はじめに
教育改革の流れの中で、ルーブリックが注目されつつあります。教育への関心が大きい方は一度は耳にしたことがある言葉かと思われます。しかしながら、ルーブリックが使われるようになった背景や、メリット・デメリット、使い方などを事細かく知っている方は少ないのではないでしょうか。本記事では、ルーブリックについて要点を抑えつつ簡潔に説明してまいります。
ルーブリックとは
ルーブリックとは、児童生徒の学習到達度を評価するための基準を表にしたものです。以下の3点がポイントです。(参考元※1)
- 課題や成果物に求める到達度を、複数の観点(知識理解や技能・態度・パフォーマンスなど)を元に評価の基準として示している
- 観点を段階に分け、それぞれの段階に到達したときの特徴を記述している
- 各観点と各段階から構成される表になっている
ルーブリックという言葉自体は耳慣れないかもしれませんが、学習指導案に記す観点別目標(評価規準)を到達度別の段階に分けたものと考えるとわかりやすいかもしれません。
ちなみにルーブリック(rubric)とは、ラテン語のrubrica(朱書き)の意味で、重要箇所や規則を強調する宗教用語が語源となっています。(参考元※2)
ルーブリックが注目される背景
ルーブリックが注目される理由は、新しい学習指導要領(小学校は2020年度から全面実施、中学校・高等学校は2021年度以降全面実施)との関わりの深さからであると考えられます。新学習指導要領では、育成すべき資質・能力を3つの柱にまとめています。(参考元※3)児童生徒が資質・能力を身につけているかを評価するには、いわゆるペーパーテストの実施が評価手法の1つとして挙げられるでしょう。しかしながら、ペーパーテストではうまく評価できないような資質・能力(問題解決能力など)も存在します。そういった機械的に点数化しづらいような資質・能力を評価することに、ルーブリックは役立つのです。
ルーブリックの目的
ペーパーテストで機械的に点数化しづらい資質・能力を評価することが目的と言えるでしょう。具体的には、ペーパーテストの代わりとして、パフォーマンス課題(リアルな状況で、さまざまな知識や技能を総合して使いこなすことを求めるような課題 参考元※4)を児童生徒に与え、到達度を観点ごとに評価するために、ルーブリックは主に用いられるのです。
ルーブリックの提唱者
ルーブリックに明確な提唱者は存在しません。ただし、注目されたきっかけの人物はウィギンズと言えるかもしれません。1980年代後半のアメリカ合衆国では、昨今の日本と同様に「テストで良い成績をおさめたとしても、それで生きて働く能力を形成したという保証になり得るのか」といった声が、ウィギンズの記したレポートを端緒として上がりました。そして、より実社会に即した場面を想定した能力を評価するための手法として、ルーブリックが注目され始めたのです。(参考元※5)
ルーブリックのメリットデメリット
ルーブリックのメリット
ルーブリックのメリットとしては、以下の3点が挙げられます。
- ペーパーテストでの評価に向かない資質・能力を評価できる
- ルーブリックを提示することで、児童生徒にとっても学習活動や自己評価の指針になり得る
- ルーブリックを提示することが、児童生徒の内発的動機づけを高め授業態度を改善する可能性がある
2、3点目については、ルーブリックを提示すれば、例えば「文章表現」の観点で到達度「2」をもらった児童生徒は、どのように改善すれば到達度「3」になるのかをルーブリックによって知ることができます。知ることにより、児童生徒が自らの学習を振り返り向上していく行動につながるかもしれません。(参考元※5)また実際の研究結果として、ルーブリックを提示された中学生はそうされなかった中学生よりも、学習に対する内発的動機づけが高く、理解を指向して授業を受ける傾向やテストを学習改善に活かそうとする傾向も高かったことが示されています。(参考元※6)
ルーブリックのデメリット
- 評価が評価者の主観に左右される
- ルーブリックの作成や実際の評価に手間がかかる
- ルーブリックが蓄積していった際の管理が難しい
採点基準が厳密に定められているペーパーテストと違い、どうしても評価が主観に依存してしまいます。メリットで述べたように、ルーブリックを児童生徒にも示すことで評価についての共通認識を持ったり、複数人で評価したりすることで、偏った評価になるリスクは下がるのではないでしょうか。
また機械的な採点も難しいので、教師が児童生徒一人ひとりを評価することにも限度があります。児童生徒自身による自己評価やグループ内での相互評価を交えることで多少改善されるかもしれません。
3点目については、ルーブリック機能を備えた授業支援システムを利用することで、管理の負担が軽減され得ます。
ルーブリックの使い方
具体例として、グループ活動における個人個人を評価するためのルーブリックを考えてみます。以下の5ステップから成ります。(参考元※1)
- 評価するための観点(例えば、情報収集・コミュニケーション・論理的思考、など)をいくつか決めます
- 決めた観点の説明を記します。例えば、情報収集であれば「グループで作成する課題に必要な情報を集め、信頼性を吟味した上で引用する。」といった具合です
- 観点ごとの到達度を何段階かに分け、それぞれの到達度の特徴を記します。例えば、情報検索を3段階に分けるとすると、到達度3は「必要な情報を書籍やウェブ上から集め、信頼できる情報か吟味した上で、引用元を明示している。」となり、到達度1は「必要な情報が引用により補足されていない。または、引用と思しき表現が課題の中に見られるが、引用元が記されていない。」となります。
- 観点を横の列、到達度を縦の列(逆でも可)に並べ、表を作成する
- 作成したルーブリックに基づき、実際に活動を評価する
スクールタクトでは、このようにルーブリックを作成することができます。
ルーブリック活用のポイント
メリットにも記しましたが、児童生徒とルーブリックの内容を共通認識として持つことが一つのポイントと思われます。ルーブリックが示されることで、児童生徒も学習目標を意識しやすくなります。学習が上手く行かなかった際にも自己点検しやすくなるでしょう。
教師が双方向授業を上手く展開できている場合は、評価の観点を児童生徒の方に募るといった方法も、児童生徒の主体的・能動的な授業への参加を促せる効果があるかもしれません。
おわりに
本記事を通じて、ルーブリックについてご説明いたしました。ルーブリックを活用することで評価を多面的かつ柔軟に行える上に、児童生徒の学習も改善でき得るといったことがおわかりいただけたかと思います。
※1 溝上慎一. (2014). アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換. 東信堂.
※2 杉森公一. (2014). キーワードで読み解く大学改革の針路第 3 回 ルーブリック. Between, 2014 年, 10-11.
http://www.shinken-ad.co.jp/between/backnumber/pdf/2014_10_Keyword.pdf
※3 文部科学省(2020).学習指導要領「生きる力」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/
※4 松下佳代. (2012). パフォーマンス評価による学習の質の評価: 学習評価の構図の分析にもとづいて. 京都大学高等教育研究, (18), 75-114.
※5 田中耕治. (2008). 学力調査と教育評価研究 (< 特集> 学力政策と学校づくり). 教育学研究, 75(2), 146-156.
※6 鈴木雅之. (2011). ルーブリックの提示による評価基準・評価目的の教示が学習者に及ぼす影響. 教育心理学研究, 59(2), 131-143.