GIGAスクール構想を経て、子供たちは1人1台端末を使いこなし、「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実など、その学びは日々アップデートし続けています。一方で、指導する側の「学び」はどうでしょうか?いまだに一斉講義型の研修や、経験則に則った学校運営が続いていないでしょうか。

合同会社未来教育デザインの平井聡一郎氏は、こうした状況を打破し、時代に即したスクールリーダーを育てるべく、デジタルインテリジェンス(DQ)教育のリーディングカンパニーである株式会社サイバーフェリックスと共に「学校版MBAスクールリーダーシッププログラム(以後、学校版MBA)」を主催。対話と振り返りの基盤として、第2期よりチームタクト※を活用しています。

「先生が変われば、学校が変わる。学校が変われば、子供たちの未来が変わる」と語り、全国で学校DXを主導してきた平井氏に、「これからの学校経営」と、「教員の学び」についてお話を伺いました。

※チームタクトは、スクールタクトをベースとした基本機能を持ち、組織における人材育成を目的に展開するリフレクション・マネジメントシステムです。

 

「一生懸命」のプロセス評価で終わらせない。学校を真のプロ組織へ

―「学校版MBA」立ち上げ背景となる、学校現場の課題とは何でしょうか

平井:一番の課題は、学校教育と実社会の間にある大きな「断絶」です。「学校は利益を求めない聖域だ」という思い込みが、成果に対する説明責任(アカウンタビリティ)の意識を希薄にさせてきました。

企業に売上責任があるように、学校は子供の成長という「成果」に責任を持つプロであるべきです。しかし現状では、 「子供たちのために、一生懸命頑張った」という教員側のプロセスに評価が依存し、肝心の結果に対する検証が疎かになっている恐れがあります。

未来教育デザイン 代表社員の平井聡一郎氏


― 教育成果は見えにくい分、評価やマネジメントが難しいのではないのでしょうか?

平井:だからこそ、管理職は「経営者視点」への切り替えが必要なんです。国が示す学習指導要領という目標に向かって、自校のリソースをどう配分し、どのような教育活動を展開して子供たちの力を伸ばすか。これはまさに「経営」そのものです。

次期学習指導要領の改定でも、一律の教育過程編成から、柔軟なカリキュラムマネジメントに転換する議論も進んでいます。学校に裁量が与えられるからこそ、これまでの感覚的な総括に終わらせず、データをもとに客観的に検証していくことが必要です。うまくいったこともいかなかったことも、真因への解像度を高めて評価し、次の改善につなげていく「経営感覚」が不可欠なのです。

しかし、教員が管理職になる過程で、マネジメントや経営戦略を体系的に学ぶ機会はほぼありません。多くは現場での経験則や、独学に頼っているのが現状です。昨日まで教科を教えていた先生が、今日から組織のマネジメントを求められる。これでは無理があります。

―そこで、管理職や次期リーダー層が学び直す場が必要だと考えられたのですね。

平井:はい。私がこれまで見てきた「優れた学校」や「面白い実践をしている学校」には、必ずと言っていいほど、好奇心旺盛で常識にとらわれないユニークな校長がいます。トップ自らが学び、常識を打破する姿は、「失敗を恐れず挑戦してもいいんだ」という安心感を組織全体にもたらすのです。

このようなリーダーを育てるには、異業種の知見も含めた広い視野と、経験や勘ではないデータに基づいた論理的なスキルが欠かせません。管理職登用時の「学びの空白」を埋め、次世代の学校経営者を体系的に育成する場こそが、この「学校版MBA」なのです。

 

管理職に必要な4つのスキル。子供と同じツールで「学びのプロセス」を追体験

―学校版MBAでのプログラム構成について、教えてください。

平井:次世代リーダーに必要な①探究能力②問題発見・解決能力③言語化能力④情報活用能力を養うため、3つの柱でプログラムを構成しています。

1つ目は、多様な講師陣から経営のエッセンスを学ぶ「講義」。2つ目は、実際に変革が起きている現場を肌で感じる「スクールツアー」。そして3つ目が、プログラム期間を通じてグループ/個人単位で継続的に行う「メンタリング」です。
参加者は、約6カ月にわたるオンライン・オフラインでの活動を通じて、自ら見出した課題への探究を深め、プログラムの最後にはその成果を全員の前で発表します。

単なるインプットに留めず、現場の熱量に触れ、対話を通じて自らの思考を深めていく。このサイクルを回すことで、4つのスキルが着実に身に付くよう設計しています。

学校版MBAプログラム全体像(第2期)

 

―第2期の学校版MBAよりチームタクトを導入されましたが、その狙いは何だったのでしょうか?

平井:チームタクトを導入した理由は2つ。1つは、管理職自身がICTによる協働学習を「追体験」するためです。子供たちの日常となった学びの姿を、自ら体感していなければ適切な指導助言はできません。思考の可視化と学び合いの深まりを、理屈ではなく実感してもらうことが重要でした。

2つ目は、「学びのプロセス」を資産(ログ)として蓄積するためです。リーダーシップの育成には「実践・振り返り・修正」のサイクルが不可欠であり、いつでも自分の思考の軌跡に立ち戻れるストック型の基盤が必要でした。

また、多忙な教員が自らの学び(リスキリング)の時間を作るには、ICTによる業務効率化も欠かせません。これはリーダーの「情報活用能力」を磨く訓練であると同時に、全員で同時に集まることが難しい現場においても、場所や時間にとらわれない「非同期」での対話を可能にします。

多くの学校で子供たちが使っているツールだからこそ、教員も負荷なく使え、加えて思考の蓄積や客観的な分析もできる。こうした点を踏まえて、チームタクトを取り入れました。

期を通し、ストック型の学びの基盤としてチームタクトを活用

 

「あえて教えない」。思考の壁を壊し、自律を促すメンタリングの極意

―具体的にどのようにチームタクトを活用されたのですか?

平井:定例の活動として、チームタクトから課題となるワークシートを配布していました。参加者は、そこに活動の記録や振り返りを積み重ねることで内省を深め、同時に言語化能力も養っていきました。ワークシートのフォーマットは固めすぎず、白紙に近い自由度の高いものにしました。 型にはめてしまうと、単なる「穴埋め作業」になり思考が狭まります。参加者の思考の個性を引き出し、自らの言葉で語れるようにするのが狙いでした。 

また、チームタクトは閲覧範囲を柔軟に設定できるため、まずは個人の思考に集中させ、後に全体で共有して学び合うといった、質の高い対話のサイクルを状況に応じて容易に作れました。

―メンタリングで意識されていたことは

平井:開始当初、参加者の多くが「自身の経験」や「自校のルール」という狭い経験則の中で判断を下す傾向が見られました。これは役職の有無にかかわらず、外部との接点が少ないことに由来すると感じました。知らず知らずに個別の文化の中に思考が閉じ込められている状態です。その壁を壊すために、プログラムでは多彩な視点を持つ管理職をメンターに据え、徹底的に個別・集団での「壁打ち」を行いました。

メンタリングの鉄則は、「決して答えを教えない」こと。なぜそう思ったのかを問いかけたり、ポイントとなる場面のみで反応したり。本人自ら答えに辿り着くのをメンターは「待つ」のです。

よく授業での発表の後に、条件反射で「はい、拍手」で終わらせる場面がありますよね。私はあれが大嫌いなんです(笑)。一律の拍手には何の学びもありません。どこが良かったのか、自分とはどう違うのかを言語化してフィードバックする。そこまでやって初めて「承認」や「学び合い」になるのです。この徹底的な言語化が、経験則の壁を壊す鍵になると考えています。

学校管理職は、企業の経営者と同様に時に孤独な存在です。だからこそ、プログラムではメンターの力を借りながらも、参加者自ら答えにたどり着く「セルフメンタリング」の力を養います。

― あくまでもメンターはサポート。そこで思考の軌跡である「ログ」が活きてくるわけですね。

平井:その通りです。ログを見れば、その人の思考の深さが一目瞭然です。

例えば、振り返りの記述が浅くても、これまでは「頑張っているね」のフィードバックで、終わっていたかもしれません。しかし、「今回の考察はまだ表面的な事象しか捉えられていない」「前回の課題から思考が発展していない」といったことが客観的に分かります。

データが見えることで、運営側も感覚ではなく根拠を持って介入ができる。時に痛みを伴いますが「できたつもり」になっている参加者の成長のバネになるのです。

また、今回はトライアル的な活用でしたが、運営側として可能性を感じたのは「振り返りAI分析」です。参加者は自らの記述内容を分析し、観点別に自己点検することで振り返りが深まったのではないかと思います。 記述内容が深いのか浅いのか。そうした定性的な活動をデータとして可視化できる点は、今後参加者へのきめ細やかなフォローや評価をしていく上でも、強力な武器になると感じました。

記述内容をAIにより分析。客観的なデータを見ながら思考を深めていく


なぜ「振り返り」が必要なのか。データを価値に変える力

―これまでも「振り返り」の重要性を強く説かれていますが、なぜそこまでこだわるのでしょうか?

平井:AI時代の今、「答え」はすぐに手に入ります。しかし、「問い」を立て、経験から「意味」を見出す力は、人間にしか持ち得ません。その力を養う唯一の方法が「振り返り」です。

学校現場でも「振り返り」は重視されているものの、多くの場合、単発の振り返りを紙に書かせて終わり、先生がハンコを押して終わりになりがちです。それでは、データとして積み上げることもできません。

チームタクトで、日々の振り返りを蓄積すれば、それは中長期での成長を捉えるための資産になります。子供たちの「学びに向かう力」という目に見えにくい成果を可視化する方法こそ、この積み上げられた振り返りのログなのです。

 

「感覚」の壁を突き破る。管理職の学びが「変革」へつながった瞬間

―プログラムを通じて、参加者にはどのような変化が見られましたか?

平井:ある教頭先生は、以前なら熱意だけでぶつかり玉砕していたであろう提案を、「なぜそれが必要なのか」「どんな効果が見込めるのか」といったデータなどエビデンスを添えて校長にプレゼンしました。その結果見事に校長を説得し、プロジェクトを進めたのです。これはまさに、「熱意」を「エビデンス」で裏付ける経営感覚へのアップデートです。

ほかにも、対話の重要性に気づいた教員同士がフラットに語り合える「教員カフェ」を自校に設置した参加者や、メンティとして「問いかけ」による気付きを得た経験を生かし、プログラム内や自校においてメンターとして活動を始める参加者も現れました。「指示命令」から「対話と気付き」へ。管理職が変わることで学校の空気が変わり、最終的に子供の学びが変わる。「メンタリングの連鎖」による確かな手応えを感じています。

プログラムの集大成となる最終発表会の模様


教育の未来へ。学校と社会が混ざり合うエコシステムを

―最後に、今後の展望と、全国の先生方へのメッセージをお願いします。

平井:チームタクトは、教員の学び、すなわち大人のリスキリングにおける強力なインフラになると感じました。大切なのは、研修を受けて終わりではなく、学んだことを現場でどう実践し、どんな変化が起きたのかという「学習転移」です。

今や学校経営にも、EBPM(エビデンスに基づく政策立案)が求められています。「感覚」から「データ」へ。この習慣を持つことは、痛みで終わるものではありません。自分たちの行った教育活動の価値を社会に届け、理解されるための武器になるでしょう。

学校の中だけで完結する教育は、もう限界です。学校と社会が混ざり合うエコシステムが必要です。 今後の学校版MBAでも、企業の経営者などにも講師やメンターとして参加してもらい、企業のノウハウを学校へ、そして学校の先生方が持つ「公教育への使命感」や「利他の精神」を企業や社会に届けていきたいです。これは、両者にとって大きな刺激になるはずです。

今回のプログラムでも、メンターや、志を共にする仲間とチームタクトを通じてつながることが、参加者の大きな精神的支柱になりました。今後も業種の垣根を超えた「大人の学び合い」が広がり、それが日本の教育、ひいては社会全体を変える原動力になることを期待しています。痛みや摩擦を恐れず、覚悟を持って変革に挑むリーダーたちが世の中に増えるよう、応援していきます。


合同会社 未来教育デザイン

所在地
東京都

Webサイト
合同会社未来教育デザイン:
https://sites.google.com/view/miraikyoiku-design/
学校版MBAスクールリーダーシッププログラム:
https://mba–7ysl2tn.gamma.site/school-leadership