GIGAスクール構想

はじめに

GIGAスクール構想が、2019年末頃から教育関係者内で話題になりつつあります。また新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休校措置にも、このGIGAスクール構想は大いに関係しています。教師全員にとって関わりの大きい構想であるといえます。本記事では、GIGAスクール構想の目指しているものや学校に求められることを中心に説明し、GIGAスクール構想に対する心構えを読者の方に持っていただくことを目指します。

GIGAスクール構想とは

文部科学省は2019年12月にGIGAスクール構想を発表しました。

この構想を実現することで、多様な子どもたちを誰一人取り残すことなく、一人ひとりに公正に個別最適化され、資質・能力を一層確実に育成できる教育ICT環境の実現を目指しています。(参考元※1)

具体的には、以下の4点がポイントとなります。

  1. 学校で児童生徒が1人1台の端末(パソコンやタブレットなどのICT機器)を割り当てられている状態を早期に実現する
  2. 学校のネットワーク環境を全校整備する
  3. ICT技術者を配置する
  4. 昨今の社会情勢も鑑みて、緊急時における家庭でのオンライン学習環境を整備する

ちなみにGIGAスクール構想のGIGAとは、単位に用いられるギガではなく,Global and Innovation Gateway for Allの略称となっています。

背景

新しい学習指導要領(小学校は2020年度から全面実施、中学校・高等学校は2021年度以降全面実施)では、「情報活用能力」が学習の基盤となる資質・能力と位置づけられています。そしてその育成のために、必要なICT環境を整えつつ、それらを適切に活用した学習活動を充実させることが求められています。(参考元※2)

しかしながら、2019年の調査では学校における教育用コンピュータを1台あたり5.4人(全国平均)の児童生徒が使っており、また地域間での格差も大きく、児童生徒が十分に活用するために理想的な環境とは程遠い状況となっています。(参考元※3)

また2018年の調査では、日本の学校におけるICT利活用はOECD加盟国で最下位であるという結果も示されています。(参考元※4)

上記2点が主な課題となっており、その解決のためにGIGAスクール構想は打ち出されたと言えるでしょう。

ロードマップ

GIGAスクール構想のロードマップについて説明します。まず2022年度を目標として、3クラスに1クラス分の端末(1台の端末につき約3人の児童生徒が用いる)の整備を目指しています。それ以降も整備を進め、2024年度には1人1台の状態に至ることを目標としています。ただし昨今の社会情勢下で、2020年4月以降に追加の予算がGIGAスクール構想に加えられたこともあり、実現が早まることも考えられます。

また端末の整備だけでなく、以下の3点も要点だと思われます。

・授業支援システムやデジタル教科書などのコンテンツをフルに活用する

・端末から学習ログなどの教育データを収集・分析し、結果をフィードバックすることで、児童生徒に個別最適化された学びを促進する

・教職員のサポートのため、校務支援システムを導入したり、必要な研修を実施する

予算は約2300億円

GIGAスクール構想に対する2020年度の補正予算額は2,292億円となっています。内訳は以下のようになっています。

児童生徒の端末整備支援

・「1人1台端末」の早期実現…1,951億円

・障害のある児童生徒のための入出力支援装置整備…11億円

学校ネットワーク環境の全校整備…71億円

GIGAスクールサポーターの配置…105億円

緊急時における家庭でのオンライン学習環境の整備

・家庭学習のための通信機器整備支援…147億円

・学校からの遠隔学習機能の強化…6億円

・「学びの保障」オンライン学習システムの導入…1億円

GIGAスクール構想の実現パッケージとは 

政策パッケージとは、政策目標を達成するために具体的に行う一連の施策といった意味合いです。GIGAスクール構想においても上述した目標の達成のために、大きく分けて5つの施策が文部科学省から打ち出されています。

(1)環境整備の標準仕様例示と調達改革

児童生徒用にどんな端末を用意すれば、またどんなネットワーク環境を校内に整備すれば良いかを推奨例を用いて示しています。

十分な通信ネットワークとクラウド活用を前提とした上で、1台あたり5万円程度の価格の端末を整備することが求められています。WindowsPC、Chromebook、iPadを例にしてそれぞれの端末の推奨スペックが具体的に示されています。

またGIGAスクール構想に基づく、高速回線に向けた校内LAN整備の標準仕様を例示しています。校内のネットワーク環境整備のために、用意するべき機材や行うべき工事を記しています。(参考元※5)

容易に大規模な調達が行えるよう、標準仕様書を基に都道府県レベルで共同で調達することも推奨しています。

(2)クラウド活用前提のセキュリティガイドライン 公表 

GIGAスクール構想が実現されていく今後の学校においては、学習の場面で児童生徒や教職員がICT機器を使う頻度が増えることでしょう。ICT機器に蓄積される教育に関するデータ利活用しつつ、個人情報の漏洩などのリスクを無くす必要があるため、「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」が作成されました。

「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」とは、各自治体が学校における情報セキュリティポリシーを策定したり見直したりする際の参考となるものです。(参考元※6)

また昨今は政府としても、クラウド・バイ・デフォルトの原則(クラウドサービスの利用を第一候補とすること)を重視しており、その原則にこのガイドラインも即しています。

(3)学校ICT利活用ノウハウ集公表

ICT機器やネットワーク環境が学校内に整備されたとしても、即座に授業内で上手く活用できる教師はあまりいないでしょう。どのように情報端末を利活用すれば良いかを、ノウハウ集により詳しく紹介しています。

特に「第4章 教科等の指導におけるICTの活用」においては、ICT機器を効果的に活用した学習場面の10の分類例を示しています。小学校、中学校、高等学校については各学校段階における各教科等ごとに、また特別支援教育については学習上の困難・障害種別ごとにICT機器を活用した効果的な学習活動の例を提示しています。(参考元※2)

(4)関係省庁施策との連携

GIGAスクール構想を文部科学省だけの尽力で実現するのは難しいため、関係省庁とも連携しています。

総務省は情報通信政策を主に担っており、学校内でのローカル5Gの活用のために文部科学省と連携します。ちなみにローカル5Gとは、自治体等が自らの敷地・建物内に5Gの通信網を自前で構築することを可能とするものです。これにより学校内での5Gの特性(超高速・超低遅延・多数同時接続)を活かした教育実践を生み出すことが可能になります。

また経済産業省は近年「未来の教室」政策において、教育とICTを活かした新しい教育を生み出すことを目指しており、実証事業などで文部科学省と連携しています。

(5)民間企業等からの支援協力募集

ICT機器やネットワーク環境の構築に必要な機器を製造・調達・設置するのは行政だけではなく、民間企業など他のアクターの協力も必要不可欠なので、支援を要請しています。またハード面だけでなくソフト面での支援も求められています。ICT機器を不備なく使えるようにするための支援員や、効果的にICT機器を活用している教師といった人材が好例でしょう。

GIGAスクール構想で対応が必要なこと

対応は主に以下の3点となります。

対応1 児童生徒用のICT機器の導入や学校内のネットワーク環境の整備

どのようなパソコン(あるいはタブレット)を導入するか、またどのような機器を設置し学校内のネットワーク環境を整備するかは、各教育委員会や学校に委ねられています。先のパッケージの話題で説明したように、公立学校においては自治体ごとの共同調達が推奨されているため、学校の担当者は共同調達のために参考となるような情報を教育委員会に提供することが一つの役割になると思われます。

また実際に学校にICT機器が導入された後には、機器の維持管理の業務も求められるでしょう。

対応2 授業や教務に必要なコンテンツの導入と利活用

ICT機器の導入と並行して、その機器で利用するコンテンツについても決定する必要があります。こちらも上記と同様に公立学校においては共同調達となることが多いかもしれません。学校の担当者は、授業支援システムなどのコンテンツをどのように活用すれば教育効果が上がるか、また校務支援システムなどをどのように活用すれば教師の負担を軽減できるか、など具体的な利活用の方針を立てる必要があるのではないでしょうか。

対応3 ICT機器の利活用

対応2とつながりますが、ただ機器を導入しただけではGIGAスクール構想は実現されません。導入後に全く活用されない、いわゆる文鎮化という状態になりかねません。「情報活用能力の育成」や「ICTを活用した学習活動の充実」は新学習指導要領でも明記されており、その達成のために、どのように授業にICT機器の利活用の場面を組み込んでいくか、教師同士が協力しつつ考え実践していく必要があるでしょう。

GIGAスクール構想の課題

上述した対応がそのまま課題になり得ます。

ICT機器に関するトラブルの可能性

急速にICT機器が学校に普及していく状況は、多くの教師にとっては未経験のことでしょう。導入する際には機器が動作するように環境を整備し、導入後も機器の維持管理をしなければなりませんが、教師の中で情報機器に関する知識に長けている方はあまり多くないでしょう。したがって対応指針が立たずトラブルが発生したり、情報機器に詳しい一部の教師に負担が集中しかねません。

ICT機器の利活用の手探り状態

ICT機器を用いた授業は、多くの教師にとって不慣れなものでしょう。どのように利活用すれば良いか試行錯誤が求められます。特に教師歴が長くご自身の教育実践に自信がある方の一部は、ICT機器を使うことにメリットを感じられず従来のやり方を続けてしまうかもしれません。教師集団が協力しながら足並みを揃えて利活用を進めることにも難しさがあるのではないでしょうか。

おわりに

本記事を通じて、GIGAスクール構想についてご説明いたしました。GIGAスクール構想は教育に対し大きな変革をもたらす可能性がある一方で、教師にかかる負担も増大する可能性も考えられます。上手く実現できれば児童生徒にとっても教師にとっても得るものが大きい構想であるため、学校内・学校外での協力を仰ぎながら進めていくことが理想的だと思われます。

※1 文部科学省(2020).GIGAスクール構想の実現について
https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_00001.htm 
※2 文部科学省(2020).「教育の情報化に関する手引」についてhttps://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_00117.html
※3 文部科学省(2019).令和元年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1420641_00001.htm
※4 国立教育政策研究所(2018).OECD生徒の学習到達度調査(PISA2018)
https://www.nier.go.jp/kokusai/pisa/
※5 文部科学省(2020).GIGAスクール構想の実現標準仕様書
https://www.mext.go.jp/content/20200303-mxt_jogai02-000003278_407.pdf 
※6 文部科学省(2019).「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」公表についてhttps://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/1397369.htm

こんな基礎知識もおすすめです

  /   /

2022年度から高校で始まる「総合的な探究の時間」をわかりやすく解説!

総合的な探究の時間が、2022年度から高等学校で本格的に導入されます。生徒が実りある時間を過ごせる期待感があるとともに、どういった活動を行うのかわかりずらい面もあります。本記事では、総合的な探究の時間について要点を抑えつつ簡潔に説明します。

  /   /

ルーブリック

教育改革の流れの中で、ルーブリックが注目されつつあります。本記事では、ルーブリックについて要点を抑えつつ簡潔に説明してまいります。

  /   /

双方向授業

本記事では、双方向授業のねらいや登場した背景などに触れつつ、オンラインでの双方向授業を支援するシステムを紹介しながら、今後の授業設計のあり方を検討する材料を読者の方に提供いたします。

スクールタクトを
試してみませんか?

スクールタクトは2カ月間無料でお試し可能です。
サービスについてのご不明点はお気軽にお問い合わせください。