啓明学園について
啓明学園は、東京都昭島市にある私立学校で、幼稚園、初等学校、中学校、高等学校があります。様々な国からの帰国生や外国籍の児童・生徒が在籍する環境で、「広い視野のもと、豊かな人間性と独自の見識を持ち、世界を心に入れた人を育てる」ことを教育理念とし、最長15年間の一貫教育を通じて、多文化共生が可能な「世界市民」の育成を目指しています。
今回お話を伺った啓明学園初等学校では、3万坪という広大で自然豊かな敷地のなかで、子どもたちがのびのびと過ごしながら、「しなやかに共に生きることのできる力」を育むことを目指しています。体と心をたくさん使い、考え、伝え合い、互いの学びを共有し、尊重し合える「学び合う授業」を大切にしています。また、2020年度より、全学年の児童にiPadを1人1台導入し、日々の学習に活用しています。今回は、理科とICT担当の杉山健太郎教諭にオンラインでお話を伺いました。
真の「学び合い」実現のためにスクールタクトを導入
-啓明学園初等学校が目指す理想の教育と、スクールタクト導入前の課題について教えてください。
杉山:本校の教育目標である「創造的な学び」のなかには、「学び合い」という一つの柱があります。子どもたちが授業のなかで、お互いに意見を交換することで考えを深めていって学習内容を修得し、活用できるようにするというものです。
ところが、実際の授業で意見を出し合う際に声を出して発言するのは一部の児童に偏ってしまっているという状況があり、いかに意見交換を活発にしていくかということが課題になっていました。
-スクールタクトとはどのように出会ったのですか?
杉山:授業支援システムの比較検討を進めるなかで、株式会社コードタクト(以下、コードタクト)の営業さんからスクールタクトを紹介していただく機会がありました。話を聞いて、スクールタクトが大切にされていることと、私の考える子どもたちの理想像が重なっているように感じられました。コードタクトさんと協力して、スクールタクトを一緒に進化させていくことができれば、本校にとってもメリットになると思ったのを覚えています。最終的には、きめ細やかなフォローがあったこと、開拓精神を持って本校と共に進んでもらえるパートナーだと感じられたことが、導入の決め手となり、当時はまず一部の先生方と「スクールタクトでやってみよう」と合意した形でスタートしました。
児童がスクールタクトに書き込む様子
休校期間のオンライン授業がスクールタクトの利用を後押し
-スクールタクトの導入はどのように進められたのでしょうか?
杉山:2019年のスクールタクト導入当初は、学校全体に対してiPadが40台程度と端末の数に限りがありました。そのため、まずは私含め数名の先生でスクールタクトの利用を開始しました。目指す授業に対して、どうスクールタクトを組み合わせるのかという部分から手探りという状態だったと思います。2020年4月の1人1台導入に向けて段階的にiPadを調達していく中で、他の先生方のスクールタクトの利用も進んでいきました。2020年春、子どもたちのスクールタクトのアカウントの用意もでき、後はiPadを配るだけという段階で、新型コロナによる休校要請が出されたんです。
結局、保護者の方に車で校舎前まで来ていただき、ドライブスルー方式でのお渡しを実施しました。学校に来るのが難しい方には郵送でも対応し、5月の連休明けに配布を完了することができました。ただ、iPadに慣れていない保護者の方も多く、配布直後は毎日10件以上の電話問い合わせがあり、その対応はなかなか大変でした。それでも2、3週間すると、問い合わせの数が減ってきたので、保護者の方々も子どもたちもiPadに慣れていったのだと感じました。
オンライン授業は「お互いが元気にしているかを見合おう」と、Zoomを使ったホームルームから開始しました。授業全てをZoomを使ったリアルタイム形式で実施するというやり方もあると思うのですが、子どもたちが疲れてしまうことを懸念しました。そのため、午前中はZoomを使ったリアルタイムでの授業、午後はスクールタクトで配布した課題に取り組んでもらうようにしました。本校では、6月初めに入学式をオンラインで行い、6月末から学年を分けて段階的に登校する形に移行しました。7月の全学年の通常登校までは、登校学年とオンライン授業学年が混在している状況でした。
iPadはSIMモデルを採用し、各家庭の通信環境の差を気にすることなく自宅でも利用もできるようになっています。従来は紙で配布していた保護者向けの連絡プリントは、スクールタクトで配信するようになりました。保護者の方も日常的に子どものiPadを使用するので、ルール違反の使い方をしないための抑止力にもなっているようです。
スクールタクトを活用した授業の様子
科目を問わず、日々の授業でスクールタクトを活用
-登校が再開してからしばらく経ちますが、最近の授業ではどのようにスクールタクトを活用されているのでしょうか?
杉山:現在は全ての授業で、何らかの形でスクールタクトが活用されている状態です。授業のねらいによっては、紙と鉛筆を使いたいというケースもあるので、ハイブリッド、いいとこ取りをしていこうという共通認識があります。
実際のスクールタクトの画面もご紹介します。
理科の実験では、ほんの一瞬しか見えない現象を見逃してしまう児童もいます。実験の様子をiPadで撮影しておけば、後から見直したり、スロー再生することで、さらに理解を深めることができます。小学校5年生のふりこの実験でそのような使い方をしました。スクールタクトのコメント欄に撮影した動画を共有すると、それぞれの班の実験の様子がわかり、比較することもできます。まとめの作業では、スクールタクト上で実験の画像に自分で色をつけたり、画像をフローチャートのように配置したり、それぞれの工夫が見られます。
ふりこの実験結果まとめの様子
小学校6年生の授業では、iPadを屋外に持ち出して学園敷地内の崖の地層を観察、写真を撮影し、教室に戻ってからスクールタクトでまとめをするという使い方もしました。記録係の児童が、他の児童に動画や画像を共有するためにスクールタクトのコメント機能を活用している例もありました。私から指示したわけでもないのに、「先生こうしていいですか」と子どもたちが率先してスクールタクトの機能を活用している様子に驚かされました。
iPadを使って屋外観察の記録をする様子
スクールタクトを使ったプレゼンテーションも行っています。小学校5年生の授業では、「台風」をテーマに、それぞれ自分の資料を作り、プレゼンテーションを行いました。みんな思い思いのまとめ方をしています。コメント欄に動画を貼って、発表に活用している子もいました。
プレゼンを聞いてる側も、感想やよかった点などについてコメント機能でリアクションをします。クイズ形式の発表を行った児童のコメント欄の盛り上がりはすごかったですね。子どもたちはもらえたコメントの数にはなかなか執着しているようです。ただ、中身がないコメントなども結構あったりします(笑)
台風に関する資料を作成し、プレゼンテーションを実施する授業
発表を聞いている子どもたちはコメント欄で活発にリアクションする
-コメント機能で子どもたち同士の意見交換を促しているとのことですが、具体的にはどのように活用いただいているのでしょうか?
杉山:コメント機能の使い方については教員間でもよく話題になっていて、試行錯誤しているところです。コメント機能を使うと、子どもたちが自分の意見を発信する際の心理的なハードルが下がるというメリットがあります。短い文章でも気軽に送ることができるのが良いようです。コメントを送られた方も嬉しい気持ちになって、授業に前向きになれるといった効果があり、子ども同士の気持ちを結びつけるのにもとても役に立っていると思っています。一方で、意図しない使い方をされてしまうこともあります。たとえば、他の人の回答へのコメントが終わって手持ち無沙汰になると、絵文字や画像をバンバン送り合ってしまう、などです。このように、本来こちらがやらせたいことからずれてしまう部分についてはうまくコントロールする必要があります。私が実践しているのは以下の3つです。
1.お互いの回答を「見る時間」と「コメントする時間」を分ける
2.お互いが気持ち良くなる言葉を書くように指導する
3.「すごいね」「がんばっているね」だけではなく、その理由を具体的に書くよう指導する
ときにはロック機能も活用しながら、今も試行錯誤しています。
スクールタクトでクラスの意見交換が活発に
-スクールタクト導入前後では、授業の様子や児童の皆さんにどのような変化がありましたか?
杉山:スクールタクトを導入後は、短時間で活発なやりとりができるようになりました。例えば理科の授業では、スクールタクト上で個人で予想を立てたあと、共同閲覧モードに切り替え、他の人がどのような予想を立てているかを把握してから、話し合いをします。個人作業と話し合いの間に、共同閲覧モードで他の人の予想を見る時間を挟むことによって、話し合いの時間に子どもたちが安心して発言しているように思います。スクールタクト上で自分の意見が先に共有されている状態だと発言がしやすいようです。元々出たがりの子が多い学校ですが、スクールタクト導入前と比べると、いつも同じ子ばかりが発言するということがなくなり、とても多く手が挙がるようになりました。
また、これまであまり授業についてこられなかった子たちが、スクールタクトで友だちの考えに触れて学ぶということもできています。スクールタクト上で書き込みのない真っ白なキャンバスを友だちに見られるのが嫌なので、頑張って書いてみるという子も少なくないと思います。
スクールタクトを使っている子供たちの声を紹介します。
児童W「紙じゃないことにより、色を変えたりする時間が短縮され、課題に集中できます。また、外で観察などをする時、テキストを打てたりするので楽だし、テキストを打った時、何文字目かがわかるようになっていて「1200文字から1500文字で書きなさい」などの問題に活用できます。また、他の児童の意見や予想を見られる共同閲覧モードや、それにコメントできたりするので学習の楽しみも広がってきます。」
児童K「字が書きやすいし、相手の言いたいことなどがすぐに見られる。あと、相手と共感しやすい。例えば、コメントで「確かにここはこうだよね。」とか「こういう考えもあっていいね😊」っていうコメントで共感ができると思いました。あと、コロナで近くに行って話ができないけど、共同閲覧で近くに行かなくても意見を聞くことができる。」
児童S「スペルの入力は、ローマ字の練習になったし、教科書やノートみたいに幅を取らないし、鉛筆みたいに折れないし、とても使いやすい。それに画像を使って説明が詳しくできました。そして指一本でできることからも、ストレスが少なくなる。鉛筆は、使った後に手を見てみると汚くなっていてストレスがある。」
児童T「今はコロナがあるから、相談をなるべく少なくしているせいで、みんなの意見がわからないけど、共同閲覧をすることでみんなの意見が見られて、コメントもできるから、お互いの意見がわかり合えて良いと思いました。」
スクールタクトでの個人活動の様子
先生同士のチームワークも発展
-スクールタクト導入後、先生方にはどのような変化があったのでしょうか?
杉山:新型コロナウィルスによる休校以前は、スクールタクトの導入に後ろ向きな先生もいらっしゃいました。しかし、休校期間に「スクールタクトを使うほかない」という状況になったことで、自然とチームワークができていったと思います。先生同士で教え合ったり協力し合う場面がたくさんありました。
本校では年に1度、外部の教育関係者に参加してもらう「公開授業研究会」を開催しており、今年度も「オンライン実践報告会」という形で研究・発表を継続しています。「スクールタクトを活用してどう授業づくりをしていくか」というテーマでの発表も実施しました。発表準備の過程で先生方がお互いに意見交換を行うので、ここでも学び合いが生まれています。
啓明学園初等学校 第1回オンライン授業実践報告会(2020年7月23日)
啓明学園初等学校 第2回オンライン授業実践報告会(2020年10月3日)
教員向けの研修も実施しています。スクールタクトの活用を進めるにあたっては、活用が進んでいる教員の授業での活用例紹介や、ワークショップ等を含む教員研修を実施していました。
本校では、子どもたちに「学び合い」を促す一方で、教員間ではそれがあまり形になっていませんでした。休校期間の体験を通して先生方がつながり合うことができ、教員間でも「学び合い」を行い、それを子どもたちに還元していくという流れができてきていると思います。
スクールタクトを導入したことで、教員の働き方にも変化がありました。児童の課題への取り組み状況が時間と場所を問わずにリアルタイムに確認できるようになったことで、子どもたち一人一人に対して個別に対応しやすくなったからです。これまではノートやプリントを回収して初めて、児童の取り組みを確認できるという状況でしたが、スクールタクトを導入したことで、本当に簡単に確認できるようになりました。そこからさらにコメント機能などで、それぞれの子どもにフォローをすることもできます。便利になった一方で、先生によっては自宅でも仕事をしてしまうというケースもありました。この辺りは、それぞれの先生が徐々に良いバランスを見つけていっているように思います。
保護者からはICT導入を評価する声
-1人1台のiPadやスクールタクト導入にあたり、保護者の方々からはどのような反応がありましたか?
杉山:新型コロナウイルス感染拡大以前に保護者の方々へ「今後iPadは1人1台になる予定です」とお知らせした際には、反対意見もありました。保護者の方が一番懸念されていたのは、本校が掲げる「体験学習」がないがしろにされてしまうのではないかということでした。本校の学園内には広い農園や雑木林があり、子どもたちはその中で自然との関わりや食の大切さを学んでいきます。ICTを取り入れることによってより、小学生時代の自然豊かなキャンパス体験が失われてしまうことを心配されていました。
実際にiPadを導入した際には、休校の時期が重なったこともあり、オンライン授業の実施と併せて、多くの保護者の方が取り組みを評価してくださいました。
啓明学園の自然豊かなキャンパスで学ぶ子どもたち
以下、保護者の方の声をご紹介します。
「これからを生きる子どもたちには、デジタルにもアナログにも対応でき、様々な情報をもとに自分の意見を持ち、明るい未来を切り開いていってほしいと願っています」
「子どもたちの発言の機会が平等になったこと、それぞれが発言するようになったことは、保護者として大変喜ばしい変化であると同時に、ICTにそのような良い作用があるとは想像していませんでした」
「ICT教育のメリットをたくさん知ることができました。子どもたちがこれまで以上に積極的に勉強に取り組めていることもわかりました」
目指す子どもの姿と重なるスクールタクトのコンセプト
-スクールタクトをはじめとする教育現場でのICT活用を通じて、子どもたちにどう成長していってほしいか、さらに今後の展望について教えてください。
杉山:私の個人的な考えを述べさせていただきます。
多様な考えに触れ、その考えの良さや特徴を受けとめられる子ども
スクールタクトを使用することによって、短時間で多くの友だちの考え方に触れることが可能になりました。頭の柔らかい小学生時代に幅広い考えに触れながら成長することで、社会に出て他者と共存していくために必要な素養を養うことができると考えています。
受け取った情報を自己の成長につなげられる子ども
現代は誰でもインターネットから簡単に情報を得ることができます。これからの時代を生きる子どもたちには、情報を得るだけにとどまらず、自己の成長につなげるために活用する力を養って欲しいと考えています。
他者と協力し合える子ども
何かを作る、計画を進めるという時に、最初から最後までを一人でやり通すことは、難しい時代になっていると思います。小学校段階からスクールタクトを通じて共同作業に取り組むなどの経験が、重要になってくると考えています。
これらの子どもたちの理想像と、スクールタクトのコンセプトは重なり合っているように感じています。
私は本年度の理科で、iPadだけの授業にチャレンジしていきたいと思っています。今後、アナログとデジタルのいいとこどりをしていくにあたって、フルデジタルでどこまでできるのか知っておいた方がいいと考えたからです。フルデジタルの授業をしてみて思うのは、やはりデジタルが合う子もいれば、合わない子もいるということです。今後はデジタルとアナログのバランスについて考えていきたいと思っています。
iPadを使ってグループで撮影を行う様子