コードタクトでは、社内チームとして教育工学や教育心理学の研究をするメンバーによる教育総研を組織し、社のビジョンである「個の力をみんなで高め合う学びの場」の創り出すための理論的・実践的研究を行っています。また、それらの研究成果をスクールタクトの機能に反映し、現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めています。

 

1. 「主体的・対話的で深い学び」の実現

 文部科学省(2017)が示す『新しい学習指導要領の考え方』では、生徒の主体的・対話的で深い学びを実現するために、アクティブ・ラーニングの視点から授業改善を行うことを求めています。アクティブ・ラーニングの定義は研究者によって様々ありますが、本稿では溝上(2014)の分類を参考に、「生徒の能動的な学習」と定義しました。

 アクティブ・ラーニングに対する調査としては、以下のものが挙げられます。

①現場教員の実感について

赤堀(2017)は、アクティブ・ラーニングに関する大学生(小中高等学校でのアクティブ・ラーニングの経験を思い出して回答)及び現職教員へのアンケート調査から、大学生及び現職の小中学校教員は、グループ学習を含むアクティブ・ラーニングには思考力の育成、知識定着に効果があると考えていることを明らかにしています。

②現場教員の不安について

 しかし、キャリア教育ラボ(2018)の調査では、アクティブ・ラーニング実施上の悩みとして、授業前後の教員の負担が増加すること、授業時数の不足などが挙げられています。株式会社ラーンズ(2017)の調査では、全国の高校436校の教員を対象とした調査において、全体の36%の教員が既存の授業スタイルを変えることに対する不安を持っていることを明らかにしています。

 本実証では、こうした教員の懸念点を解消することを目的として、知識構成型ジグソー法を用いた授業と知識教授型の授業を同授業数で実施し、それぞれの授業の学習効果の違いについて検証しました。

 

2. 知識構成型ジグソー法の導入

 本実証では、アクティブ・ラーニング形式の学習手法の一つである知識構成型ジグソー法を導入し、知識教授型の授業との学習効果の比較を行います。
 知識構成型ジグソー法を導入した理由は以下の通りです。
①授業の「型」が設定されており、対話における学び合いを促進しやすい。
②既存の授業スタイルから活動型への転換を検討している教員にとっても、導入しやすい。
③資料を用意する過程で、これまで教員が蓄積してきた内容領域の専門性が活用できる。
 以上のことから、本実証では知識構成型ジグソー法を導入した授業を実践するとともに、その学習効果について検証を行いました。

 

3.実践の概要

3.1. 生徒のレディネスの確認

 学習効果を検証するにあたり、知識構成型ジグソー実施群及び知識教授実施群の生徒の前提知識に差が無いことを検証しました。事前確認問題は世界の農業に関する問題5問、世界の工業に関する問題5問、グローバル化する現代産業5問の計15問であり、すべて教科書に記載されている重要単語を答える一問一答形式で実施しています。
 知識構成型ジグソー実施群の平均正答数は12.4点、知識教授実施群の平均点数は11.5点であり、この結果についてt検定を実施し、両群には学力差が無いことを確認して実験を進めました。

3.2. 授業実践

◯対象学年と授業
 対象学年:高校一年生(知識構成型ジグソー実施群:21名、知識教授実施群20名)
 教科:地理総合
 使用教科書:帝国書院『新地理総合』
 
◯単元
 世界の産業と人々の生活

◯授業の流れ

時限

実験群:知識構成型ジグソー 

    →教員による指導無し

統制群:知識教授型授業

    →教員による指導のみ

 

・事前確認問題の実施

1

・エキスパート活動

・世界の農業と人々の生活

2

・ジグソー活動

・世界の工業と人々の生活

3

・クロストーク活動

・グローバル化する現代の産業

 

・単元まとめ問題の実施

◯知識構成型ジグソー法における生徒の活動
 知識構成型ジグソー法での授業を行った生徒には、班全体で考えるマスタークエスチョンとして、世界の南北問題が生じた理由について考えさせる問いを設定しました(図1)。

図1 スクールタクト上で生徒に配布したマスタークエスチョン

 エキスパート群の生徒には「世界の農業」、「世界の工業」、「グローバル化する現代の産業」に関する資料(図2)を配布し、それぞれの資料の内容について要約し、マスタークエスチョンにどのように関わるかを話し合わせました。

図2 スクールタクト上でエキスパート群の生徒に配布した資料 ※資料は教科書内容に関係する論文を教師が一部加工

図3 エキスパート活動中の生徒の様子

 エキスパート活動後、各班に戻ってマスタークエスチョンについて「グループごとの解答」をまとめさせた後、それぞれのグループの意見を教室全体で共有するクロストーク活動を行い、知識構成型ジグソー法の授業を終えました。

 

4. タキソノミーに基づく学習効果の検証

 知識構成型ジグソー法の学習効果を検証するにあたり、同授業で生徒がどういった教育目標を達成したのかを検証するため、Anderson(2011)の教育目標のタキソノミー(表1)に基づいた単元まとめ問題を作成し、実験群、統制群それぞれの生徒に取り組ませました。

表1 Anderson(2011)における教育目標のタキソノミー

 本実証では、知識の定着に対する教員の不安を解消すること、アクティブ・ラーニングによって思考力が身についたことを検証することを目的としているため、タキソノミーの中から認知過程の次元は「応用」まで、知識次元は「概念的知識」まで(図4中赤領域部分)を対象として分析を行いました。
 問題を作成する際には、Anderson(2001)が作成した各教育目標に対応した動詞の一覧に基づいて認知過程次元の振り分けを行い、知識次元の振り分けは「単語を答える記号的な記憶の再生」を「事実的知識」、「意味を伴う記憶、事象の相互関連性を伴う記憶の再生」を「概念的知識」として分類しました(表2)。

表2 単元まとめ問題

 知識構成型ジグソー法における学習効果を検証するため、上記の問題について実験群、統制群の点数の差について対応のないt検定(図4)を実施しました。

図4 t検定の結果 ※単元まとめ問題の得点は各設問1点で採点

 t検定の結果、知識の定着を測る「事実的知識-記憶」、「事実的知識-理解」、「概念的知識-記憶」、「概念的知識-理解」には有意差は見られませんでした。このことから、本実証で用いた知識構成型ジグソー法の授業では、知識の定着という点において、従来行われてきた知識教授型の授業との差が無いことが示唆されました。
 一方で、知識を活用する思考力を測る「事実的知識-応用」については、得点間に有意差が見られました(図4中赤枠部分)。このことから、知識構成型ジグソー法の授業を行うことで、事象が生起した理由を理解し、記述することができる思考力を身につけることができるようになったと考えます。
 しかし、複数の知識を結びつけて論を展開するような「概念的知識の応用」に関する問題については有意差が見られませんでした。実験群のうち、上記の問題に正答出来た生徒は18名中5名であり、うち3名が同グループの生徒でした。「農業」、「工業」、「現代産業」の各分野に対する「事実的知識-応用」の問題に対するジグソー群の正答率が高かったにも関わらず、複数の知識を結びつけて論を展開する「概念的知識-応用」問題において特定のグループの生徒を除いてジグソー群の正答率が低かったのは、他のグループでは資料の内容を共有し、グループごとの解答を考えるジグソー活動において、生徒間の相互作用が十分に得られず、単発的な知識の学びになっていたことが考えられます。

 

5. まとめ

 本実証では、アクティブ・ラーニングを実施することによる授業の増加に対する不安、知識の定着に対する不安を解消するため、知識構成型ジグソー法を用いた授業の提案とその効果検証を行いました。
 その結果、一般的に行われている知識教授型の授業と比べて、知識の定着には差が生じない可能性が示唆されました。また、ジグソー法を用いた授業では特定の分野に対する生徒の思考力が向上する可能性が示唆されました。
 本実証では、どちらの授業も同じ授業数(3時間)で実施しており、一般的に知識教授型の一斉授業よりも時間効率が悪いと思われがちな学習者主体の学びですが、上記の結果を踏まえると、知識構成型ジグソー法を採用した授業は時間効率の観点から見ても有用であると言えるのではないでしょうか。
 一方で、複数分野をまたいで思考する力には差が見られず、生徒間の学びの相互作用を引き起こすための手立てを今後検討していく必要があると考えます。

 

参考文献

文部科学省(2017)『新しい学習指導要領の考え方』https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/09/28/1396716_1.pdf(参照日 2022.9.10)

赤堀(2017)アクティブ・ラーニングに対する意識調査と分析
教育テスト研究センター年報、第2号、8-18
キャリア教育ラボ(2018)高校2400校の実態調査から見るアクティブ・ラーニングへの意識と効果
https://career-ed-lab.mynavi.jp/career-column/220/(参照日 2023.1.10)

株式会社ラーンズ(2017)「アクティブ・ラーニング」の指導方法についてのアンケートに関する結果報告
https://www.learn-s.co.jp/common/pdf/taqenqans.pdf(参照日 2023.1.10)

溝上慎一(2014)アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換、東信堂、東京