総合的な探究の時間

はじめに

総合的な探究の時間が、2022年度から高等学校で本格的に導入されます。「探究」という字面から、生徒が思い思いに活動して実りある時間を過ごせそうな期待感もあります。反面、主要科目とは異なる名称であるため、どういった活動を行うのかわかりづらい部分もあるのではないでしょうか。本記事では、総合的な探究の時間について要点を抑えつつ簡潔に説明してまいります。

総合的な探究の時間とは

総合的な探究の時間が導入される背景

日本の教育においては、基本的な知識・技能の育成(いわゆる「習得型」の教育)と、自ら学び考える力の育成(いわゆる「探究型」の教育)とが、対立的あるいは二者択一的に捉えられがちでした。(参考元※1)この対立構造に対し、両者のバランスとリンクが大切だという考え方が提唱されています。(参考元※2、※3)

「習得」の学習サイクルでは、既存の知識や技能を身に付けることを目的としているため、教師が主に学習指導要領をもとに学習事項や学習目標を設定します。英語や数学といった科目において、予習→授業→復習→再び予習といったサイクルを繰り返すものとなります。一方、「探究」の学習サイクルでは、児童生徒自身がテーマを設定し課題を追究するものです。探究サイクルでは、むしろ児童生徒が学ぶべきことがらや目標を設定し、教師はそれを支援することになります。追究→表現→授業→再び追究といったサイクルになります。(参考元※4)

そして、2つのサイクルは相互に独立して動くものではなく、習得サイクルで得た知識や技能が探究サイクルにおいて生かされ、逆に、探究サイクルで学習をしていると基礎的な知識・技能の必要に気づいて習得サイクルに戻るというリンク(結びつき)が必要とされます。(参考元※1、※3)こうした2つのサイクルを積極的に結びつけることで学力の向上が見込まれるのではないでしょうか。

学習の2サイクルのバランスとリンク

上記のような考え方もあってか、高等学校の新学習指導要領(2018年告示され、2022年から年次進行)では「探究」が1つのキーワードとなっており、「総合的な探究の時間」だけでなく「古典探究」や「理数探究」など「探究」のついた科目が7つ新設されます。(参考元※5)また、本学習指導要領では育成すべき資質・能力が3つの柱にまとめられており(参考元※6)、そのうちの特に「思考力・判断力・表現力」の涵養に「探究」科目が貢献することが期待されるでしょう。

総合的な探究の時間の目的

高等学校の新学習指導要領では「総合的な探究の時間」に関して以下のような目標が設定されています。(参考元※5)抜粋すると、以下の通りです。

「探究の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。」

そしてそれに付属する3つの目標から、キーワードを抽出すると、「課題の発見・解決」「実社会や実生活と自己との関わり」「主体的・協働的」の主に3つが挙げられるのではないでしょうか。

目標については、各学校においても設定することが求められています。目標の設定や評価については、ルーブリックが役立てられるでしょう。

総合的な探究の時間で行う主な活動

高等学校の新学習指導要領では「総合的な探究の時間」の内容の取扱いについても言及されています。(参考元※5)特に重要だと思われるところを5点箇条書きでピックアップします。

  • 課題の設定においては、生徒が自分で課題を発見する過程を重視すること。
  • 自分自身に関すること及び他者や社会との関わりに関することの両方の視点を生徒が自覚し、内省的に捉えられるよう配慮すること。
  • 探究の過程においては、コンピュータや情報通信ネットワークなどを適切かつ効果的に活用して、情報を収集・整理・発信するなどの学習活動が行われるようにすること。
  • 自然体験や就業体験活動、ボランティア活動などの社会体験、ものづくり、生産活動などの体験活動、観察・実験・実習、調査・研究、発表や討論などの学習活動を積極的に取り入れること。
  • グループ学習や個人研究などの多様な学習形態、地域の人々の協力も得つつ、全教師が一体となって指導に当たるなどの指導体制について工夫を行うこと。

総合的な探究の時間

近年GIGAスクール構想により、1人1台の端末(パソコンやタブレットなどのICT機器)の普及や学校へのネットワーク環境の整備が進んでいます。したがって、上記の指導要領内でも触れられているような、情報の整理や発表、他者との協働や振り返りなどに、授業支援システムを活用していくことも考えられます。

総合的な探究の時間のメリット・デメリット

総合的な探究の時間のメリット

生徒が様々なスキルを獲得できることがメリットとして挙げられます。教師を対象とした調査結果から、高校生が探求学習を通じて身に付けたと考えられるスキルの上位3つは以下のようになりました。(参考元※7)

  • 知識や情報
  • 課題を解決する力
  • 課題を発見する力

また、スーパーグローバル/サイエンスハイスクール(SGH/SSH)における探究型学習による生徒の3年間の成長を検討した研究では、

  • 批判的思考態度(論理的思考、探究心、関連づけ)
  • 探究的学習スキル(探究法、読解法、表現法)

の向上が見られました。(参考元※8)

先生にとっても、「自分が担当する科目以外の知識が広まった」「生徒の新しい面を発見するようになった」「生徒が主体的に学べる機会を増やした」といった変化が生じたようです。(参考元※7)

総合的な探究の時間のデメリット

教師を対象とした調査結果において、探究学習の授業における課題や問題点への回答の上位は以下のようになりました。(参考元※7)

  • 生徒への評価が難しい
  • 指導内容に不安が残る
  • 学習場所が広範囲になり過ぎる
  • 十分な学習計画が作成できない上に、計画通りに進めづらい
  • 生徒の授業に対するモチベーションが低い

先述した通り、「探究」は既存の知識・技能を身に付けさせるだけの活動ではありません。生徒一人ひとりに課題の発見・解決をさせつつ、体験活動や協働的な場面を設けるとなると、教師はどうしても活動のための準備や、一人ひとりのための臨機応変な対応を余儀なくされます。また生徒が大学受験を重視するあまり、探究の授業に受験への関係性を見い出せず、モチベーションを維持できないことも想像できます。メリットも多い反面、教師への負担も大きい授業だと考えられるでしょう。

おわりに

総合的な探究の時間

本記事を通じて、総合的な探究の時間についてご説明いたしました。各教科だけでは身に付けづらいスキルを獲得させつつ、生徒がそれぞれの課題に打ち込める魅力はある反面、自由度の高さ故に教師にとっては手間がかかる授業でしょう。1人1台の端末活用や他校での実践事例の蓄積によって、生徒にとって学びが多く教師にとっては負担が大き過ぎない授業が設計できると良いのではないでしょうか。

<参考文献>
※1 磯田文雄.(2014). 教育行政:分かち合う共同体をめざして.ミネルヴァ書房.
※2 文部科学省.(2005).中央教育審議会義務教育特別部会配布資料1-1
※3 市川伸一.(2004). 学ぶ意欲とスキルを育てる―いま求められる学力向上策―小学館.
※4 岡田涼・中谷素之・伊藤崇達・塚野州一. (2016). 自ら学び考える子どもを育てる教育の方法と技術 北大路書房.
※5 文部科学省.(2018). 高等学校学習指導要領解説
※6文部科学省.(2020).学習指導要領「生きる力」
※7 一般社団法人英語4技能・探究学習推進協会(編).(2020). 探究学習白書2020 英語4技能・探究学習推進協会
※8 楠見孝. (2019). 高校生の探究的学習スキルと批判的思考態度の育成 (3)―スーパーグローバル/スーパーサイエンスハイスクールにおける生徒の3年間の成長―. 日本教育心理学会総会発表論文集 第 61 回総会発表論文集 (p.161)