コードタクトでは、社内チームとして教育工学や教育心理学の研究をするメンバーによる教育総研を組織し、社のビジョンである「個の力をみんなで高め合う学びの場」の創り出すための理論的・実践的研究を行っています。また、それらの研究成果をスクールタクトの機能に反映し、現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めています。
この度教育総研は、まなびポケットを提供するNTTコミュニケーションズ・NTTコム ソリューションズと合同で、スクールタクトで取得できるコメントやいいねの行動ログを元にネットワーク分析やAI分析をすることで、より良い学級経営のサポートを行う実証研究を実施しました。
実証の概要
スクールタクトでは、協働閲覧機能やコメント・いいねのやり取りにより、お互いの考えを見合ったり、交換し合ったりすることができます。本実証ではまず、学級規模15〜30人の小学校2〜4、6年生を対象に日常的にコミュニケーションが生まれる朝ノート活動のログデータを用いた児童同士の人間関係のつながりの可視化(コミュニティグラフの作成)を試みました。これにより、児童間でどの程度・どのような方向でコミュニケーションが成立しているか、また学級全体でどの程度まとまりのあるコミュニティが形成されているかをビジュアルで把握することができます。
また、早稲田大学の河村茂雄教授によると、学級集団形成の発達段階が上げることで、児童同士のまなび合いや支え合いが活発になることが指摘されています(※1)。コミュニティグラフから得られた情報を元に、班分けAIを用いて新しいコミュニティの繋がりを生む班の組み合わせを提案することで、学級経営や学びの場づくりを支援しました。
約1年間の実証研究の結果、コミュニティグラフは合計20回の調査において、「先生自身の感覚とおおむね同じ」以上の回答が8割程度得られるなど、先生の感覚値に極めて近い学級状況を示しました。また、班分けAIを活用した班活動を通して、班内で相互に活発なコミュニケーションがとられ、クラス全体で大きなコミュニティ形成へ近づいたことが確認できました。実践した児童や先生からは「班分けシミュレーションが、ほぼ自分の考えと同じだった」「今までよりも交流が盛んになり仲良くなった」「協働的な活動に手応えがあった」等のフィードバックが得られました。
現在は分析やAIの精度を上げるとともに、班分けAIをクラス分けに応用する等、データ活用の用途を広げる研究を進めています。また、今回示された先生の感覚知の可視化をクラス全体での大きなコミュニティ形成・いじめや不登校傾向の早期発見につなげる方策を探究しています。
今後も現場の先生方をサポートしながら、子供たちの「生きる力」を育むサービスの開発を継続していきます。
実証の詳細
1.方法
コミュニティグラフよる学級状況可視化
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- 朝の会で朝ノートを実施することで、日常的に子供たちが自ら発表する機会・他の児童の発表に対してコメントする機会を設ける
- 朝ノートにおいて児童たちが相互にコメントし合うコミュニケーションデータから、1カ月ごとの「お互いに興味・関心を持っている児童同士の関わりグラフ(コミュニティグラフ)」を作成する
- グラフの同じ色同士をコミュニティとして併せて表示することで学級集団状況を可視化し、先生の感覚値を形式知にすることで学級経営の支援を試みる
分かること=学級の状態
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- 誰が誰と繋がっているか、また中心で活発な児童は誰か
- 端にいるフォローすべき児童は誰か
- どんなコミュニティでクラスが形成されているのか
コミュニティグラフ例
班分けAIモデルによる班分け提案
- 相互コメントデータを元に、まだ相互コメントが成立していない児童同士の関わりを増やすきっかけを班分けで生み出すために、班分けAIモデルを開発し、おすすめ班を提案する
- 端寄りにいる児童(周辺児童)に着目し、架け橋(仲介児童)を通し、まだ相互コメントが成立していない児童同士(特に中心児童⇔周辺児童)の関わりを増やし、コミュニケーションを活性化させるきっかけを班分けで生み出す。それにより、クラス全体としてのコミュニケーション・関わりの更なる活性化を目指す。
※おすすめ班は席替えやプログラミング、体育等の班活動の際に適用する
2.成果(2021年4月時点)
コミュニティグラフ
- 中心にいる児童(リアルでも活発・普段内向的だが朝ノートには活発に取り組む・朝早く登校してシートを開く)および周辺にいる児童(何かしらの理由で参加できない・参加に積極的でない)が先生の感覚と一致していた
- 「社交性や積極性が出てきた児童」や「登校しぶり予兆/解消した児童」等もデータに表れており、人間関係(友人との関わり)で悩みがありそうな子やフォローが必要そうな児童について、先生の感覚を補強できた
- これまで先生が感覚で把握していた感覚値をビジュアル化することで、形式知にすることができた
- 朝ノートの相互コメント成立数の増加が、学級状態(活発具合)の定性的フィードバックとほぼ合致した
- 2人の児童間のデータの変化から、先生も気付いていなかった関係性を示すことができた
学級の1つにおけるコミュニティグラフの変化
班分けAI
- 班分けの元になる顕在的な人間関係(友人との関わり)の部分について、ほぼ先生の感覚・考えと一致していた
- 実際の班分けでは学力・体力・運動能力等を考慮するため、複数パターンの班分けを提示され、担任が判断で選択できたことが良かった
- 実際におすすめの班分けを試行したところ、児童からは「今まで話せなかった◯◯と話すことができて仲良くなれた」という声があり、授業中の協働的活動でも、どの班も互いに協力し合って和気あいあいと活動しており、とても良い学習活動ができたという手応えがあった
3.ご協力いただいた先生・児童の声
【コミュニティグラフ】
- 毎日の朝ノートの実践と、コミュニティグラフ等の分析結果を指導に活かすことがうまく噛み合い、今年度の学級経営の軸になりました。分析・示唆・実践というサイクルが功を奏したのは間違いなく、こんなに学級経営が大成功な年は近年稀でした。もっとたくさんの先生たちに知ってほしいと感じます。
【班分けAI】
- 子供と子供を繋げる仲介役という視点がなく、自分だけではそれを見出せなかったと思います。繋がりのない子を繋げるだけでは難しさがありますが、仲介役という情報があることで、試してみたくなりました。
- 少人数学級なので、皆が家族のような雰囲気と思っていた部分がありましたが、データで示されて初めて気付いた関係性があり驚きました。少人数学級でも繋がっていない関係性を見出し、新しいコミュニケーションを生み出せることが素晴らしいと感じます。クラス替え後は子供たちの関係性が分からないので、1年間の早い段階でできれば学級経営の大きなプラスになりうると感じました。
【全体】
- 1学期に多かった友人関係のトラブルが激減し、クラス全体が周りを気遣えるようになりました。自分をコントロールできない子がいても、皆で何がいけなかったのか、どうすれば皆にとって良いか、考えることができています。
- 話すのが苦手で、教師の問いかけにも固まってしまうような子が、デジタルだからこそ自己表現の機会を得られました。クラスの皆から認められ、コミュニケーションがとれるようになり、積極性が激変しました。
- 教員側に「授業中は立ってはいけない」という意識がありましたが、今回の実証を通して「自由に立ち歩いて友達の良いところを見付けたり、分からないと正直に声を上げたり、教え合ったりしてもいいんだよ。」という声掛けができるようになりました。実際、子供達の間には、分からないことを分からないと言える雰囲気、協力して課題に取り組み、困った時はお互いに助け合う雰囲気が生まれました。授業中の学ぶ姿勢や発言量が変化し、個別学習も協働的活動も大変はかどりました。他の先生からも、授業中の雰囲気がすごく良いねと言われます。
スクールタクトに記入された班活動の感想
※1 河村茂雄. (2017). アクティブラーニングを成功させる学級づくり:「自ら学ぶ力」 を着実に高める学習環境づくりとは. 誠信書房. 河村茂雄(監修).(2012).シリーズ事例に学ぶ QU 式学級集団づくりのエッセンス 集団の発達を促す学級経営 小学校中学年.図書文化.