導入前の課題 | |
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1 | オンライン授業中の生徒の学びの進捗や様子が把握しにくい |
2 | 生徒が安心してアウトプットできるツールがほしい |
導入後の効果 | |
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1 | 生徒のアウトプットをリアルタイムに確認でき、テンポよく授業を展開したり適切な進路指導を行ったりできるようになった |
2 | コミュニケーション方法が多様化し、生徒が授業に安心して臨むようになった |
広域通信・単位制高校として全国53キャンパスをもち、通学と通信の学習スタイルを組み合わせることができる第一学院高等学校。早くからオンライン化に舵を切っている同校は、授業だけでなく、多様な指導でスクールタクトを活用しています。実際の導入とその手応えについて、宇賀神千秋先生(教育運営部 教務ICT支援室)と校舎で実際にスクールタクトを活用した松宮梨紗先生(現在は教育運営部 人材支援室所属)にお話を伺いました。
「1/1の教育」を実現するオンラインツールを求めて
―ICT活用を進めた背景を教えてください。
宇賀神:2015年から生徒に1人1台iPadを用意してもらい、オンラインでリアルタイム授業を行うようになりました。本校は広域通信・単位制高校で、全国にキャンパスがあります。ICT活用以前はそれぞれのキャンパスがオリジナルの良さを活かして、授業を行っていました。ICTを活用すると各キャンパスの良さをオンラインで共有し学び合うことができるので、学校としてより充実した教育を行っていけるのではと考えました。
―スクールタクトを導入した経緯を教えてください。
宇賀神:2016年からスクールタクトを導入しました。選んだ理由は、アクティブ・ラーニングを実現できる双方向性あるICTツールを取り入れたいという思いからです。オンラインでも一方通行では録画をした動画と変わりません。生徒とのコミュニケーションをオンライン上で円滑に行うことができたのが、スクールタクトでした。そこで、全国の配信型の授業でZoomとスクールタクトをセットで使うこととしました。
宇賀神千秋先生(教育運営部 教務ICT支援室)
―どのような成果がありましたか。
宇賀神:Zoomでは、誰が授業に参加したのか履歴が残りません。そのため、当時は出席表のように手書きで誰が参加していたかのメモを取っていました。スクールタクトで、授業の課題を出してもらえれば、そうした出欠確認をする必要がありません。
本校は、不登校を経験したりスポーツなどに熱中したりと多様な生徒が多く、「1/1の教育」を理念に掲げて、寄り添うことを大事にしています。スクールタクトは、一人ひとりの生徒把握に役立ち、かつ教師と生徒、生徒と生徒の双方向性あるコミュニケーションを実現できるツールでした。
コロナ禍となり進路指導でスクールタクトを活用
―具体的にどのようにスクールタクトを活用しているか教えてください。
松宮:1年前まで、私はキャンパスで各学年の進路対策講座を担当していました。本校は、卒業させるだけでなく、生徒たちがその後の人生を自立して歩んでいけることを重視しています。そのため、進路指導にも力を入れ、大学、短大、専門学校、就職という幅広い志望を叶えています。
私が所属していた仙台キャンパスは、7~8割程度の生徒が大学進学を希望していました。例年であれば、3年生になってすぐのタイミングで面談し、進路を考えたり受験に向けた指導をしたりしていました。しかし、昨年の2020年4月は1回目の緊急事態宣言真っ只中。そのため、従来の指導ができなくなりました。
松宮梨紗先生(教育運営部 人材支援室所属)
―コロナ禍になり、どう進路指導を変えたのですか。
松宮:進路対策講座をオンラインで開催し、進路対策シートの記入の仕方を説明後、スクールタクトを通じて取り組んでもらいました。生徒たちは、進路目標を掲げて、「何月までにどの教科・科目をどこまで終わらせるか」といった学習スケジュールを記入しました。そのスケジュールをベースに、1日ごとの学習計画にも落とし込んでいきました。
生徒とは定期的に電話やLMS(学習管理システム)を活用したメッセージのやり取りで連絡を行うのですが、スクールタクト上で記入したシートをもとに生徒の状況を把握し、進路指導を行いました。「スケジュールではここまで学習を進める予定になっているけれど、進捗はどう?」「進路志望に○○大学と書いてあるけれど、理由は?」など担任教員が掘り下げていくことができました。
―生徒への効果はいかがでしたか。
松宮:スクールタクトがなければ、進路に向けての意識付けは難しかったと思います。学校からの働きかけを止めなかったからこそ、自分が受ける大学について調べてウェブのオープンキャンパスに参加したり、自宅学習をコツコツ続けたりすることができたのだと思います。
教員も面談の前に生徒が「何を目標にしているか」を知ることができるので、サポートをしやすくなりました。コロナ禍でスクールタクトがなければ、生徒の状況をリアルに把握することは難しかったと思います。
―先生方の指導を効率化することへもつながりましたか。
松宮:スクールタクトを活用したことで、指導の効率化にもつながったと考えています。例年は、生徒が進路対策シートに手書きをして、教員が生徒分のシートを1枚1枚チェックしていました。スクールタクトの場合は、一覧で同じページを確認していくことができます。最終的には全員分をじっくり読むのですが、提出時にザッと見るだけで、「この子は気になるな」「この子は順調だな」とチェックをし、すぐに声をかけることができます。
また、リアルタイムで生徒の記入状況を把握できるため、「この子は手が止まっているかも」といった見取りができ、生徒把握の速度が上がったと感じています。
安全安心の場をつくり、入学当初の生徒の不安を和らげる
―通信の授業ではどのように活用していますか。
宇賀神:1年生全員が履修する「セルフケア講座」という授業を例にとってご説明します。この授業は、全国から600人を超える生徒がオンラインで参加するため、スクールタクトなしには考えられません。この授業の目標は、入学したてで不安な気持ちを抱えている生徒を安心させることです。人の目が気になってしまう子も多いので、自分自身にフォーカスを当てて、その上でスクールタクトという場で自己表現を促すことを大事にしています。本当は深い考察をしているのに、手を挙げて意見を言うことはできない生徒にとって、スクールタクトというアウトプットツールがあることは非常に重要です。
―実際に、どのように活用していますか。
宇賀神:おもしろさを感じなければ生徒は授業に参加しなくなってしまいます。そのため、授業の講師が工夫し、15分に1回程度の頻度で、スクールタクト上で生徒が手を動かし、アウトプットするような展開を作っています。
例えば、「今週今日まででよかったことを3つ挙げてください」というお題を与えます。生徒たちは、スクールタクト上に、飼い猫の写真や朝からスターバックスに行ったことなど、各々好きなことをアップしていきます。こうした活動を毎週重ねていくと、「この子はゲームが好きなんだな」「猫を可愛がっているんだな」といった個々の生徒のキャラクターが表れるようになります。子どもたちは「自分を出してもよいのだ」という安心感を得て、その上で他の生徒の理解にもつなげていくこともできます。
―授業の効果効率化にもつながっていますか。
宇賀神:先日、人間の優位感覚には「視覚=Visual」、「聴覚=Auditory」、触覚・臭覚・味覚を合せて「体感覚=Kinesthetic」の3種類があることを説明する授業が実施されました。そこでは「3つそれぞれの感覚が優位な異性が喜ぶデートプランを考えましょう」という課題を出されました。
生徒たちは、スクールタクトを使ってとてもおもしろいプランを挙げてくれました。生徒たちの作業をリアルタイムで確認できるので、講師がどんどん「いいね」を押していきます。授業で取り上げる際には、その「いいね」を押した中からピックアップすればよい。講師が提出物を確認する時間を最小限にし、大人数に対しても格段にテンポがよい授業を行うことができています。
―生徒の取り組みの途中経過がわかり、授業にプラスの効果が生まれているのですね。
宇賀神:そうですね。東京のスタジオから全国のキャンパスに向けて遠隔で授業をしているので、スクールタクトがなければ、生徒が課題に取り組む時間が十分に足りているのか、延長すべきなのかもわかりません。作業が終わっていないのに、「はい、終了」と打ち切ってしまえば、生徒の取り組む意欲をくじいてしまうことになります。そして、逆もまた同様で、ほとんどの生徒が書き終わっているのに時間を延長すると、授業時間中に暇な生徒が出てきてしまいます。スクールタクトにより、生徒把握を十分に行え、適切な時間配分が可能になり、生徒の授業への意欲を高めていくことができているのです。
オープンスクールで入学希望者の安心感を醸成
―授業「セルフケア講座」以外にも、スクールタクトを活用していますか。
宇賀神:海外短期体験留学のガイダンス参加前に、スクールタクトに「自己紹介を書こう」と促し、交流する機会を設けました。イベントに行く前の緊張感をほぐすことがその狙いです。共同閲覧モードにし、他の子の自己紹介を見て、「英語はどのくらいできる?」「どこから参加するの?」といったコミュニケーションが生徒間で生まれて安心感を生むことができました。
―入学希望者向けのオープンスクールにも、スクールタクトを活用しているのですよね。
松宮:本校を志望する中学生向けにオープンスクールを月数回実施しています。体験授業への参加を楽しみにしている生徒がいる一方で、不登校経験などから「先生に指名されないかな」や「きちんとコミュニケーションを取れるかな」といったことに、不安な思いを抱えながら足を運んだ子もいます。本校のオープンスクールでは、学校や対人関係への不安を軽減させることがとても重要なのです。
そこで、オープンスクールではスクールタクトを使って「クイズ甲骨文字」を行いました。本校の在校生と中学生がペアになって、スクールタクト上で配信されたクイズに回答していきました。挙手して解答するハードルが高い中学生でも、先輩にサポートされながらタッチペンで書いて回答することならばできます。スクールタクトを使用することで、安心感を持ってオープンスクールに参加することができたようです。
―オープンスクールでのスクールタクト活用には、どのような効果がありましたか。
松宮:参加した中学生も保護者の方も、本校について「安心安全の居場所である」と感じてくださったようです。スクールタクトを含め様々なコミュニケーションの方法があると感じてもらうことができ、「これならば頑張れそうだ」と手応えを感じてくれる中学生が多かったようです。実際に、オープンスクール後のアンケートでは、「来る前は緊張して不安だったけれど、参加したらすごく楽しかった!」という声が多かったです。
このオープンスクールを機会に本校へ入学した生徒も多いですし、なかには「オープンスクールで自信がついたので全日制の高校に通う」と決めた生徒もいました。本校を選んでくださっても他の道を選んだとしても、中学生が前向きに進路を選択する機会となったのであれば、こんなに嬉しいことはありません。
生徒が意見を活発に交わす使い方を模索
―スクールタクトを今後どのように使ってみたいですか。
宇賀神:講師と授業について話したところ、大きくは2つの方法が挙げられました。1つ目は、共同閲覧モードの活用です。生徒が数百人規模で参加するので、どうしてもシステムが重くなり、共同閲覧モードを使うことができませんでした。今後は、共同閲覧モードを駆使して、「私もこんなふうに書けるようになりたい」「こんなおもしろい子がいるんだ。自分も頑張ろう!」といった全国の生徒どうしが相互に学びにつなげていくという方針で検討しています。
2つ目は、グループで何かを作りあげる体験的な学習を実施することです。これには「進行役を誰にするか」といったグループ編成の問題や、スクールタクトとどのコミュニケーションツールを使いアクティブ・ラーニングを行うかといった検討が必要です。多様な可能性を模索しながら実現を目指します。
松宮:スクールタクトには生徒の声の拾い上げ方がたくさんあるので、様々な方法を試していきたいです。例えば、生徒が投票するとどのような意見が多かったのかグラフで表せる機能はすぐにでも使ってみたいです。こうした機能であれば、なかなか自分の意見を言いにくい生徒もアウトプットしていくことができますよね。教員側も生徒の傾向を一瞬で掴み取ることができます。
自分の意見を表現する方法がたくさん用意されていることで、自信がない生徒も自分に合った方法でアウトプットしていくことができます。とはいえ、それでも自分の意見を伝えにくい生徒は一定数います。「1/1の教育」を目指し、授業改善や授業以外のフォローを続けながら、一層生徒に寄り添う教育の充実を図っていきたいと考えています。
第一学院高等学校
全国に53拠点を持つ広域通信・単位制高校。中学生まで不登校であった生徒や、スポーツ、芸能といった専門性の高い道を目指す生徒など多様な生徒が在籍しています。高卒資格取得だけでなく、自身の進路や興味関心に合わせてコースを履修。大学・専門学校・就職など、一人ひとりの希望進路の実現をサポートします。
Webサイト:https://www.daiichigakuin.ed.jp/