コードタクトでは、社内チームとして教育工学や教育心理学の研究をするメンバーによる教育総研を組織し、当社のビジョンである「個の力をみんなで高め合う学びの場」を創り出すための理論的・実践的研究を行っています。また、それらの研究成果をスクールタクトの機能に反映し、現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めています。

 今回、「学びの自己調整を分析・可視化するためのツールの開発」と題して、2024年9月に東北学院大学 五橋キャンパスで開催された2024年秋季全国大会(日本教育工学会主催)において、教育総研のメンバーが発表を行いました。


発表内容の概要を掲載します。

1.研究の目的

 中央教育審議会は、令和3年に「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して(答申)」を取りまとめました。その中で、「子供が自らの学習の状況を把握し、主体的に学習を調整することができるよう促していくことが求められる」と述べ、その際に、ICTの活用により学習履歴(スタディログ)を蓄積・分析・利活用していく必要性を言及しています。
 
 児童生徒が主体的に学習を調整する方法の1つとして、単元内自由進度学習が挙げられます。これに関する実践の一例として、広島県では、学習計画表をもとに、児童生徒が自らの学習進捗を確認・調整していきます。また、木村ら(2022)の研究では、学習計画表を活用した自己調整スキルの育成の効果を検証しています。いずれも、印刷された学習計画表を用いて行っているため、「どのように学習計画を組み立てたか」「どのように計画を見直したか」といった学習を調整する過程を示す学習履歴の蓄積・分析・利活用がしづらいという課題があります。

 そこで本研究では、ICTを活用し、上記の課題を解決する自己調整ツールを開発することを目的としています。

2.自己調整ツールの開発

2.1.コンセプト

 主体的に学習を調整する学習方法の1つである自己調整学習を、予見、遂行、省察の3つのフェーズから検討したコンセプトを次に記します。

 予見では、児童生徒が単元を見通し、学習を自ら調整できるようにします。遂行では、教員と児童生徒が授業中の進捗状況を把握できるようにします。省察では、取り組みを自己評価し、振り返りを入力できるようにします。
加えて、一連の取り組みをリアルタイムに把握できるようダッシュボードを構築したり、蓄積されたデータを分析したりできるようにします。
 
また、児童生徒の活用のしやすさや、教員が授業に応じて編集しやすいことを考え、Googleスプレッドシート(以降、スプレッドシート)で動作するツールとします(図1)。


<図1>開発したICTツール(試作版)

2.2.設計

 ここでは、前節のコンセプトに沿って、ツールの設計を記します。

(1)単元の見通し
 児童生徒が学習内容をもとに学習計画を立てるカンバンボードを表示します(図1最上位ウインドウ)。学習内容は教員が事前に設定したもののほかに、児童生徒が学習内容を追加できるようにします。また、教科書や問題集などの種類ごとに色を付け、完了した学習内容が分かるようにします。

(2)予見
 授業始めに、その時間の学習の見通しを立てます。その際、時間をかけずに児童生徒が操作できるようにスプレッドシートのプルダウン機能で設定した項目から見通しや学習のペース、学習方法などを選択できるようにします。具体的な項目は、三井ら(2023)の「学びのデザインシート」をもとに、自由進度学習に取り組んでいる小学校教員3名、中学校教員2名にヒアリングして決定しました。

(3)遂行
 授業途中に、学びの自己調整が上手くいっているかどうかを確かめるために、児童生徒が進捗状況を選択します。選択はリアルタイムに反映されるため、児童生徒も教員も学習の状況を把握できるようにします。

(4)省察
 授業の終わりに、計画の達成度や学習内容の理解度、授業の満足度を選択し、学習の振り返りを記入できるようにします。

(5)総覧性
 単元を通して、児童生徒はスプレッドシート内の1つのシート上で、プルダウンで選択をしたり、振り返りを入力したりできるようにし、紙の学習計画表のように、学習の進捗を把握しやすく、前時までの振り返りも見返しやすくします。これにより、一般的なフォーム機能を用いた際に起こる前時までの記録を見ながらの回答のしづらさの解決を目指します。

(6)ラーニング・アナリティクス
 児童生徒の学びの自己調整を教員が見取り、効果的な指導・支援に繋げていくために、スプレッドシートのデータをリアルタイムにダッシュボードに表示したり、児童生徒の学習履歴(操作ログ)を分析したりできるようにします。

2.3.評価実験

 自由進度学習に取り組んでいるA中学校の英語において、前節で設計した自己調整ツールのスプレッドシートを生徒に配布して授業を実践してもらいました。また、授業の実践後に、ツールのユーザビリティ調査を行い、生徒14名から回答を得ました(図2)。

 調査のための選択肢は、「とても当てはまる(5)」から「まったく当てはまらない(1)」の5件法としました。単元を通した見通しのしやすさ・計画の立てやすさ・振り返りのしやすさは、いずれも肯定的な回答が80%を超えました。カンバンの操作性は、78%を超える肯定的な回答となりました。


<図2>自己調整ツールのユーザビリティ調査結果

 自由記述からは、「予定が横に掲示されるので、見通しが立てやすかった」「自分の進捗状況が確認できて使いやすかった」「計画をすぐに変えることができるところが使いやすい」といった内容がありました。
 これらの結果から、自己調整ツールを用いることで単元を見通して学習の計画を立てたり、自らが学びを調整しながら進めたりすることができたことが示唆されました。

3.おわりに

 今回の発表では、自己調整ツールの開発と評価実験について行いました。今後、A中学校での授業実践を通して、ダッシュボードの活用効果や、蓄積した学習履歴を分析し、質問紙やテスト結果との関連や、学びの自己調整における教員の効果的な指導・支援方法を検討していきます。

 以上の発表に対し、聴講した参加者からは、「これから重要となってくる学習者主体の学びにおいてとても調整しやすいツールになっていると思います」「こうした自己調整の学習ログから、今後、どのように指導・支援に繋がっていくのか今後の研究が楽しみです」といった意見が挙がりました。

 2024年度も引き続き、先生方に協力いただきながら、自己調整型の学びの実践と分析を行っていく予定です。

 今後も本研究を発展させ、学校現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めていきます。当社の実証に協力したいという先生方がいらっしゃいましたら、お問い合せフォームよりご連絡ください。

参考文献

中央教育審議会, 令和3年4月22日更新「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して(答申)」
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/sonota/1412985_00002.htm(参照日2024.5.25)

広島県教育委員会, 全ての子供たちの「主体的な学び」の実現に向けて
https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/kyouiku17/kobetu-teian.html(参照日2024.5.25)

伊藤崇達(2009) 自己調整学習の成立過程―学習方略と動機づけの役割、北大路書房、京都府

木村明憲ほか(2022) 自己調整スキルの育成を促すレギュレイトフォームの効果, 日本教育工学会論文誌, 46 Suppl.:25-28

三井一希ほか(2023) 教師と児童が学習の見通しを共有するための「学びのデザインシート」の設計、日本教育工学会 2023年秋季全国大会 講演論文集, pp.389-390

仲川薫ほか(2001) ウェブサイトユーザビリティアンケート評価手法の開発、第10回ヒューマンインターフェース学会紀要、pp.421-424