来年2022年4月開校予定のHILLOCKのスクールディレクタ(校長)を務めていらっしゃいます。
対談の様子(後編)
ーーワードクラウドについて
後藤:コメント機能の他に、たとえば「この機能はこう使ってよかった」「この機能は全然使ってない」などありますか?
蓑手:いいね機能は使いやすいですね。ちょっとした投票でよく使っていて、集計は回答画面をいいね順に表示しています。ワードクラウド機能はあまり使ってないので、秋山先生におすすめの使い方があれば教えて欲しいです。
秋山:ワードクラウドは観察をするときに使うことが多いです。先日も、「地域の移り変わり」という単元で洗濯板を観察した際に、気づいたことを書いてもらいました。ワードクラウドに「ギザギザ」が大きくでてきたので、みんなでギザギザについて考え始めたり、あとは、「ギザギザ」と似た言葉があると、「こういう表現もあるんだね」といった気づきが出てきます。なので、一つのものを見てみんなで考えるといったときに利用します。
▼ワードクラウド
(参考事例:道徳授業でのワードクラウド活用)
後藤:ワードクラウドは、道徳のような「答えがない問い」を投げかける時に向いていると思います。
子どもたちの回答に即座に反応して、なんらかのフィードバックを返してあげるというのが一番良いと思うのですが、クラス全員のものに対応しようとすると、大変ですし、タイムラグが発生してしまいますよね。ワードクラウドを使うと「全体はこう考えているんだね」とすぐに反応することができます。また、ワードクラウドの中心部分はもちろんですが、まわりにある小さな意見も拾いあげたいと思って作っています。
ーースクールタクトの分析系の機能について
蓑手:そうですね。道徳の授業でいうと、私もいつもスクールタクトを使っています。そうすると時系列でデータがたまっていくので、例えば「生命尊重」という同じ価値項目で、2か月前と比べて考えが深まっているかどうかなどを分かりやすく追うことができます。
後藤:なるほど、ポートフォリオのように活用しているのですね。
蓑手:はい。紙でこれをやるのはかなり大変ですよね。あと、スクールタクトのいいところは、リアルタイムでどんどん子どもが書いていくのが見えることですね。私は授業中ずっと児童の回答の様子を見て、コメントしながら授業を進めています。
友達同士で回答を見合えることもいいところですね。なかなか書き始められない子が、友達の回答を参考にして書き始められるというのが、ICTならではの良さだなと思っています。
秋山:私もポートフォリオ機能を非常にいいなと感じています。科目でソートすることもできるので、子どもたちの成長をログとして簡単に見返すことができるんですよ。ノートを写真にとってスクールタクトのキャンバスに貼ることもできるので、ノートでもデジタルでも残す工夫ができる点がいいですね。
後藤:ありがとうございます。そのほかの分析系ですと、先生だけが見られる機能に「発言マップ」というものがあります。これは、誰が誰の回答を「見たり/見られたり」しているのか、いいね・コメント「して/されて」いるのかについて、グラフやネットワーク図であらわしたものになります。こちらは活用されていますか?
▼発言マップ(graph)
(参考事例:成績評価・所見の記入への活用)
蓑手:発言マップ機能は、子どもたちも存在を知っていて、よく見せてほしいといわれるので、大画面に映して見せたりしています。誰が自分にいいねをしているのか気になるみたいです。
秋山:私の場合はスクールタクトで実証実験を行っている関係もあり、発言マップはよく見ています。相互でコメントしている子どもはもちろん、発言マップに普段に出てこない子がたまにコメントしたときに、どういうコメントをしたのかなども追いやすくなります。私の学校では3~6年生までクラス替えがないので、その中で人間関係がどう変化していくのか、先生とコミュニケーションをとっていない子が友達同士だとどういったコミュニケーションをとっているのかも見ていたりします。なので、子どもたちには発言マップがあることを伝えておらず、客観的なデータとして学級経営に活用しています。
後藤:機能の捉え方も先生によって異なるのですね。私も大学で講師をする際にスクールタクトを使っているのですが、あまり活性化していない学生を把握して指導に活かしたり、授業への参加度など評価の手段として活用しています。
ーームーブパーツについて
後藤:最後に、スクールタクトの他にない特徴として「ムーブパーツ」があります。配布前の課題で作成した図形や文字、切り取った写真などに編集権限を付加しておくと、児童が授業時に図形の移動や回転をすることができる機能ですが、使われたことはありますか?
蓑手:私はかなり使っています。漢字の成り立ちの分類をクイズにしたり、円の面積の求め方を動かしながら体感できるようにしたりといった使い方です。また、紙だと回答欄は固定されてしまいますが、私は回答欄自体を拡大・縮小できるようにしています。全体レイアウトを児童が自分自身で変更できるのがいいなと思っています。
秋山:私自身が作成することはあまりないのですが、校内の他の科目の先生が作ったパズルなどの動く課題を含む導入系の課題テンプレートを活用することがあります。
後藤:ありがとうございます。ここまででいただいたご意見を今後の参考にさせていただきます。
質疑応答
司会:ここからは質疑応答に移りたいと思います。
冒頭で蓑手先生から宿題の回収をオンラインでしているというお話があったと思いますが、その場合のチェック・丸付け・コメントなど宿題提出後の対応についてどうされてますか、という質問です。
蓑手:私の学年では”自学”と言って、自分で課題を決めて宿題をするスタイルを取っています。
始業30分前に学校に行ってスクールタクトを開くと、提出された課題がずらっと並んでいますので、児童が学校に来る前に目を通して、コメントを返しています。もちろん登校後に紙で提出する児童もいますが、量が少なく済むのでスムーズにコメントを返せます。1on1ではありませんが、個別にアドバイスや助言、励ましができるため、今までの宿題観が変わると思っていますね。
司会:次の質問です。「秋山先生と蓑手先生に質問です。アナログとICTの使い分けをどのようにされていますか?」
秋山:そうですね、今質問を読みながら直感的に思ったことをお話します。
紙は、子どもたちが自由に発想したり、強い思いをすぐに書きたいときにつかっています。あとは協働的に大きなものを作るというときです。ICTは記録としてログを残す、積み重ねるというときに使うケースが多いですね。
蓑手:私は迷ったらまずICTを使うようにしていました。気づかなかったことに気づけるためです。その中でアナログが向いていると思ったのは、覚えなきゃいけないものや、隙間時間を使うときですね。
そのほかだと、画面の大きさが限られているので、全体図を書き出しながら作業する際などは、子どもたちはノートを使っています。また、大人もそうですが、画面上だけで活動していると疲れてくるので、ちょっと体を動かしたりするときには、あえて紙を使うこともあります。
漢字は紙じゃないと覚えられないですし、計算メモも紙が便利。そのあたりの使い分けは、だんだん子どもが自分で判断できるようになってきます。
司会:子どもが自分で判断できるというのは素敵ですね。
続いて「後藤さんに個人的な要望ですが、複数のキャンバスがある時に、キャンバス別に採点や提出ができると使い勝手がよくなります」とのことです。
後藤:そうですね。よく言われることで、例えば、スタンプを押したり採点をするのをキャンバスのページごとにできるようにして欲しいというものがあります。この背景の考え方として、学習ログとの連携があります。
スクールタクトには学習ログの一つとして「成績CSVダウンロード」ボタンがあり、この機能を使うと「誰がどの課題で何点だった」という集計ができます。そこまで考えると、課題単位で整理したほうが良いかと思ってこのような設計にしています。
▼要望:キャンバスごとに採点したい
▼設計:課題ごとに採点できるように配布すると集計が楽
(参考ヘルプページ:評価確認、提出状況ダウンロード)
司会:考え方の発信が足りてないのかもしれないですね。
後藤:そうですね。「課題とは」「キャンバスとは」という部分をきちんとお伝えして、それでもご要望があるようでしたら、改めて考えていきたいと思います。
司会:続いて「先ほどの宿題の話を聞いて、宿題への認識が変わりそうです。」というコメントをいただいています。
後藤:お二方の著書を読んでいると、宿題の概念が変わるなと思いましたね。
特に秋山先生の理科の実験のページにはオンラインだと家でも実験ができるということが書いてあって、学びというものが学校と家庭でシームレスになっていることを感じました。そうすると「宿題とは何なんだ」「全てが学びでいいじゃん」と思いますよね。
司会:本当ですね。それでは、最後の質問になります。
「数ある授業支援ソフトの中から、秋山先生と蓑手先生がスクールタクトを選んだ理由を教えてください。」ということですが、いかがでしょうか。
蓑手:私はスクールタクトの導入にこそ携わっていませんが、スクールタクト自体は6年ほど前から使用しています。
使い続けている理由としては「使いやすさ」や、「こちらが望む機能を反映して常に進化いしていくところ」、そして一番は「ビジョンへの共感」です。
授業支援ソフトはそれぞれ似ているようでいて、作り手の想いによって使いやすさやユーザーインターフェースが変わって来ると思います。スクールタクトは教育や授業に対しての熱い想いがあり、そこに親和性を感じられるところが大きいですね。
司会:進化していくところ、考え方というところ、とてもうれしいですね。ありがとうございます。秋山先生はいかがですか?
秋山:私は本校の授業研究会で、前原小学校の元校長先生に講師をしていただいた際にスクールタクトを勧めてもらって導入を決めました。
導入の早い段階から後藤さんとお話ができ、ビジョンや使い方についてもフランクに相談ができるソフトだなと感じています。距離が近く、風通しの良い関係が築けるところが使い続けている理由ですね。
機能の背景が見えるので、この部分はスクールタクトを、この部分はGoogle Workspace for Educationを、といった使い分けができるのもいいですね。
今回参加いただいた方へプラスの情報としては、授業支援ソフトを導入するとクラウドベースで子どもの情報がすべて蓄積されていくんですよね。
導入後に別のソフトに乗り換えたいと思っても、それまでに溜まった情報の引き継ぎができないので、導入前ににしっかり比較検討をする必要があります。その判断基準としては、「子どもたちのために自分たちがどのような学習を提供すべきか」です。これをしっかり考えることが、授業支援ソフトを選ぶ時の重要なポイントかなと思っています。
後藤:ありがとうございます。
そうですね、授業支援ソフト一つとっても、それぞれにキャラクターがあり、たくさんの良さがあるのでその選択は難しいと思います。
スクールタクトの一つの特徴としては、教育学、教育心理学をベースにし、実際の授業者への寄り添いが一番強いものなのかなと思っています。
ーーイベント参加者へのメッセージ
秋山:本日はありがとうございました。貴重な機会を皆さんと共有できたこと、うれしかったです。
私としてはこれからも実践を研究し続けていきたいです。引き続きみなさんからも学ばせていただければと思っていますので、また素敵なご縁をいただければと思っています。
蓑手:ICTを使うことが目的ではなくて、「どういう授業をしたいのか」があることが大事ですよね。
選んだツールが、これからの教育や授業のあり方を決めていくものになるので、その選択はとても重要なんだと改めて思いました。そのような観点でも私はスクールタクトが好きで毎時間使っていますし、みなさんにもおすすめしたいと思っています。
おそらくこれからICT教材がどんどん決まってくると思います。現場の教師には決定権がないことが多いため、後悔のないよう、どんどん声を上げていくことが大切だと思います。
スクールタクトを使っていると、何年も使っているのに、いまだに新しい気づきや発見があります。まずは使ってみること、そしてそれを共有することが大事だと思います。本日はありがとうございました。