勝呂小学校の先生方

埼玉県坂戸市では、2020年度にすべての小中学校の児童生徒に端末を配布し、2021年度にスクールタクトを導入しました。各校でのICT活用頻度はさまざまですが、ここ2年の間にスクールタクトの活用が一気に広まった学校があります。全校児童400名ほどの勝呂小学校です。活用拡大の火付け役となったのは、前任校でスクールタクトの良さを実感していた濱田航平先生。

それまでスクールタクトをあまり使ったことがなかった勝呂小学校の先生たちにどのように活用を広げていったのか、これまでの経緯と具体的な取り組み、そしてその成果について伺いました。

たった2年で様変わりした「スクールタクトのある日常」

―濱田先生が赴任した当初の勝呂小学校のICT活用状況を教えてください。

濱田:私が勝呂小学校に赴任したのは、今から2年前の2022年4月。当時、ICT環境は整備されていたものの、実際に授業で活用している先生はまだ少ない印象でした。スクールタクトの存在もほとんどの先生が知りませんでしたね。

前任校の東松山市の小学校では、すでに多くの先生がスクールタクトを日常的に使っており、その操作のしやすさや授業に活用できる機能がたくさんあることに利便性を感じていました。学校の規模も、ICT環境も前任校とほぼ同じだったので、「はじめの一歩」さえクリアできれば、勝呂小学校でも活用が広がっていくのではないか──、そう思ったのです。

坂戸市立勝呂小学校 濱田航平先生
坂戸市立勝呂小学校 濱田航平先生

―実際、どのように広がっていったのでしょうか?

濱田:きっかけは、夏休みに全学年の先生を対象に行った研修です。スクールタクトについて何も知らない先生たちに、少しでも「使ってみよう」と思っていただけるように、7段階のスモールステップで習得していくオリジナルのテキストを作成しました。

ステップ1ではログインのやり方、ステップ2では授業の作成、ステップ3では写真や文字の入れ方、といったように、簡単にできることからやってみて、最終的に印刷して教室に掲示するまでをゴールとしました。この研修をきっかけに若い先生たちを中心に使い始めるようになり、学年の先生同士で「これは便利ですよ」「こうするといいですよ」などと情報を共有したり話し合ったりしながら、自分たちで授業の中に取り入れるようになっていきました。

7段階のスモールステップ のシート
活用のきっかけとなった7段階のスモールステップ

こうなると、私の出番は困ったときの問い合わせに答えるだけ。きっかけは私が作ったのかもしれませんが、活用が進んだ一番の理由は、先生たち自身がその使いやすさを実感したからだと思います。今では、学年、教員歴に関係なくほとんどの先生が、授業でも教務でも日常的にスクールタクトを活用しています。

 

スクールタクトの効果は、子供たちの声を聞くのが一番

―「スクールタクトを使わない日はない」とおっしゃる濱田先生ですが、具体的に今日の授業では、どのようにスクールタクトを活用しましたか?

濱田:私は5年生の担任をしていますが、今日は「道徳」の授業で活用しました。この日のテーマは「情報モラルを身につけ、インターネットの正しい使い方を考える」というもの。まず、「インターネットで何ができるか」を班で話し合い、スクールタクトにまとめて、発表してもらいました。

授業の様子

次にスクールタクトであらかじめムーブパーツを使って作成した言葉の中から、「自分が言われたら嫌だと思う言葉」を1つ選んでもらい、言われたら嫌な言葉の順に子供たちに並べてもらいます。

授業の様子

その後、色分けされたラベル機能で考えを分類し、さまざまな意見が視覚的に分かるように工夫しました。

授業の様子

スクールタクトの共同閲覧モードでほかの班の意見も見えるようにし、「SNSを使うときに気をつけなければならないこと」と「SNSに投稿することで考えられるトラブル」を班で話し合い、授業は終了となりました。

―ラベル機能を使った色分け、ムーブパーツ、まとめの入力や共同閲覧モードでの意見参考など、さまざまな機能を活用されていますね。

濱田:授業の進行ではタイマー機能を活用し、アナログな部分とデジタルな部分のメリハリをつけています。

今日の道徳の授業もそうでしたが、時間を区切って子供たちが自分でじっくり考える時間と、友達と意見交換するアナログ時間を作っています。意見の入力はデジタルですが、その中から良い意見があれば黒板に書き写し、授業中にいつでも見られるようにしています。こうした授業をスムーズに行っていく上で、タイマー機能は大変役立っています。

授業中にタイマー機能を活用

―スクールタクトを使うようになって、子供たちに何か変化はありましたか?

濱田:まず、意見交換が活発になりました。自分で考えるだけでなく、共同閲覧モードで友達の考えを参考にできるので、思考力の深まりは間違いなく高まっていると感じています。ただ頭の中で考えるよりも、スクールタクトを使って自分の手を動かしながら考えるほうが子供たちは楽しいようで、以前よりも主体的に授業に参加している姿が見られるようになりました。

―表現力についてはいかがですか?

濱田:表現力の向上も実感しています。例えば、国語のモジュール授業(15分程度の短い授業)では、「こんな道具があったらいいな」「好きなものの魅力を伝えてみよう」など毎回テーマを与えて、子供たちに自由記述をさせています。回数を重ねるごとに、書くことへの抵抗感がなくなり、文字数がどんどん増えていきました。また、共同閲覧モードで友達の考えが見られることによって、お互いいいものを学び合い、語彙や表現力が豊かになってきていると感じています。

実際、子供たちにも「スクールタクトの良さ」と「スクールタクトを使うようになって、何が変わったか?」についてアンケートを取ってみました。

すると「ノートよりも早くまとめられる」「紙より意見をたくさん書けるようになった」「友達と意見交換がしやすい」「席が遠い友達の考えも見られる」「友達の考えを見て、分からないところが分かるようになった」「授業が楽しくなった」「学習意欲が高まった」など、さまざまな声が上がりました。

これは、私が感じたことよりも、実際に使ってみた子供たちの意見なので、一番参考になるのではないかと思います。

スクールタクトを使う子どもたちの様子

 

国語、算数、図工など、さまざまな授業で「スクタク」を活用

―同席されている小林先生は、いつからスクールタクトを使い始めましたか?

小林:濱田先生が赴任する前は、別のサービスを使って授業を行うこともありましたが、研修を通じてスクールタクトの使いやすさを知り、大変驚きました。昨年、濱田先生と同じ学年を受け持つことになり、さらに便利な機能を教えてもらい、どんどん活用していきました。今はもうスクールタクトなしの授業は考えられないです。先生も子供たちも「スクタク」の愛称で親しんでいます。

―では、具体的にスクールタクトをどのように活用されていますか?

小林:特に効果を感じているのは、「国語」「算数」「図工」の授業です。

小林直暉先生
インタビューを受ける小林直暉先生(左側)

国語の授業では、例えば物語文の感想に対して、ワードクラウドの機能を活用しています。子供たちが書いた感想の中から出てきたキーワードを、次の授業の導入や課題設定に使っています。

今までも同じことをやっていましたが、子供たちが手書きで書いたものを集めて、自分で集約していました。このやり方だとどうしても時間がかかってしまうため、すべての単元ではできません。それがワードクラウドを使うと瞬時にキーワードが出てくるので、大変助かっています。

算数の授業では共同閲覧モードをよく使っています。共同閲覧モードの良いところは、友達の解き方を参考にできることです。分からない子は、友達の解き方を参考にすればいいし、早く解き終えてしまった子はほかの子の解き方を見て、自分以外の考え方を知ることもできます。教員にとっても間違えやすいポイントなどを教えるときに、意図的に指名ができるので、授業作りに役立っています。

図工の授業では毎週、制作記録をつけるようにしています。例えば絵画であれば、はじめのデッサンの上に色が塗られ、どんどん上書きされていきます。しかし、スクールタクトを使えば制作過程の履歴が残るので、そのときに子供たちが感じた思いを残すことができます。記録として過程が残せる、それがデジタルの良さだと思います。

図工の制作記録

図工の制作記録
完成した絵画だけでなく、制作過程で感じたことを残すことができる。

―スクールタクトで業務効率化も実現できていますか?

小林:スクールタクトを活用することで、授業準備の時間がだいぶ短縮されたと感じています。これは別の先生の話ですが、坂戸市では、子供たちに多くの本に触れて欲しいという思いから「読書手帳」という手作りの印刷物を作っており、その製本を教員や保護者がボランティアでやっていました。

これをスクールタクトで課題テンプレート化したことで、紙のコストや製本作業の手間が省けるようになりました。印刷物だと子供たちが記録できる冊数が決まってしまいますが、テンプレートであればいくらでも増やすことができます。たくさん記録できることが励みとなって、年間で100冊以上読む子も出てきています。

スクールタクトで作った読書手帳

スクールタクトで作った読書手帳
課題テンプレート化された「読書手帳」は印刷や製本の手間を省くことができる上に、ページを追加するのも簡単。

 

「まずは使ってみる」から「どのように使っていくか」を考える段階へ

―スクールタクトの利便性を多くの先生が感じているようですが、今後活用を進めていく上で、何か課題はありますか?

濱田:スクールタクトを使うと子供たちの思考力が深まるのは、どの先生も実感している一方で、自分の手で書く力も大切です。今後は授業の中でどの場面でデジタルを活用するのが良いのか、アナログが適している場面はどこかを考えながら、思考力も書く力も鍛えていきたいと思っています。

―最後にこれからの展望を教えてください。

濱田:ICTを「まずは使ってみる」という段階は終わり、これを「どのように使っていくか」を考える段階にきています。これまで使ってみてどういう点が良かったか、どういう点に気をつける必要があるか検証を重ね、場面ごとに取捨選択していくことが重要になってきます。

先生たちがこの2年の間に積極的に使ってくれたおかげで、ノウハウが学校の中で蓄積できたのは、非常に良かったです。担当学年が変わる際、前任の先生から「この授業にはこの課題テンプレートを使うといいですよ」「良かったら、これを参考にしてみてください」などと共有する姿が見られるようになりました。教員同士で良いものを教え合う文化が生まれたのは、スクールタクトのおかげです。これからも新しいものをどんどん取り入れながら、より良い学びを考え続けていきたいですね。

先生同士の振り返りの様子
授業終了後、先生同士の振り返りの様子

 

取材当日、授業見学された坂戸市教育委員会 ICT教育担当指導主事様よりスクールタクトについてコメントをいただきました。

スクールタクトを効果的に活用し、坂戸市が目指す「授業の充実」を実現したい

坂戸市教育委員会
ICT教育担当指導主事様

坂戸市では各学校の使用頻度の差はあるものの、ICT活用が浸透しつつあります。そのような中、勝呂小学校がほかの学校よりも群を抜いてスクールタクトを積極的に取り入れていることに注目しました。

勝呂小学校でスクールタクトの活用が広がったのは、濱田先生の影響力が大きかったと思います。本日の授業を見学させてもらい、スクールタクトを使って作業をする時間と考えたり対話をしたりする時間のバランスがうまく取れていると感じました。また先生たちの業務がスムーズになったことは大きな成果だと感じています。

坂戸市の学校にICTが完備されて4年が経った今、子供たちにとってICTをどのように有効活用すべきかを考えていくフェーズに入りました。

今回の勝呂小学校のようにうまくICT活用が進んでいる学校を事例とし、活用があまり進んでいない学校へ積極的に紹介していきたいと考えています。そこで重要となるのが子供たちにとっての「授業の充実」です。

坂戸市には、子供の学ぶ姿を見て自分の授業の改善を目指していく研修があります。「子供が顔を上げている」「頷いている」など、子供の姿をしっかり見取りながら、ここでは学びが深まった、ここでは深まらなかったということを一つ一つ考え、授業改善につなげていきます。そういった研修を含めて、学校の垣根を超えて事例を共有しながら試行錯誤していくことが必要です。

スクールタクトの良さは、先生次第でいかようにも活用できるところだと感じています。それぞれの先生が授業のどの場面でスクールタクトを活用するのが子供にとって効果的かを考えながら、坂戸市で最も重点を置いている「授業の充実」につなげていきたいと思います。

 

坂戸市立勝呂小学校

所在地
埼玉県坂戸市

インタビュー対象者
濱田航平先生(5年生担任)
小林直暉先生(4年生担任)

Webサイト
https://suguroes.edumap.jp

坂戸市立勝呂小学校