東京都小金井市では、GIGAスクール構想以前の2018年に「次世代学校ICT環境」の整備に向けた実証に参加、スクールタクトを含めたICTの利用を進めてきました。2020年の9月に全児童生徒に1人1台のChromebookを導入し、12月にはネットワークの整備を完了。2021年4月には「GIGAスクール構想による個別最適化された深い学びなどの実現に関する連携協定」を結び、新しい教育モデルの構築に取り組んでいます。

民間企業や大学との連携の効果や、スクールタクトの活用価値などについて、小金井市教育委員会 学校教育部前統括指導主事の丸山智史氏、指導主事の向井隆一郎氏に聞きました。

 

大学×企業×行政の連携で1人1台環境をサポート

―小金井市では、GIGAスクール構想によるICT環境の整備をどのように進めたのでしょうか。

丸山:小金井市では、GIGAスクール構想以前に総務省の実証事業に参加し「次世代学校ICT環境」の整備と活用に取り組んできました。2019年にはNTTコミュニケーションズが提供するクラウド型プラットフォーム「まなびポケット」経由でスクールタクトの正式利用をスタートしています。

実証実験当時からまなびポケットとともにスクールタクトを利用していたので、その経験を基にGIGAスクール構想の環境をスムーズに選定し、整備することができました。

―本格活用が始まった2021年4月のタイミングで、東京学芸大学とNTT コミュニケーションズと三者で協定を結んでいますが、この背景を教えてください。

丸山:東京学芸大学は小金井市にキャンパスがあり、もともと市と大学はさまざまな連携をして取り組みを共にしています。その東京学芸大学と、実証事業に一緒に取り組んできたNTTコミュニケーションズ、小金井市の三者が一体になって、それぞれの強みを生かして子供たちのGIGAスクール構想を実現していこうという思いで始まりました。ICTの環境整備だけでなく、1人1台端末を生かした授業設計の変革を重視しています。


GIGA スクール構想による個別最適化された深い学び等の実現に関する連携協定」による連携のイメージ

―具体的にどのようなメリットを感じていますか?

丸山:NTTコミュニケーションズを通して、スクールタクトに関しても研修を行いました。東京学芸大学からは教授の先生方が20名くらい関わっていて、全小中学校に授業づくりの助言と指導をしていただいています。1人1台端末が入ってがらりと環境が変わった2021年度に、これらの支援を受けられたことはとても大きかったですね。

 

ICT機器ありきではなく授業スタイルを子供主体に転換

―1人1台端末を生かした授業づくりはどのような視点で行われているのですか?

丸山:1人1台端末は、子供たちの学びを充実させるための道具として捉えています。普及した当初は、「まずは使ってみよう」と進めてきましたが、現在は一段階上がって、それぞれの教科の目標を達成するために効果的なのはどのようなICTの使い方か、と考えるようになってきています。ICT導入以前は教員主導型の授業スタイルが目立ちましたが、現在では子供主体で対話の多い授業づくりを進めています。

向井:先生が黒板の前で喋り続けるような授業ではなく、子供たち自身が主体となって学んでいくような授業スタイルにして、教員が教えるというよりもファシリテーター的な役割に変わっていかなければ、と考えています。

―授業スタイルの転換とICT導入が相乗効果になっているわけですね。

向井:授業自体を変えることが前提にありますが、ICTは非常に効果的です。例えば、これまで教え込んでいたような知識を付けることにICTを使って時間をぐっと短縮できれば、その時間を子供が考える時間、対話する時間に変えていくことができます。子供が活動する時間をどんどん増やせれば、授業も変わっていくのではないかと思います。

丸山:1人1台端末が整備されたことは、子供主体の授業づくりの追い風になっています。各校の先生方からよく聞くのは、スクールタクトが子供たちの意見共有に非常に有効だということです。今までは恥ずかしくて自分の考えを発言できなかった子が、文字で自分の考えを打ち込むんですね。埋もれていた素晴らしい意見が授業で扱われるということが出てきています。

―子供主体の授業スタイルやICT活用を定着させるために工夫していることはありますか?

丸山:三者協定を基にできたウェブサイト「GIGAスクール構想に係る実証研究 小金井モデル情報発信サイト」で、各学校の実践を公開しています。また、「BANSHOT」というアプリを利用して、先生方に学年、教科ごとに実践事例を共有してもらっています。小金井市内の先生方は自由に見ることができるので、ほかの学校の事例も参考にできます。実際に「教材研究の参考になった」、「自分が授業する時の準備の時間短縮になった」という現場の声が届いています。


GIGAスクール構想に係る実証研究 小金井モデル情報発信サイト

 

スクールタクトで子供たちの意欲が高まる

―スクールタクトの活用メリットや子供たちの変化について教えてください。

向井:これまでは、授業で自分の意見を書くときには一人でノートに向かい、友達が何を書いているかは、立ち歩いてノートをのぞき込まないとわかりませんでした。意見を共有するには、ノートに書いたものを、子供が手を挙げて発表して、先生が黒板に書くという流れでしたが、スクールタクトを使えば、意見を打ち込んでぱっと共有することができます。

全ての子供の意見を画面で見られるので、先生はいろいろな意見を拾いやすく、みんなの前で手を挙げるのが苦手なお子さんから「私の意見も取り上げてもらえた」という声が上がっています。算数の問題の解き方を先生が一覧して見て、どの子がどこでつまずいているかということをさっと確認してサポートするという使い方もされています。子供同士が互いに参考にできるのもいいですね。

スクールタクトを使って授業で意見共有をすることが増えたせいか、子供たちの対話に対する意欲が上がっている気がします。ある学校では、子供たちが自分のパソコンを持って、説明したくて仕方ないような様子でどんどん話していくような場面がありました。友達の意見を見ることに慣れていくうちに、だんだん「あの子の意見が気になるから聞いてみたいな」、とか「僕のこの意見も聞いて欲しいな」という意欲が伸びてきたのではないかと思います。

事前にお互いの意見を確認できるので対話に入りやすいようで、先生が「ほかの人と話してみましょう」と言うと、ぱっと立ち上がって誰かのところに移動してもう話し始めています。意見が交流できるクラスは雰囲気も良くなりますし、良い雰囲気がないと意見交流は難しいと思いますので、どちらが先というのは難しいですが、良いサイクルができてきているのではないかと思います。


スクールタクトを使った授業の様子

 

「授業変革」として、新たな学びの創出に取り組んでいきたい

―今後の展望を教えてください。

向井:この2年間の取り組みを進めていく中で、多くの先生方が1人1台端末を活用するようになりました。今後もさらに活用を進めていきますが、1人1台端末を使うことが最終的な目的ではありません。

これからの時代は予測困難な時代と言われています。このような時代を生きていく子供たちに大切な力は、「目の前の課題を自分事として捉え、協働して新たな考えを創造していく力」であると考えています。この力を育てていくためにも、教員の説明を子供たちが聞くという、いわゆる一斉指導のような授業ではなく、ICT機器や1人1台端末を活用した「個別最適な学び」や「協働的な学び」の充実が必要であると考えています。

小金井市では「授業変革」として、新たな学びの創出に取り組んでいきます。今後も、1人1台端末を活用した「個別最適な学び」と「協働的な学び」を両輪として、さらなる「授業変革」に取り組んでいきたいと考えています。

 

小金井市教育委員会

所在地
東京都小金井市

市内学校数
小学校 9校
中学校 5校

インタビュー対象者
小金井市教育委員会 学校教育部 前統括指導主事 丸山智史氏
小金井市教育委員会 学校教育部 指導主事 向井隆一郎氏