コードタクトでは、社内チームとして教育工学や教育心理学の研究をするメンバーによる教育総研を組織し、社のビジョンである「個の力をみんなで高め合う学びの場」の創り出すための理論的・実践的研究を行っています。また、それらの研究成果をスクールタクトの機能に反映し、現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めています。

1. 授業のポイント

 社会課題が多様化し、複雑化する現代社会において、社会における諸問題がどのように構成されているのかという「因果関係」を捉えることは非常に重要です。しかしながら、従来の社会科、とりわけ歴史科目の授業では、教科書に書かれた事実や、教師が示す歴史観を「覚える」ことを重視した一斉教授型の授業が行われてきました。
 こうした授業では、教科書に書かれた「正しいとされる知識」を暗記することは出来ますが、生徒自身が社会的事象の関係性を捉え、因果関係を構築していく「考え方」を身につけることは困難です。
 これらの課題を解決するため、スクールタクトを使って主体的・対話的で深い学びを実現する授業方法を提案するとともに、その学習成果について検証しました。

この授業では、以下の2点の授業目標の達成を目指します。
【授業目標】
(内容領域)朝鮮を巡る日本と清の対立構造を理解し、東アジアにおける朝鮮の価値について考えることができる。
(目標領域)歴史的事象の推移について整理する中で、事象の因果関係について多角的視点から考察することができるようになる。

<対象学年>
・学年:高校一年生
・教科:歴史総合
・人数:21人
・端末:Chromebook(タッチペン付きモデル)一人一台端末

 

2. コンセプトマップ×知識構成型ジグソー法の利用

 歴史上の事件と事件の間にある因果関係の構造を整理するためには、生徒自身の頭の中にある関係性の構造を可視化するツールが必要であると考え、本実践では「コンセプトマップ」を学習に適用しました。
 また、教師が教える「歴史観」を理解するのではなく、生徒自身が教科書という限られた情報量の中から、合理的な説明を考えることに重点を起き、生徒同士での学び合いを促進するための授業手法として、知識構成型ジグソー法を導入しました。
 生徒達は対話的な活動の中で常に思考構造が整理され、アップデートされていくことになりますが、これを紙媒体で行うと作業負担が増え、肝心の対話的な活動がスムーズに行われない可能性があります。そこで、自身のコンセプトマップの編集のしやすさ、他者のコンセプトマップの閲覧のしやすさを考慮し、生徒間の対話を促進させるためのツールとしてスクールタクトを活用しました。

<Tips コンセプトマップとは>
 概念感の関係を示した図であり、概念と概念を結線していくことで関係性の有無を表現することができます。結線を矢線で表現することで、階層性や方向性を表現することも可能であり、歴史などの時系列が重要となる教科では矢線での結線を行うことで、事象間の関係性だけでなく、時代の推移なども捉えやすくなります。

3. 教師が準備する教材

1)コンセプトマップ
 生徒に配布するコンセプトマップの要素カードを作成します。
 本授業で描かせたコンセプトでは、要素(歴史的事実)の因果関係を矢線で表示するため、要素間に矢線を引いた理由を記述させる理由表を作成します。
 ※スクールタクトに表作成機能が加わり、簡単に理由表の作成ができるようになりました。

2)状態変化表
 歴史的事象の多くは当時の為政者や国、民衆など、それぞれの利害関係が関わって生じるものが多くあります。そのため、教科書内容から「誰の」「何が」「どうなる」という記述をそれぞれ抜き出し、カテゴライズして状態変化表を作成します。

 状態変化はムーブパーツで作成し、生徒が自由に動かせるように設定します。

4. 生徒の学習活動

 1)教科書を読んで構造図を作成する
 生徒には教科書を読み、各カードの事象で「誰の」「何が」「どうなったか」状態変化の中から選びながら、<原因>→<結果>の流れで歴史的事象の関係構造を整理するように指示を出します。

 状態変化は以下のようにカードと結線の間に配置させます(図は生徒が描いた状態変化)。

2)知識構成型ジグソー法による共有
 各事象に対する理解を深めるため、知識構成型ジグソー法の形式で共有作業を行います。
 エキスパートグループでは、コンセプトマップの各範囲の因果関係について考察させ、その結果をもとにジグソーグループで全体の因果関係の構造を検討させます。

3)教師による教授
 各グループが描いた構造チャートと教師が描いた構造チャートを比較し、不足している結線について説明します。また、生徒が過剰に引いた結線については、結線を引いた理由について生徒に説明してもらい、「因果関係として適切か否か」をクラス全体で検討します。
 この時、教師が持つ歴史構造を生徒に教え込むのではなく、生徒が持つ歴史構造の矛盾について指摘し、時系列や時代観など、明らかに誤っていると考えられるものについて生徒自身に気づかせるように発問を設定します。

5. 学習効果

1)内容領域の評価について
 生徒がグループ学習前に描いた構造チャートとグループ学習後に描いた構造チャートを比較すると、教師が想定した構造チャートと近似したチャートを描くようになりました(図は左から教師作成、中央がグループ学習前、右がグループ学習後)。

 このことから、今回の学習活動を通して、生徒は教師から教えられる歴史観を理解するのではなく、生徒自身が事象間の関係付けを想定し、構造の矛盾について考えながら、教師が想定する「正しいとされる」歴史観を獲得できたことが評価できます。

2)目標領域の評価について
 ジグソー法で関係付けと状態変化を共有させた結果、以下の変化が見られました。
①新たな関係付けの視点の獲得
 以下の図を見ると、個人作業の際には清と日本の関係を独立的に捉えていた生徒が、共有後には清と日本の対立構造で事象を捉えていることが見て取れます。このように、他者と比較して関係付けを考えることで、個人作業では得られなかった観点から歴史的事象を捉えることができるようになったことが評価できます。

②「もっともらしい関係性」の選択について
 以下の図を見ると、個人で作業していた時に存在していた状態変化が、グループ作業後には無くなっていることが分かります。本実践では「もっともらしい関係性の説明を考えること」を目標としており、共有後に無くなった状態変化は、他者との共有作業の際に「もっともらしさがない」と生徒たちの中で判断し、削除された可能性があります。

 他の状態変化が残っていることから、特定の生徒の意見を反映した構造チャートを描いたのではなく、生徒達が一つひとつの関係性について吟味し、事象を構造化したことが評価できます。

6. まとめ

 今回はスクールタクトを用いて構造チャートの描画を行うとともに、知識構成型ジグソー法によって各事象に対する理解を深める学習を設計しました。その効果として、①内容領域の理解の向上、②歴史的事象に対する多角的視点の獲得、ができることが示唆されました。