コードタクトでは、社内チームとして教育工学や教育心理学の研究をするメンバーによる教育総研を組織し、当社のビジョンである「個の力をみんなで高め合う学びの場」を創り出すための理論的・実践的研究を行っています。また、それらの研究成果をスクールタクトの機能に反映し、現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めています。

 2024年9月にアクトシティ浜松コングレスセンターで開催された日本教育心理学会第66回総会における会員企画シンポジウムにて、教育総研のメンバーが発表を行いました。

 シンポジウム名は「通常の学級において児童生徒同士の相互交流を促す取り組み―児童生徒同士をつなぐ支援に注目して―」であり、実践研究者として学校現場に密着し活動されている方と、中学校の元校長の方による発表が行われました。その後、教育総研のメンバーが「授業支援クラウドの具体的な活用―事業者の立場から」と題して話題提供を行いました。

 今回の話題提供は、シンポジウムの企画者がインクルーシブ教育を現場で見聞きする中で、ICT(スクールタクト)の有効性を感じられたことを契機に実現したものです。スクールタクト上における継続的な振り返り活動が、配慮が必要な児童や学級全体に及ぼしたポジティブな影響について、具体的な方法や結果、考察を報告し、会場からの質疑応答にも対応しました。本シンポジウムにおける発表内容や当日の様子について、概要を記します。

1.本シンポジウムの企画趣旨の概要

 2022年の文部科学省による調査によって、小中学校の通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒の割合は 8.8%であることが報告されています。

 一方で、特別支援教育が開始され、インクルーシブ教育の展開も求められて久しいものの、特別支援教育の対象となる児童生徒が学校や学級にうまく適応できていないという報告や示唆がなされており、義務教育段階での通常の学級におけるそうした児童生徒への指導や支援の向上が求められている状況と考えられます。また、特別支援教育の対象となる児童生徒の学級内での割合が高まっている現状では、教員が通常の学級での対応に困難をより感じることも考えられます。その結果、教員に児童生徒同士の相互作用を制限するような管理統制的な指導をする意図がなくとも、児童生徒同士の相互交流を含んだ実践を教員が避けることも予想されます。

 そこで本シンポジウムでは、特別支援教育の対象となる児導生徒の支援ニーズが高まっている義務教育段階の通常の学級において、教員が管理統制的な指導ではなく、児童生徒同士の相互交流を促す指導を展開する際に、援助となる要因を検討することを目的としました。特に「ICTの活用」と「アセスメントを活用した持続的な支援」の2点に注目して発表を行い、前者について教育総研のメンバーが話題提供を行いました。

※詳細は、日本教育心理学会第66回総会の公式ホームページおよび総会発表論文集をご覧ください。上記の企画趣旨の概要は、リンク先の論文集から一部抜粋・要約したものになります。

2.教育総研メンバーによる話題提供

2.1本話題提供の背景と概要

 企画趣旨の通り、児童生徒の特性や環境などが近年より多様になりつつある中で、教員に相互交流や学び合いを行う上での工夫がこれまで以上に求められつつあると考えられます。

本話題提供では、代表的な授業支援クラウドとして「スクールタクト」を紹介し、児童同士の相互交流をスクールタクトによって促進した小学校の事例について実践内容と定量的・定性的な結果を取り上げ、結果の考察や今後の展望に関しても言及しました。

2.2スクールタクトと実践で用いた機能の紹介

 まず本実践で利用したスクールタクトの概要や具体的な活用方法について説明しました。2024年時点で国公私立問わず、全国 2,000校以上、100万 ID 以上で導入・利用されており、総務省(2015)や文部科学省(2018)、デジタル庁(2022)といった省庁での実証に採用された実績を述べました。また回答キャンバス上で使える「課題テンプレート」は、教員経験者の監修のもと作成されたものも多く存在し、各教科や単元での学習に活用することができます。そして、課題テンプレートを学校内で共有することで教員間の協働にも寄与し得ることも合わせて紹介しました。

 その後、スクールタクトの基本的な機能の中で、特に本実践で活用した機能について、実際のスクールタクトの画面を投影しながら3つ紹介しました。
紹介したのは、教員が教材配布や資料提示を速やかに行える「課題配布機能」、複数の児童生徒の進捗を確認し教員が机間指導を補完できる「回答一覧画面」、児童生徒同士で相互に作成物を共有でき、教員がより積極的に協働学習を促進する環境を提供できる「共同閲覧機能」の3つです。

2.3事例の紹介

 スクールタクトの実績や主な機能について知っていただいた上で、事例の話題に移りました。当該の学級では学習内容の理解などの点で困難を抱える児童が在籍しており、インクルーシブの観点で授業を進める配慮が教師に求められていました。そこで当社メンバーは教員との協議の上で授業での実践内容の検討を行いました。

 決定した実践内容は、授業の終わりに5分間から10分間ほどスクールタクトの回答キャンバス上で児童に振り返りを書かせ、教員は次の授業の冒頭にその振り返りを紹介しつつ、児童同士での相互閲覧を促すというものです。また、回答一覧画面を利用することで、振り返りをなかなか書けない児童に教員は個別にフォローを行いました。この実践を当該学級の教員は約半年間、さまざまな教科で合計約170回実施しました。

 実践の効果検証のために、ICT活用の有用性認識尺度(中西・矢野, 2021)や文章産出困難感尺度(岸・梶井・飯島, 2012)、WEBQU※などの質問項目への児童の回答結果を定量的な手法として用いつつ、定性的な手法として教員へのインタビューも交えて検証しました。その結果、困難を抱える児童に変化が見られたことが示唆されました。

 具体的には、質問項目への回答の変化から、ICTを用いた協働学習に対する有用性の向上や、文章を書くことへの苦手意識の低下が、学級全体の傾向だけでなく当該児童についても見られました。また、WEBQUの結果から、学級全体が親和的な雰囲気になり、当該児童もその輪の中に少しずつ混ざっていっているような様子が推察されました。実際、そうした質問項目への回答の変化を裏付けるような声が教員へのインタビューからも確認できました。学級全体については授業を前向きに受けようとする姿勢や語彙力の向上が見られたこと、また当該の児童については、言葉にするのが苦手な傾向にあったものの、実践を通じて徐々に成長してきた様子について言及されていました。

※子供たちの学校生活における満足度と意欲、さらに学級集団の状態を調べることができるアンケートツールです。
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2.4結果の考察や今後の展望

 紹介した事例に近い論文として、「相互参照」(クラウド上で共有された他者の資料や文字データなどを、個人の端末上で参照する活用法)の研究である、遠藤・佐藤・堀田(2022)や草本・高橋(2024)を挙げました。その上で、本事例の独自性として、扱った心理尺度やインクルーシブの観点をあらためて話しました。そしてスクールタクトの共同閲覧機能が、読み手を意識した文章執筆スキルにつながったり、動機づけの伝播につながったりした可能性にも言及しました。

 また今後の展望として、コロナ禍でできなかった授業見学を行い、児童が振り返りに取り組む姿勢や教師の指導行動を観察しより良い実践に向けて改善点を探すことに言及しました。また別の学校・学級での再現性、特定の教科や単元に限定した際の結果などについても話題にしました。

3.質疑応答

 シンポジウムの終わりには、各発表に対する質疑応答の時間が設けられました。指定討論役(シンポジウムの話題提供者の内容を再整理し、疑問点や改善点などをコメントする登壇者)の大学教員の方からは、モデリング(児童同士の観察による良い影響)やスキャフォールディング(教員が足場をかけることで児童の文章作成のフォローをすること)についてコメントをいただきました。

 話題提供したコードタクトのメンバーからは、共同閲覧を通じて対面でのモデリングが促進された可能性や、回答一覧画面によって教員がスキャフォールディングしやすくなった可能性を回答し、従来のような紙での振り返りよりもICTの活用が優れる点を再度説明しました。

 また来場者の方からは、共同閲覧機能が自分の振り返りを見られる恥ずかしさや他者と比較することによる劣等感の喚起につながらないか質問されました。話題提供した同メンバーからは、振り返りとして記す題材として、まずは正解や不正解がなく、多様な意見が認められるようなものを学級の実態に合わせて選ぶことや、その際にWEBQUのようなツールを用いて学級状態を調べた上で選択することを、対策として提案しました。

 シンポジウムの概要は以上になります。発表した定量的な結果の詳細(分析結果のグラフなど)は、今後論文にすることを予定しているため、本記事では割愛させていただきました。論文が採択・掲載された際には、またご報告ができればと思っています。

 また、記事内で記しました通り、スクールタクトを用いた振り返りについて実践にご協力くださる先生方を引き続き募集しております。今後も学校現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めていきますので、当社の実証に協力したいという先生方がいらっしゃいましたら、お問い合せフォームよりご連絡ください。

参考文献

デジタル庁 (2022). 初等中等教育における校務支援システム、学習支援システム(LMS,LRS)、関連する教育アプリとの間の教育データ連携の実証研究に参加する事業者の公募  https://www.digital.go.jp/news/dcdf7f73-55ba-44b3-a482-fd892e0cbaff/ (参照日2024.10.22)
遠藤みなみ・佐藤和紀・堀田龍也. (2022). クラウド上のスプレッドシートを利用した授業の振り返りに対する児童の意識の分析. 日本教育工学会研究報告集, 2022(2), 27-31.
岸学・梶井芳明・飯島里美. (2012). 文章産出困難感尺度の作成とその妥当性の検討. 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系, 63(1), 159-169.
草本明子・高橋純. (2024). 問題ごとの振り返りにおける 1 人 1 台端末とクラウド環境での他者参照の効果. 日本教育工学会論文誌,47(Suppl.), 185-188.
文部科学省 (2018). 次世代学校支援モデル構築事業 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1387543.htm(参照日2024.10.22)
中西一雄・矢野充博. (2021). 中学校理科授業における生徒のICT 活用の有用性認識尺度の開発. 日本教育工学会論文誌, 45(2), 173-183.
総務省 (2015). 先導的教育システム実証事業(平成26年度~28年度)  
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/sendou.html(参照日2024.10.22)