コードタクトでは、社内チームとして教育工学や教育心理学の研究をするメンバーによる教育総研を組織し、当社のビジョンである「個の力をみんなで高め合う学びの場」の創り出すための理論的・実践的研究を行っています。また、それらの研究成果をスクールタクトの機能に反映し、現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めています。

 今回、「生成AIを活用した見方・考え方を働かせるための授業設計の提案」と題して、2024年3月に神奈川大学 横浜キャンパスで開催された情報処理学会第86回全国大会(一般社団法人情報処理学会主催)において、教育総研のメンバーが発表を行いました。

 発表内容の概要を掲載します。

 

1.問題と目的

 中央教育審議会では、令和3年に「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現~(答申)」を取りまとめました。その中で、教科等固有の見方・考え方を働かせることの大切さや、協働的な学びにおいて異なる考え方を組み合わせることの重要性が述べられています。

 しかし、公立校では、大半が同一地域から登校し、同一学年によって学級が構成されています。とりわけ、少子高齢化が進む中で、学校の小規模化が進んでいる地域では、クラス替えもなく、学級内の児童生徒が数名程度で常に学習をしている実態があります。言い換えれば、学級内の同質性が不可避に高くなってしまうということであり、そのような学習環境では、児童生徒間で多様な意見に触れる機会が限られます。
 そこで本研究では、生成AIを活用し、児童生徒の見方・考え方を働かせ、考えを広げ深める活動を行うことで上記課題の解決を目指します。具体的には、同質性の高い学級内において、また、人数が限られた学級内において、多様さをもたらすために生成AIによる意見生成を活用した授業設計の提案を目的とします。

 

2.生成AIによる意見生成の方法

2.1.大規模言語モデルの活用

 大規模言語モデルを持つ生成AIは、入力したテキストの内容を読み取り、文章を生成するAIです。一般的な知識であれば文章を生成することができますが、教材に特化した内容をそのまま生成することは困難です。
 そこで、小学4年生国語の「ごんぎつね」や道徳の題材など、授業の前提となる教材情報と発問を入力することで、教材に合わせた意見を生成するシステムを開発しました(図1)。

図1 生成AIによる意見の画面イメージ

 

 OpenAIのGPT-4、Chat Completions APIを用いて、Ⅰ. 教材情報の入力、Ⅱ. 発問の入力、Ⅲ. 条件の設定の3つのステップに沿って、生成AIと連携する仕組みとしました。

Ⅰ. 教材情報の入力
 授業の前提となる教材情報をテキストで入力する
Ⅱ. 発問の入力
 意見生成を行いたい発問を入力する
Ⅲ. 条件の設定
 ⅰ. 出力文字数の設定
 ⅱ. 意見モードの選択
 ⅲ. 意見の書き方の選択

2.2.生成する意見のモード

 授業の目的や内容に応じて、以下の5つの意見のモードを選べるようにしました(図2)。
①標準モード 児童生徒の発達段階において想定される意見を生成するモード
②多様モード 児童生徒と異なる文化や価値観を持つ多様な意見を生成するモード
③世代モード 10代、30代、50代など各世代を代表するような意見を生成するモード
④世界モード さまざまな国の多様な価値観を踏まえた意見を生成するモード
⑤偉人モード 歴史上の人物の生い立ちや思想などを背景にした意見を生成するモード

図2 生成AIの設定画面

 

2.3.生成する意見の書き方の選択

 授業を行う学年など、発達段階に応じた表現となるよう、生成する意見の書き方を小学校中学年・小学校高学年・中学校・高校・大人から選択します。これにより、文章の表現を調整することができます。

2.4.実証校の選定

 児童生徒が多様な意見に触れることが難しいといった課題は小規模化が進む地域で顕著であると考えられます。そこで本研究では、小規模校のA小学校5年生(児童数2名)を選定しました。

2.5.実践内容

 A小学校の当該クラスの教員と第一著者との協議の上で、道徳の「おじいちゃんとの約束」という題材を扱うことにしました。
 「おじいちゃんが最後に言葉をかけた『せいいっぱい生きる』とはどう生きることなのか」という中心発問に対して、標準モードに設定し、小学校高学年の書き方設定で5名分の意見を生成しました。
 授業での意見交流の方法として、授業支援クラウドであるスクールタクトを活用しました。事前に学級内にはいない、さくら、ゆうき、ひかりなど5名分のダミーアカウントに生成した意見を転記し、クラスメート以外の意見であることが児童からも分かる状態にしました。 (図3)

 授業では、中心発問について児童が考えをスクールタクトのキャンバス画面に書いた後、共同閲覧モード(他者参照)に切り替え、AIの意見も含めたクラスメートの意見を読んで、それぞれにコメントを書ける状態にしました。その際、児童には、AIの回答であることを伏せて「先生の友達に、みんなと同じ質問をして書いてもらいました」と説明しました。

図3  共有された児童と生成されたAIによる意見
2.6.効果検証の方法

 授業録画から逐語記録を作成し、教員の発問や声かけ、児童のつぶやき等から、生成AIの意見による気づきが得られた場面を抽出し、授業録画から談話分析を行いました。

3.結果と考察

 授業の後半で、学級に紹介したい意見を児童に選ばせて、選んだ理由とともに発表しました。
 児童aは、AIの意見を通して、自分にはなかった視点から考えを深めている様子がうかがえました。児童bは、自分の意見と比較して新たな気づきを得ながら、自己の生き方について考えを深めている様子が見られました。(図4)

 このように、生成AIを活用することで、多様な意見に触れ、道徳科の見方・考え方を働かせながら、自己の生き方についての考えを深める授業設計の示唆が得られました。

図4 児童の考察

 

4.今後の課題と展望

 少人数の学級に限らず通常規模の学級、さらには、生成AIによって生成された意見を効果的に活用しやすい教科や単元などを検証していきます。
 また、生成AIが生成する意見は必ずしも事実であるとは限らないハルシネーション(幻覚)と呼ばれる現象が起きることがあります。しかし、こうした生成AIの特性を教員はもとより児童生徒も理解した上で逆手に活用することも考えられます。例えば、偉人モードの意見について、実際の歴史的事実と照らし合わせて情報の正確性を見極めたり、批判的思考力を育んだりするといった活用方法です。
 以上を踏まえて、児童生徒が考えを広げ深め、教科ごとの見方・考え方を働かせることができているかどうか検証し、授業設計で活用するための機能開発をしていく必要があります。

 以上の発表に対し、聴講した参加者からは、「生成AIであると知ったときの児童の反応はどうだったのか」といった声や「性別の設定によっても表現方法が変わるのではないか」「教科の目的や授業内容に応じて、どこまでプロンプトを設定していけば良いと考えているか」といった質問や意見が挙がりました。

 2024年度も引き続き、先生方に協力いただきながら、生成AIを活用した授業設計と効果測定を行っていく予定です。

 今後も本研究を発展させ、学校現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めていきます。当社の実証に協力したいという先生方がいらっしゃいましたら、お問い合せフォームよりご連絡ください。