女性の自立を促す白梅学園高等学校の特色
1964年に東京都小平市に設立された白梅(しらうめ)学園高等学校は、約750名の生徒が在籍する女子校です。生徒一人ひとりの人格を尊重し、きめ細かく、ゆきとどいた教育の推進と、人間味豊かな心情の育成を目指しています。学力と進路目標に合わせた3コース6クラスのコース制を整備し、1年次から女性の自立を目指すキャリア教育を体系的に実施しています。
建学の精神に基づいた新しい学びを追求すべく、従来の枠組みにとらわれない学びを生徒とともに作り上げている点は同校の特徴のひとつです。校内のICT環境の整備にも積極的で、2020年度の入学生からはiPadを導入し、5月からはスクールタクトをご活用いただいています。
今回はタブレット導入の責任者である教育研究部の石松満之先生(担当科目:日本史)と、市川梓先生(担当科目:物理・化学)にお話を伺いました。
左から石松満之先生(担当科目:日本史)、市川梓先生(担当科目:物理・化学)
コロナ禍のオンライン授業もスクールタクトでスムーズに
―貴校は2020年からiPadやスクールタクトを導入し、ICT教育に取り組み始めたと伺っていますが、それまでの経緯を教えてください。
石松:「新しい教育を作っていきたい」という校長の理念のもと、教育研究部が発足しました。そこではSDGsや海外研修のプログラムなどに取り組み、最先端の研究に触れる機会を考案しています。ICTの導入もその取り組みのひとつです。スクールタクト導入の前年度に電子ボードとネットワーク環境を全教室で導入し、教師から生徒に物事を伝える環境は整いました。しかし、それだけでは生徒からの反応を受け取るという点がまだ不十分でした。生徒の考えを吸収し、授業や行事など生徒のさまざまな取り組みを体系的に蓄積するツールの必要性を感じていたことが、スクールタクト導入へ繋がりました。
あとはやはり、コロナ禍の影響も大きかったですね。現在、1年生は全員iPadですが、2・3年生は生徒個人が所有するスマホやタブレットを利用する体制です。ですので、オンライン授業の実現には異なる端末に対応する必要がありました。その点、端末の種類を問わずにブラウザで使えるのはスクールタクトのいいところですね。
―他社サービスとも比較されたかと思いますが、スクールタクトの印象を教えていただけますか。
石松:他社サービスと比較すると、ブラウザで動くためOSのアップデートの影響もなく、教員側の管理が非常に楽だと感じます。生徒がパスワードを忘れた際に対応する程度で、普段は「管理」ということを意識することなく使えています。
元々の計画では、今年度はまず1年生のみiPadをを導入する予定でした。ところが、コロナ禍で休校が決まり、急遽上級生にスクールタクトを導入することになったのです。そのときにはすでに生徒に直接ログイン方法や使い方を説明することができる状況ではありませんでしたが、特に混乱もなく使い始めることができました。シンプルで使いやすく、生徒によって差がなく使えるところはスクールタクトならではの良さだと感じています。
授業の様子。生徒は教科書やノートと一緒にスマホを並べ授業に臨む
―休校期間中はスクールタクトをどのように活用されていましたか。
石松:ほぼ毎日、担任が朝と帰りのホームルームで生徒の状況をリアルタイムにチェックしていました。授業では教師が時間割に基づいて、通常プリントで配布していた課題や資料をスクールタクトで配信し、それを受け取った生徒が解答をスクールタクトに記入する方式です。スクールタクトで解答を作成する際は、文字入力・手書き入力・ノートの画像アップロードの3通りから選べるので、生徒に好きな方法を選んでもらいました。
最初は動画などで顔を見ないと生徒の様子がわからないものかと思い、とりあえずつながるだけでもと始めてみましたが、文字を見るだけでも十分に生徒の表情を感じ取れるとわかり、大きな収穫を得ましたね。
市川:私もノート感覚でスクールタクトを利用して生徒とやりとりをしていました。生徒たちはお互いに会えないことがストレスになっているようでしたが、課題を「共同閲覧」モードにすることでコメント欄で会えたという感覚だったようです。また、課題の提出時間によって生徒の生活リズムを把握できるため、個別に声をかけるようにもしていました。
休校期間中はスクールタクトへの生徒の書き込みで状況を把握
教科によって異なるスクールタクトの活用事例
―今は休校措置もなく、通常授業に戻っているかと思いますが、どのような場面でスクールタクトを使われていますか?
石松:休校期間にスクールタクトでの健康チェックやオンライン授業を実施していたので、通常授業になってからもスムーズに移行できたと感じています。教師によってばらつきはありますが、私は現在ほぼすべての授業でスクールタクトを使っています。
市川:私の授業では、事前に自宅学習で取り組む課題をスクールタクトで配布しています。これまでは黒板に図を描く、資料を配る、クラスの意見を集める、などに時間がかかっていたのですが、その時間が短縮されたため、授業では発展的な内容から取り組めるようになり、進度が上がりました。また、以前は授業内で質問の時間を取ることができず、生徒が自発的に質問に来る機会も多くありませんでしたが、今はスクールタクトで質問する生徒も少なくありません。
その他にも、担任を持っているクラスでは、生徒が作成した卒業研究の発表資料の共有や、クラス全体へのお知らせにもスクールタクトを活用しています。
研究発表資料に対し、クラスメイトから55件ものコメントが集まる
―石松先生、市川先生のお二人が実際の授業で、どのようにスクールタクトを活用されているのか教えていただけますか。
石松:私が担当している日本史の授業では、スクールタクトと電子ボードを使用しています。電子ボードで表示する資料と同じものを全てスクールタクトで配布することで、手元に残せたり、書き込みができたりするので、学びやすいと感じる生徒が多いようです。授業の前半はPowerPointを用いた講義形式、後半は生徒が予習で取り組んだ課題の解説をするのが基本的な流れです。
予習では自分の考えを述べる「問い」を投げかけ、生徒全員に提出してもらっています。「問い」を先に見せることで、生徒たちにその問いに解答できるように授業を聞くという姿勢が生まれます。
その上で、スクールタクトを「共同閲覧」モードに設定し、お互いの解答を見て優れた解答をしたと思う生徒に「いいね」をあげるように伝えています。「発言マップ」の機能を活用すれば、クラスの中で注目度の高い意見を一目で確認できるため、参考にしながら一つひとつ生徒の解答を取り上げ解説していきます。授業時間内になるべく多くの生徒の解答を提示し、添削や確認ができるように心がけています。
先生から投げかけられる「問い」に対してスクールタクトで回答する(日本史)
市川:私も予習から授業中、復習までスクールタクトをフル活用しています。講義内容の動画をスクールタクトで視聴し、プリントの穴埋めと簡単な問題演習に取り組み提出してもらうのが予習です。課題の提出期限までは「共同閲覧」をオフにし、期限が来たら出していない生徒がいても「共同閲覧」モードに設定します。提出していない生徒も、他の子の意見や解答を参考に、自分なりの考えを書けるようになることもあるためです。
私が担当している物理は選択制の少人数授業ですので、これまでの授業でも生徒同士で解答を交換し合って考えさせる時間を取り入れていました。コロナ禍で今年度は対面でそのような授業を行うのは難しい状況にありましたので、スクールタクトに活躍してもらいました。「共同閲覧」モードで生徒がお互いの解答を見合うことができるので、休校時や分散登校時にも活発なやりとりができて助かりました。
スクールタクト上で問題演習に取り組む
-今期はコロナ禍で冬期講習をオンラインで行ったと伺っていますが、いかがでしたでしょうか。
石松:最初は希望する教科、先生のみで実施する方向でしたが、結果的に多くの先生に協力いただき5教科すべてでオンラインでの講習を実施できました。講習はYouTubeとZoomを併用し、動画で配信できるようにしました。
まず、生徒たちはYouTubeで動画を見ながら課題に取り組み、提出します。課題の提出状況で出席確認を行いました。リアルタイムの授業にはZoomを使い、スクールタクトを板書代わりに使っていましたね。
新しい取り組みのためZoomとYouTubeの使い分けに迷うところもありましたが、課題を小分けにしてスクールタクトで生徒に配布することで講習期間中は教員側のペースで授業を進めることができました。生徒からも「いつもの授業のように受けられて、楽しかった」という反応があり、やって良かったと感じています。春期講習もオンラインで対応予定です。
オンラインで冬期講習を行う石松先生
オンライン冬期講習の回答一覧画面。各自が手元で解いたものを撮影しアップロードして提出する
スクールタクトの活用で生徒の学習意欲にも変化が
―お二人ともそれぞれのスタイルで、スクールタクトをご活用いただいているのですね。スクールタクト導入から9か月ほどになりますが、生徒さんや授業、また先生自身に訪れた変化がありましたら教えてください。
石松:これまで黒板に書いていたような内容は全て授業前にスクールタクトで配布しているので、授業中に板書をする必要がなくなり、効率的に授業を進められるようになりました。前に映して見えなかったら手元で確認するようにと伝えています。細かい文字は各自の画面で拡大できるので、視力が低い生徒にも役立っています。日本史は写真などカラーで見せたい資料も多いですが、全て生徒の手元にあるので復習にも活用できます。
印刷資料が減ったことで授業準備の時間も大幅に削減できました。これまではプリントを印刷するだけで多くの時間を取られてしまっていましたが、今はスクールタクトによって削減された時間でプラスアルファのことを準備できます。
また、スクールタクトを活用することで講義形式の時間を短縮できた代わりに、自分の考えを深め文章にまとめる時間を多く取れるようになったことも大きいですね。これまで「日本史=暗記科目」のイメージを持っていた生徒たちの意識は確実に変わったと思います。試験範囲のことだけを考えるのではなく、考えを深めていく中で全時代的な視点が持てるようになりました。資料に載っていないことなど、私が答えに困るような質問も増えたんです(笑)。
スクールタクトで事前課題を提出しなければならないため、予習をして授業に臨むことにより意欲が増した生徒も多いのではと考えています。
スクールタクトで全ての資料を配布することで、細かい文字も生徒が手元で確認でき、授業後に見直すことも可能
市川:「授業は生徒が主役であり、遠慮せずにどんどん発言したり質問したりして良いのだ」という意識を生徒が持ってくれたように感じています。スクールタクトは先生に対して個人的に質問する感覚でコメントできるようで、これまであまり積極的に発言しなかった生徒も、物怖じせずに発言してくれてるようになりました。「この子、こんなこと考えていたのだな」と気づかされることも多々あります。これまで以上に生徒一人ひとりとじっくり向き合えるようになったことで取りこぼしが少なくなりました。
石松:本校の理念にもなっている「きめ細かく、ゆきとどいた教育」ということが実現できるようになってきたかなと感じますね。
スクールタクト上に用意された「質問部屋」のコメント欄に先生が回答を書き込む
―生徒や保護者の反応はいかがですか?
石松:おおむね好意的な意見が寄せられています。具体的には、
「自分の持っている知識の中から必要なものを取り出し、組み合わせて、人に伝える能力が少し上がった気がします。 また、問題作成者がどんな答えを求めているか考える力がつきました」
「先生に見られるから、字を綺麗に書いたり、真剣に考えるようになった」
「意見交流ができる」
「授業で聞き取れなかったことを見返せる」
「自分以外の人の解答を見ることができる。 先生から配信された課題を、自宅で印刷することができる」
などの声がありました。
求められるのは「覚える」ではなく「考える」授業
―あらゆる面から変化が見られるのですね。最後の質問になりますが、スクールタクトを活用して実現したい理想の生徒の姿を教えてください。
石松:生徒が自分の考えや調べたことを、自由に表現できるように成長していって欲しいですね。大学入試も変化し、マークシート方式ではなく記述式の問題も増えてきています。ただ暗記するのではなく、なぜそうなるのか説明できるようになり、最終的には生徒自身が授業できるレベルに成長できたら最高ですね。
スクールタクトは生徒がさまざまな意見を交換し合えるので、ただ暗記するだけではなく、なぜそうなるのか考えられるツールだと思います。
実は導入前、「黒板を写させる時間が無駄だな」と感じていました。確かに板書をきれいにノートに写し、それを覚えることで、定期テストやセンター試験には対応できていましたが、「本当に暗記するだけの勉強でいいのかな?」と疑問に思っていました。ところがスクールタクトを使い始めたことで、徐々に生徒たちに考える力が身につき、今では定期試験でも大問ひとつ文章を書くような問題にもしっかり解答できるようになっています。結果として、変化する大学入試にも対応できるような手応えを感じています。そのためにはスクールタクトを使って課題への取り組みや講義の視聴は効率的に家庭で済ませ、授業では探求の時間に専念できるようにしていきたいと考えています。
スクールタクトを使い始めてから生徒たちに考える力が身についたと話す石松先生