まなビバ!シリウス代表 安楽岡 優子氏 まなビバ!シリウス代表 安楽岡(やすらおか) 優子氏

「まなビバ!シリウス」は、「すべてのこどもたちが人と人のつながりを感じながら安心して自分らしくいきいきと生きていける」ことを目指して作られた、学校ではない子供たちの第3の居場所です。蔵を改装した対面で集まれる「蔵のがっこう」と、オンラインで全国の子供たちがつながり合う「風のがっこう」、そして群馬県の委託事業「オリナスオンライン」などを設けています。

そして、子供たちが安心してコミュニケーションを取ったり学んだりできるよう、2021年からスクールタクトを活用しています。子供たちが安心できる場づくりへの思いやスクールタクト活用への期待について、「まなビバ!シリウス」代表の安楽岡(やすらおか) 優子さんにお話を聞きました。

「まなビバ!シリウス」は学校ではない第3の居場所

―「まなビバ!シリウス」の概要を教えてください。

安楽岡:まなビバ!シリウス」は一般的にはフリースクールという定義になるのでしょうが、もう少し広い意味で「学び場」という表現を使っています。小学生と中学生が自分らしくいられることを大事したいという思いを軸にした、学校ではない第3の居場所です。

現在、合計47人と関わらせていただいています。内訳としては築100年の蔵を改装し対面で集まれる「蔵のがっこう」に8人、オンラインで関東・関西・九州など全国の子供がつながり合う「風のがっこう」に14人、さらにシリウスパークというSNSでの交流に3人が参画してくださっています。また、群馬県の委託事業「オリナスオンライン」に16人が登録してくださっています。加えて、「オープンシリウス」という、どなたでも参加できるイベントにも6人ほどが参加しています。

―どういったお子さんが通っているのですか。

安楽岡:「蔵のがっこう」は、学校が合わず、「行けない」「行きたくない」という思いを持っている子が多いです。また、小学校から中学校に上がるタイミングでオルタナティブスクールを探して「まなビバ!シリウス」に辿り着いてくださった子もいます。

「風のがっこう」は学校が合わない子が半分で、コロナ禍で自主休校を続けてきている子が半分という構成になっています。

蔵のがっこうでの様子
蔵のがっこうでの様子

―子供たちが在籍している小中学校とは連携なさっていますか。

安楽岡:先生たちから「出席扱いにしたいので、様子を教えてください」というご連絡をいただき、レポートをお送りすることがあります。それにより、校長先生の判断で出席扱いになるケースも多いです。

ただ、ここでやっと居場所を見つけて自分らしくいられた子も少なくないので、学校の先生に様子を知られたくないという意向を持っている場合もあります。そのため、学校にレポートをする前には必ず子供とご家庭に許諾をいただきます。

全国の子供たちがオンラインでつながる「風のがっこう」の仕組みとは?

―主にスクールタクトを活用している「風のがっこう」のタイムスケジュールを教えてください。

安楽岡:子供たちは自宅のパソコンやタブレットでそれぞれ参加します。10時から朝の会をして、ここで各自「朝ノート」を書く際にスクールタクトを使っています。10:10から学習タイムがスタートします。ここでは、子供たちが自分で学習する内容を決めて取り組みます。子供たちが自主的に打ち込む時間なので、スタッフは見守ったり質問に答えたりします。自主学習の際には、静かに勉強したい子もいれば、わいわい話しながら取り組みたい子もいるので、Zoomで「静か部屋」と「わいわい部屋」の2パターンでブレイクアウトルームを作って、それぞれの子供が学習に集中できるようにしています。

10:45から「アクティビティ」の時間になります。毎回違うことを行うのですが、ダンスをやったりクッキングをしたり実験をしたりしています。

風のがっこうのタイムスケジュール

風のがっこうのタイムスケジュール

アクティビティの時間の様子


アクティビティの時間の様子

―「風のがっこう」はどのような経緯でスタートしたのですか。

安楽岡:もともと「おしゃべり哲学」という哲学対話をオンラインで実施していたので、Zoomを活用したつながりの創出は行っていました。その後、コロナ禍で全国的に一斉休校期間があった時に、無料で子供たちがつながり合える場をオンラインで設けました。SNSなどでも拡散していただき、全国から子供たちが集う現在の「風のがっこう」が作られていきました。

リアルタイムで子供たちの書いた内容を確認できる魅力

―スクールタクトを活用するきっかけを教えてください。

安楽岡:2021年に「風のがっこう」を作った際、書いている内容をインタラクティブに共有できるようなツールを探していました。さまざま調べている中で、スクールタクトを見つけました。私がスクールタクトが素晴らしいと思ったのは、リアルタイムで子供たちの書いている内容を確認できることです。「蔵のがっこう」は少人数で子供たちが取り組んでいる様子がすぐにわかるので目で確認すればいいのですが、オンラインではそれができません。

例えば、みんなと交流することが苦手だったり様子見で参加したりしている子供たちの中には、画面をオフにしてミュートで参加するようなケースがあります。こうした子たちについては、画面の向こうの様子がわかりません。そうすると私たちがサポートのしようがないのです。しかし、スクールタクトであれば、こうした子供たちが今何に取り組んでいるのかがわかります。これにより、スタッフ側が適切な声かけやサポートができるようになると考えました。

毎日の気持ちの共有や探究学習などに活用

―実際にスクールタクトをどのように活用しているのでしょうか。

安楽岡:年度をスタートする際には、スクールタクトを使って、自己紹介を行います。全国に散らばっている子供たちなので、自分の地域のことをみんなに伝えるように促しました。

スクールタクトでの自己紹介
スクールタクトでの自己紹介

さらに、毎日の「朝ノート」でスクールタクトを使っています。「朝ノート」には、「今日の天気」「今の気持ち」「ひとこと」について書きます。「ひとこと」には、今日の「風のがっこう」で楽しみにしていることや頑張りたいことを書きます。子供たちは、文字や絵などで自由に表現しています。


スクールタクトを活用した朝ノート

また、「朝ノート」は共同閲覧モードにして、スタッフだけでなく、子供たち同士でも見られるようにしています。これにより互いに口頭でのコミュニケーションが生まれています。時間の制約でコメントや「いいね」機能はスタッフが中心に活用しています。


共同閲覧モードを活用することで、口頭のコミュニケーションにも発展

―他にはどのようなことに使っていますか。

安楽岡:いわゆる探究学習のような時間を年に1回から2回ほど設けています。そこでは、スクールタクトを活用しています。例えば、「水」をテーマに取り上げた際には、その不思議に目を向けたり問いを立てたりすることに挑戦しました。最初は、「水」から連想する言葉をマッピングしたりイメージを絵を描いたりしました。その後、最終的にはそれぞれの考察を発表し、コメントや「いいね」機能を活用して交流しました。なお、この「水」の探究を契機に、毛細管現象の実験にもつなげていきました。

今年度は「バケツ稲」をテーマに取り組みました。JAの協力でバケツ稲を提供してもらい、栽培したいという子には配ってそれぞれの家庭で観察に取り組んでいます。スタート時には、バケツ稲の芽が出るために必要だと思うものを3つ挙げました。「日光」「水」などの答えもありながら、「愛」などのユニークな回答もあり、大いに盛り上がりました。

その後、バケツ稲の成長記録を写真などで紹介する時間も設けました。また、バケツ稲の配布を希望しなかった子供も「今はこんな状態になっていると思う」という想像を書き込んで参加しています。

―「アクティビティ」の時間にも活用しているのでしょうか。

安楽岡:そうですね。「アクティビティ」の時間で、月に1回程「ことばプログラム」を実施しています。これは、大学生のボランティアスタッフが大学での学びも交えてプログラムを作成してくれました。子供たちは、「なぜ、コミュニケーションの難しさに差が出るのかな? その理由を考えてみよう」といったワークに取り組んでいきました。いつも画面オフの子がしっかり自分の考えを書く様子が見られ、自分について表現することが苦手なように見える子も、こうした時間を通じて自分につながる機会になったのではないかと感じました。

これは内面を吐露するようなワークだったので、共同閲覧モードはオフにしていました。紹介する時は、スタッフが子供に許可をもらって読み上げるようにしました。たとえ、書いていない子にもそれぞれ思いがあるはずです。アウトプットができなかったとしても、そうした子供たちの心の動きを大事にしたいと常に感じています。

―「風のがっこう」以外でスクールタクトを活用することはありますか。

安楽岡:群馬県からの委託事業で県内の不登校の子供たちが参加する「オリナスオンライン」での活用でも検討を進めています。特にこちらでは「学びの時間」でも使っていきたいと考えています。自習の準備をしていない子に向けて、スクールタクトでクイズ形式で問題を出題していくような活動をしたいと考えています。

オンラインでも子供たちが「一緒にいる感覚」を味わえる

―子供たちを見取るためにどんなことを意識していますか。

安楽岡:何よりも大事にしているのは、子供たちの心理的安全性を築き、安心して自分を表現できるような場とすることです。そのために、Zoomに映る表情やスクールタクトに書く内容、シリウスパークというクローズドなSNSで何を呟いているかなどから随時子供たちの状況を把握して、コメントをするようにしています。また、コメントだけでなくZoomで声をかけることも大事にしています。スクールタクトのコメントを確認していなそうな子に対しては、Zoomのチャット機能で話しかけることもあります。さまざまな方法で、子供たちにメッセージを発信し、きちんと見守っていることを伝えたいと考えています。

画面オフかつミュートで参加していて、声をかけても反応がないと、「あれ、いないのかな?」と思うこともあります。しかし問いを発すると、スクールタクトには書いて取り組んでいる。そうした子については多めにコメントを寄せるなどを意識して、それぞれの子供に合った支援をすることを大切にしたいと考えています。

また、「風のがっこう」終了後には、スタッフ同士で「あの子はこんな感じだったね」「今日は元気そうだったね」と子供たちについて話し合います。さらに、シリウスパークで子供たちがアップしている内容も確認して、コメントをします。このようにスタッフは、常時、個々の子供たちの理解に注力しています。


日々スタッフ同士で話し合い、子供たちの理解を深める

―スクールタクトを活用した取り組みを続ける中で、子供たちにどのような変化が起きてきていますか。

安楽岡:「しっかり見ているよ」「きちんと読んでいるよ」ということを手を振ったりメッセージで伝え続けたりすることで、少しずつ子供たちが変わっていくように感じています。コミュニケーションが増えていく中で、昨年度まで画面オフだった子が、今年度から画面をオンにするなどの挑戦が見られるようになります。子供たち一人ひとりがそうした葛藤と挑戦の変遷を辿っているんです。

スクールタクトは、子供同士でもリアルタイムで見ることができます。例えば、絵を描いている友達の様子を見て、「わ!猫描いていたんだ!」といった内容でその場で盛り上がることができます。オンラインですが、同じ場所に一緒にいるような感覚を持てることがスクールタクトの魅力です。

―これからスクールタクトをどう活用していきたいと考えていますか。

安楽岡:今後、子供たちが学校に戻りたいと思った時に、「まなビバ!シリウス」が間に入って橋渡しをできるようになるといいなと考えています。その際に、子供が在籍している小中学校の担任の先生が「まなビバ!シリウス」で使っているスクールタクトを閲覧できるようにしたら、よりスムーズな連携ができるようになるのではないでしょうか。例えば、担任の先生もその子の書いた内容にコメントできるようになっていれば、ゆるやかに 学校ともつながっていくことができると思うのです。もちろん、子供の気持ちの尊重が大前提ですが、その子も希望し、先生も希望している場合には、そういった活用もできるのではないかと期待しています。

このようにスクールタクトにはまだまだ活用の可能性があると感じています。機能の拡大も活かしながら、これからも、誰一人取り残さず、つぶさに様子を見とり、安心安全の場を作っていきたいと思っています。

まなビバ!シリウス

まなビバ!シリウスは、学校外のもうひとつの学び場(オルタナティブスクール/フリースクール)で、境目のない学びの場づくりを目指しています。理念は「いきいき自分自身を生きる」「ともに生きる」「Design your day, Create your life」。
令和5年度までの5年間で対面フリースクールではのべ1,400名ほど、オンラインではのべ2,200名ほどの子供たちをサポートしています。

Webサイト:https://www.manavivasirius.com/