【実証研究】学習者主体の学びを実施することで、通常の授業よりも理由を説明する力が向上 〜ジグソー法を用いた主体的・対話的で深い学びの実現〜

 コードタクトでは、社内チームとして教育工学や教育心理学の研究をするメンバーによる教育総研を組織し、社のビジョンである「個の力をみんなで高め合う学びの場」の創り出すための理論的・実践的研究を行っています。また、それらの研究成果をスクールタクトの機能に反映し、現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めています。

 

1. 「主体的・対話的で深い学び」の実現

 文部科学省(2017)が示す『新しい学習指導要領の考え方』では、生徒の主体的・対話的で深い学びを実現するために、アクティブ・ラーニングの視点から授業改善を行うことを求めています。アクティブ・ラーニングの定義は研究者によって様々ありますが、本稿では溝上(2014)の分類を参考に、「生徒の能動的な学習」と定義しました。

 アクティブ・ラーニングに対する調査としては、以下のものが挙げられます。

①現場教員の実感について

赤堀(2017)は、アクティブ・ラーニングに関する大学生(小中高等学校でのアクティブ・ラーニングの経験を思い出して回答)及び現職教員へのアンケート調査から、大学生及び現職の小中学校教員は、グループ学習を含むアクティブ・ラーニングには思考力の育成、知識定着に効果があると考えていることを明らかにしています。

②現場教員の不安について

 しかし、キャリア教育ラボ(2018)の調査では、アクティブ・ラーニング実施上の悩みとして、授業前後の教員の負担が増加すること、授業時数の不足などが挙げられています。株式会社ラーンズ(2017)の調査では、全国の高校436校の教員を対象とした調査において、全体の36%の教員が既存の授業スタイルを変えることに対する不安を持っていることを明らかにしています。

 本実証では、こうした教員の懸念点を解消することを目的として、知識構成型ジグソー法を用いた授業と知識教授型の授業を同授業数で実施し、それぞれの授業の学習効果の違いについて検証しました。

 

2. 知識構成型ジグソー法の導入

 本実証では、アクティブ・ラーニング形式の学習手法の一つである知識構成型ジグソー法を導入し、知識教授型の授業との学習効果の比較を行います。
 知識構成型ジグソー法を導入した理由は以下の通りです。
①授業の「型」が設定されており、対話における学び合いを促進しやすい。
②既存の授業スタイルから活動型への転換を検討している教員にとっても、導入しやすい。
③資料を用意する過程で、これまで教員が蓄積してきた内容領域の専門性が活用できる。
 以上のことから、本実証では知識構成型ジグソー法を導入した授業を実践するとともに、その学習効果について検証を行いました。

 

3.実践の概要

3.1. 生徒のレディネスの確認

 学習効果を検証するにあたり、知識構成型ジグソー実施群及び知識教授実施群の生徒の前提知識に差が無いことを検証しました。事前確認問題は世界の農業に関する問題5問、世界の工業に関する問題5問、グローバル化する現代産業5問の計15問であり、すべて教科書に記載されている重要単語を答える一問一答形式で実施しています。
 知識構成型ジグソー実施群の平均正答数は12.4点、知識教授実施群の平均点数は11.5点であり、この結果についてt検定を実施し、両群には学力差が無いことを確認して実験を進めました。

3.2. 授業実践

◯対象学年と授業
 対象学年:高校一年生(知識構成型ジグソー実施群:21名、知識教授実施群20名)
 教科:地理総合
 使用教科書:帝国書院『新地理総合』
 
◯単元
 世界の産業と人々の生活

◯授業の流れ

時限

実験群:知識構成型ジグソー 

    →教員による指導無し

統制群:知識教授型授業

    →教員による指導のみ

 

・事前確認問題の実施

1

・エキスパート活動

・世界の農業と人々の生活

2

・ジグソー活動

・世界の工業と人々の生活

3

・クロストーク活動

・グローバル化する現代の産業

 

・単元まとめ問題の実施

◯知識構成型ジグソー法における生徒の活動
 知識構成型ジグソー法での授業を行った生徒には、班全体で考えるマスタークエスチョンとして、世界の南北問題が生じた理由について考えさせる問いを設定しました(図1)。

図1 スクールタクト上で生徒に配布したマスタークエスチョン

 エキスパート群の生徒には「世界の農業」、「世界の工業」、「グローバル化する現代の産業」に関する資料(図2)を配布し、それぞれの資料の内容について要約し、マスタークエスチョンにどのように関わるかを話し合わせました。

図2 スクールタクト上でエキスパート群の生徒に配布した資料 ※資料は教科書内容に関係する論文を教師が一部加工

図3 エキスパート活動中の生徒の様子

 エキスパート活動後、各班に戻ってマスタークエスチョンについて「グループごとの解答」をまとめさせた後、それぞれのグループの意見を教室全体で共有するクロストーク活動を行い、知識構成型ジグソー法の授業を終えました。

 

4. タキソノミーに基づく学習効果の検証

 知識構成型ジグソー法の学習効果を検証するにあたり、同授業で生徒がどういった教育目標を達成したのかを検証するため、Anderson(2011)の教育目標のタキソノミー(表1)に基づいた単元まとめ問題を作成し、実験群、統制群それぞれの生徒に取り組ませました。

表1 Anderson(2011)における教育目標のタキソノミー

 本実証では、知識の定着に対する教員の不安を解消すること、アクティブ・ラーニングによって思考力が身についたことを検証することを目的としているため、タキソノミーの中から認知過程の次元は「応用」まで、知識次元は「概念的知識」まで(図4中赤領域部分)を対象として分析を行いました。
 問題を作成する際には、Anderson(2001)が作成した各教育目標に対応した動詞の一覧に基づいて認知過程次元の振り分けを行い、知識次元の振り分けは「単語を答える記号的な記憶の再生」を「事実的知識」、「意味を伴う記憶、事象の相互関連性を伴う記憶の再生」を「概念的知識」として分類しました(表2)。

表2 単元まとめ問題

 知識構成型ジグソー法における学習効果を検証するため、上記の問題について実験群、統制群の点数の差について対応のないt検定(図4)を実施しました。

図4 t検定の結果 ※単元まとめ問題の得点は各設問1点で採点

 t検定の結果、知識の定着を測る「事実的知識-記憶」、「事実的知識-理解」、「概念的知識-記憶」、「概念的知識-理解」には有意差は見られませんでした。このことから、本実証で用いた知識構成型ジグソー法の授業では、知識の定着という点において、従来行われてきた知識教授型の授業との差が無いことが示唆されました。
 一方で、知識を活用する思考力を測る「事実的知識-応用」については、得点間に有意差が見られました(図4中赤枠部分)。このことから、知識構成型ジグソー法の授業を行うことで、事象が生起した理由を理解し、記述することができる思考力を身につけることができるようになったと考えます。
 しかし、複数の知識を結びつけて論を展開するような「概念的知識の応用」に関する問題については有意差が見られませんでした。実験群のうち、上記の問題に正答出来た生徒は18名中5名であり、うち3名が同グループの生徒でした。「農業」、「工業」、「現代産業」の各分野に対する「事実的知識-応用」の問題に対するジグソー群の正答率が高かったにも関わらず、複数の知識を結びつけて論を展開する「概念的知識-応用」問題において特定のグループの生徒を除いてジグソー群の正答率が低かったのは、他のグループでは資料の内容を共有し、グループごとの解答を考えるジグソー活動において、生徒間の相互作用が十分に得られず、単発的な知識の学びになっていたことが考えられます。

 

5. まとめ

 本実証では、アクティブ・ラーニングを実施することによる授業の増加に対する不安、知識の定着に対する不安を解消するため、知識構成型ジグソー法を用いた授業の提案とその効果検証を行いました。
 その結果、一般的に行われている知識教授型の授業と比べて、知識の定着には差が生じない可能性が示唆されました。また、ジグソー法を用いた授業では特定の分野に対する生徒の思考力が向上する可能性が示唆されました。
 本実証では、どちらの授業も同じ授業数(3時間)で実施しており、一般的に知識教授型の一斉授業よりも時間効率が悪いと思われがちな学習者主体の学びですが、上記の結果を踏まえると、知識構成型ジグソー法を採用した授業は時間効率の観点から見ても有用であると言えるのではないでしょうか。
 一方で、複数分野をまたいで思考する力には差が見られず、生徒間の学びの相互作用を引き起こすための手立てを今後検討していく必要があると考えます。

 

参考文献

文部科学省(2017)『新しい学習指導要領の考え方』https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/__icsFiles/afieldfile/2017/09/28/1396716_1.pdf(参照日 2022.9.10)

赤堀(2017)アクティブ・ラーニングに対する意識調査と分析
教育テスト研究センター年報、第2号、8-18
キャリア教育ラボ(2018)高校2400校の実態調査から見るアクティブ・ラーニングへの意識と効果
https://career-ed-lab.mynavi.jp/career-column/220/(参照日 2023.1.10)

株式会社ラーンズ(2017)「アクティブ・ラーニング」の指導方法についてのアンケートに関する結果報告
https://www.learn-s.co.jp/common/pdf/taqenqans.pdf(参照日 2023.1.10)

溝上慎一(2014)アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換、東信堂、東京

 

【実証研究】歴史の理解を深める新しい授業方法の提案 〜コンセプトマップ×ジグソー学習で歴史の因果関係を整理する〜

 コードタクトでは、社内チームとして教育工学や教育心理学の研究をするメンバーによる教育総研を組織し、社のビジョンである「個の力をみんなで高め合う学びの場」の創り出すための理論的・実践的研究を行っています。また、それらの研究成果をスクールタクトの機能に反映し、現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めています。

1. 授業のポイント

 社会課題が多様化し、複雑化する現代社会において、社会における諸問題がどのように構成されているのかという「因果関係」を捉えることは非常に重要です。しかしながら、従来の社会科、とりわけ歴史科目の授業では、教科書に書かれた事実や、教師が示す歴史観を「覚える」ことを重視した一斉教授型の授業が行われてきました。
 こうした授業では、教科書に書かれた「正しいとされる知識」を暗記することは出来ますが、生徒自身が社会的事象の関係性を捉え、因果関係を構築していく「考え方」を身につけることは困難です。
 これらの課題を解決するため、スクールタクトを使って主体的・対話的で深い学びを実現する授業方法を提案するとともに、その学習成果について検証しました。

この授業では、以下の2点の授業目標の達成を目指します。
【授業目標】
(内容領域)朝鮮を巡る日本と清の対立構造を理解し、東アジアにおける朝鮮の価値について考えることができる。
(目標領域)歴史的事象の推移について整理する中で、事象の因果関係について多角的視点から考察することができるようになる。

<対象学年>
・学年:高校一年生
・教科:歴史総合
・人数:21人
・端末:Chromebook(タッチペン付きモデル)一人一台端末

 

2. コンセプトマップ×知識構成型ジグソー法の利用

 歴史上の事件と事件の間にある因果関係の構造を整理するためには、生徒自身の頭の中にある関係性の構造を可視化するツールが必要であると考え、本実践では「コンセプトマップ」を学習に適用しました。
 また、教師が教える「歴史観」を理解するのではなく、生徒自身が教科書という限られた情報量の中から、合理的な説明を考えることに重点を起き、生徒同士での学び合いを促進するための授業手法として、知識構成型ジグソー法を導入しました。
 生徒達は対話的な活動の中で常に思考構造が整理され、アップデートされていくことになりますが、これを紙媒体で行うと作業負担が増え、肝心の対話的な活動がスムーズに行われない可能性があります。そこで、自身のコンセプトマップの編集のしやすさ、他者のコンセプトマップの閲覧のしやすさを考慮し、生徒間の対話を促進させるためのツールとしてスクールタクトを活用しました。

<Tips コンセプトマップとは>
 概念感の関係を示した図であり、概念と概念を結線していくことで関係性の有無を表現することができます。結線を矢線で表現することで、階層性や方向性を表現することも可能であり、歴史などの時系列が重要となる教科では矢線での結線を行うことで、事象間の関係性だけでなく、時代の推移なども捉えやすくなります。

3. 教師が準備する教材

1)コンセプトマップ
 生徒に配布するコンセプトマップの要素カードを作成します。
 本授業で描かせたコンセプトでは、要素(歴史的事実)の因果関係を矢線で表示するため、要素間に矢線を引いた理由を記述させる理由表を作成します。
 ※スクールタクトに表作成機能が加わり、簡単に理由表の作成ができるようになりました。

2)状態変化表
 歴史的事象の多くは当時の為政者や国、民衆など、それぞれの利害関係が関わって生じるものが多くあります。そのため、教科書内容から「誰の」「何が」「どうなる」という記述をそれぞれ抜き出し、カテゴライズして状態変化表を作成します。

 状態変化はムーブパーツで作成し、生徒が自由に動かせるように設定します。

4. 生徒の学習活動

 1)教科書を読んで構造図を作成する
 生徒には教科書を読み、各カードの事象で「誰の」「何が」「どうなったか」状態変化の中から選びながら、<原因>→<結果>の流れで歴史的事象の関係構造を整理するように指示を出します。

 状態変化は以下のようにカードと結線の間に配置させます(図は生徒が描いた状態変化)。

2)知識構成型ジグソー法による共有
 各事象に対する理解を深めるため、知識構成型ジグソー法の形式で共有作業を行います。
 エキスパートグループでは、コンセプトマップの各範囲の因果関係について考察させ、その結果をもとにジグソーグループで全体の因果関係の構造を検討させます。

3)教師による教授
 各グループが描いた構造チャートと教師が描いた構造チャートを比較し、不足している結線について説明します。また、生徒が過剰に引いた結線については、結線を引いた理由について生徒に説明してもらい、「因果関係として適切か否か」をクラス全体で検討します。
 この時、教師が持つ歴史構造を生徒に教え込むのではなく、生徒が持つ歴史構造の矛盾について指摘し、時系列や時代観など、明らかに誤っていると考えられるものについて生徒自身に気づかせるように発問を設定します。

5. 学習効果

1)内容領域の評価について
 生徒がグループ学習前に描いた構造チャートとグループ学習後に描いた構造チャートを比較すると、教師が想定した構造チャートと近似したチャートを描くようになりました(図は左から教師作成、中央がグループ学習前、右がグループ学習後)。

 このことから、今回の学習活動を通して、生徒は教師から教えられる歴史観を理解するのではなく、生徒自身が事象間の関係付けを想定し、構造の矛盾について考えながら、教師が想定する「正しいとされる」歴史観を獲得できたことが評価できます。

2)目標領域の評価について
 ジグソー法で関係付けと状態変化を共有させた結果、以下の変化が見られました。
①新たな関係付けの視点の獲得
 以下の図を見ると、個人作業の際には清と日本の関係を独立的に捉えていた生徒が、共有後には清と日本の対立構造で事象を捉えていることが見て取れます。このように、他者と比較して関係付けを考えることで、個人作業では得られなかった観点から歴史的事象を捉えることができるようになったことが評価できます。

②「もっともらしい関係性」の選択について
 以下の図を見ると、個人で作業していた時に存在していた状態変化が、グループ作業後には無くなっていることが分かります。本実践では「もっともらしい関係性の説明を考えること」を目標としており、共有後に無くなった状態変化は、他者との共有作業の際に「もっともらしさがない」と生徒たちの中で判断し、削除された可能性があります。

 他の状態変化が残っていることから、特定の生徒の意見を反映した構造チャートを描いたのではなく、生徒達が一つひとつの関係性について吟味し、事象を構造化したことが評価できます。

6. まとめ

 今回はスクールタクトを用いて構造チャートの描画を行うとともに、知識構成型ジグソー法によって各事象に対する理解を深める学習を設計しました。その効果として、①内容領域の理解の向上、②歴史的事象に対する多角的視点の獲得、ができることが示唆されました。

【学会レポート】ICTを活用した学級経営への新たな手法と分析を発表

コードタクトでは、社内チームとして教育工学や教育心理学の研究をするメンバーによる教育総研を組織し、当社のビジョンである「個の力をみんなで高め合う学びの場」の創り出すための理論的・実践的研究を行っています。また、それらの研究成果をスクールタクトの機能に反映し、現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めています。

今回、教育総研のメンバーで当社代表取締役でもある後藤は、ICTを活用した学級経営への新たな手法と分析を行いました。

また、本研究の成果を教育心理学年報に掲載の学会レポート「withコロナ時代における子どもたちの資質・能力を育成する協働学習の工夫―教科指導と生徒指導を統合するチーム学校の教育実践―」の一部となる「ICTを活用した協働学習」にて発表しました。
学会レポートについては、こちらから全文をご覧いただけます。

レポート概要

本学会レポートはコロナ禍の学校教育において、感染症対策とICTの積極的な利用、活用、そして協働学習をどう展開していくのかを考えることを目的に、複数の先進的な実践や報告をまとめたものです。
本レポートの一部として後藤が執筆した「ICTを活用した協働学習」では、当社とNTTコミュニケーションズ株式会社が合同で行った実証実験を通じて把握したICTの活用によるコミュニケーション手段の多様化がもたらす学級経営への効果をまとめています。

実証実験は、学校の朝の会で児童生徒がスクールタクトを使い行う「朝ノート」*の活動を対象に行いました。
朝ノートの活動におけるスクールタクトの行動ログを分析し、学級内の人間関係のつながりをコミュニティグラフとして可視化させると共に、学級状態に関する教員の感覚との比較や、学級満足度を測定する質問紙との相関性の検証などを行いました。
本研究を通じ「書くという間接的なコミュニケーション」により、普段コミュニケーションの中心にならない内気な児童が活発化すること(図1)や、コメントを貰うことが多い児童は承認感が高い傾向にあることなどがわかりました。
「ICTを活用した協働学習」では、これらの研究成果を公開しています。

*「朝ノート」とは
学級内の親密な人間関係作りを後押しすることを目的に、朝の会で児童がスクールタクト上に自身の体調や興味関心などを書き込み、学級内で相互に閲覧、コメントなどをし合う活動です。


図1 学級の人間関係のつながりを可視化したある月のコミュニティグラフ

レポート詳細

掲載媒体:教育心理学年報(2022年61巻)
発行:日本教育心理学会
タイトル:withコロナ時代における子どもたちの資質・能力を育成する協働学習の工夫
     ―教科指導と生徒指導を統合するチーム学校の教育実践―
掲載サイトはこちら

今後の展望

今後も本研究を発展させ、学校現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めていきます。
当社の実証に協力したいという先生方がいらっしゃいましたら、お問合せフォームよりご連絡ください。

【研究論文】スクールタクトのログで学級状況を把握する「CSCLを用いた学級集団分析手法の検討」

 コードタクトでは、社内チームとして教育工学や教育心理学の研究をするメンバーによる教育総研を組織し、当社のビジョンである「個の力をみんなで高め合う学びの場」の創り出すための理論的・実践的研究を行っています。また、それらの研究成果をスクールタクトの機能に反映し、現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めています。

 今回、教育総研のメンバーで当社代表取締役でもある後藤の論文「CSCLを用いた学級集団分析手法の検討」が早稲田大学大学院教育学研究科紀要に採択されましたので、カンタンに内容をご紹介します。

 

背景

デジタル庁が2022年1月に「教育データ利活用ロードマップ」を発表しました。現在、GIGAスクールにより1人1台端末の利活用が始まったばかりではありますが、中長期的にみると、ICT機器の利活用だけでなく、様々なアプリケーションを使うことで生まれる教育データを効果的に活用していくことが重要です。

そこで教育総研は、教育データの活用方法について様々な研究や実証を行っています。

 

研究の概要

このような背景のもと、今回採択された論文「CSCL※を用いた学級集団分析手法の検討」では、スクールタクトで生まれるコメント・いいねなどの行動ログを用いて、学級内での児童生徒同士の人間関係を分析できる可能性について議論し、過去の論文からその新規性について述べたものとなっています。

※CSCLとは、Computer Supported Collaborative Learningの略で、スクールタクトのような協働学習ができる授業支援システムを指します

これまで学級の状況を把握するためには、教員の見取りや、児童生徒に対して学級満足度に関するアンケート調査を行うという手法が一般的でした。

教員の見取りについては一定の経験が必要であること、児童生徒へのアンケートは授業とは別の時間に質問に回答させる必要があるため、時間的制約やアンケート実施間隔が短いと児童生徒が回答する意欲が削がれるなどの理由で、年に 1, 2 回の実施となり、日常的な実態把握が難しいという課題もあります。

そこで今回の論文では、スクールタクトのような授業中に使うアプリケーションのログで、学級の状況を把握する手法を検討しました。

 

今後の展望

今回提案した手法を元に、いくつかの学校のご協力を得て実証研究を行っています。

その1つが以前も記事化した「活かし合う学級づくりをAIで支援 〜コミュニティ可視化・班分けAI実証報告」です。

実証に協力したいという先生方がいらっしゃいましたら、お問合せフォームよりご連絡ください。

 

【実証事業】今日の学びを振り返り、皆で共有して 〜AIによる振り返りテキスト分析〜

この度教育総研は市川学園市川中学校・市川高等学校様と合同で、生徒の振り返りテキストをAIで分析して振り返りの質を判定し、授業設計や生徒支援に活かす実証研究を行いました。

コードタクトでは、社内チームとして教育工学や教育心理学の研究をするメンバーによる教育総研を組織し、当社のビジョンである「個の力をみんなで高め合う学びの場」の創り出すための理論的・実践的研究を行っています。 また、それらの研究成果をスクールタクトの機能に反映し、現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めています。

 

実証の概要

 コードタクトでは、学習者が自ら主体的・協働的に学ぶために、学習内容および学習活動の振り返り<リフレクション>を行うことで、次の学習の見通しを立てることが重要であると考えています。また、振り返りを学習者同士で共有すること<グループリフレクション(ぐるり)>が、個人および集団の学びに向かう力をより高めうると考えています。
 本実証では高校1年生の物理の授業を対象として、授業での学習内容・学習活動の振り返りを毎時間実施しました。次に、生徒が書いた振り返りテキストを独自のAI技術で分析し、ギブズのリフレクティブサイクル(下図参照)をベースに考案した11個の振り返りの観点(例:感想・自己理解(自己評価)・気付き・問い立て・アクションプラン)に該当するテキストを抽出・振り返りの質を判定しました。

ギブスのリフレクティブサイクル
ギブスのリフレクティブサイクル(1998年提唱)

 また、その結果を先生に共有し、次の授業の冒頭で、よく書けている振り返りを生徒に紹介したり、生徒が相互に振り返りを見合いコメントをし合うなどして、より深く効果的な振り返りへの分析的アプローチを試みました。さらに振り返りの分析と並行して、学習についての考え方や動機づけを問うアンケートを生徒に回答してもらい、多角的な実証を試みました。

協働学習のイメージ

 2021年1〜3月にわたる実証研究の結果、振り返りテキスト分析では向上が見られました。また、振り返りがよく書けるようになった(「感想」だけでなく「問い立て」「気付き」「アクションプラン」などの観点に言及するようになった)生徒は、学期末試験の点数が向上している傾向にありました。また、アンケート結果から、外発的な動機づけが高いとされた生徒が、振り返り活動を通じて多くの観点を含む振り返りを書くようになったことも、発見の一つでした。
 ご協力いただいた先生方からは「実証研究を通して改めて振り返りの重要性や可能性を実感した」「物理では『問い立て』が重要であり、他生徒の振り返りを見ることで『問い立て』ができるようになった生徒が増えたことは大きな意義があった」等のフィードバックをいただきました。
 今後は振り返りテキストAI分析の精度を上げるとともに、これらの機能を用いてどのような学習支援や評価への反映ができるか等、さらなる活用の可能性を探っていきます。

振り返りの質の向上についてのグラフ
あるクラスで「気付き」「問い立て」の観点に言及した生徒数の推移。1~3回目と比較して4~6回目、7~9回目の授業では「気付き」「問い立て」の観点に言及した生徒が増えた。

 

実証の詳細

1.方法

a. 授業の終わりの5分間を使い、生徒がその授業の振り返りをスクールタクト上で書いて提出(授業中に時間が取れなかった場合は宿題として提出)
b. コードタクト側で振り返りテキストをAI技術で分析し、次回の授業までに振り返りAI分析結果を先生に送付
振り返りAI分析結果の例
c. 次回の授業の冒頭で、先生がよく書けている振り返りを生徒に紹介。また、生徒は他生徒の振り返りを見てコメントを書く。(他生徒の振り返りを見ることで、生徒が自分自身では気付けなかった視点や考え方に触れることができ、生徒の振り返り力も高めることができる。)
d. 1学期間、1~3のプロセスを毎授業で実施

2ー1.成果1(2021年4月時点)

最初は振り返りに何も書かない、書いたとしても「感想」の観点のみの生徒が半数以上を占めたが、授業の回数を重ねるにつれてそのような生徒は減っていった。また、振り返りの記述量も増えていき、「問い立て」「気付き」「アクションプラン」等の観点に言及する生徒も増えた。つまり、実証実験を通して生徒の振り返り力が向上したと言える。

例:生徒Aの振り返りの変化

振り返り キャンバス画面(1回目)
振り返り キャンバス画面(1回目)

AI分析結果(1回目)
AI分析結果(1回目)

振り返り キャンバス画面(6回目)
振り返り キャンバス画面(6回目)

AI分析結果(6回目)
AI分析結果(6回目)

2-2.成果2(2021年4月時点)

振り返りがよく書けるようになった(「感想」だけでなく「自己理解(自己評価)「問い立て」「気付き」」等の観点に言及するようになった)生徒は、2学期の期末試験と比較して3学期の期末試験の点数が向上している傾向にあった。これより、生徒の振り返る力を上げることで成績も向上する可能性があることが分かった。

3.ご協力いただいた先生の声

  • これまでも振り返りは大切だと思っていたが、今回の実証実験を通して改めて振り返りの重要性や可能性を実感した。特に、物理では「問い立て」が重要であり、他生徒の振り返りを見ることで「問い立て」ができるようになった生徒が増えたことは大きな意義があると考える。
  • 物理科の他先生が授業の見学に来る等、今回の実証実験が校内でも話題となった。来年度からは振り返りを活用した授業を校内に広めていこうと考えている。

【実証事業】お互いを知り、活かし合う学級づくりをAIで支援 〜コミュニティ可視化・班分けAI実証報告 〜

 コードタクトでは、社内チームとして教育工学や教育心理学の研究をするメンバーによる教育総研を組織し、社のビジョンである「個の力をみんなで高め合う学びの場」の創り出すための理論的・実践的研究を行っています。また、それらの研究成果をスクールタクトの機能に反映し、現場の先生と児童生徒の学びを支えるサービスの創出に努めています。

 この度教育総研は、まなびポケットを提供するNTTコミュニケーションズ・NTTコム ソリューションズと合同で、スクールタクトで取得できるコメントやいいねの行動ログを元にネットワーク分析やAI分析をすることで、より良い学級経営のサポートを行う実証研究を実施しました。

実証の概要

 スクールタクトでは、協働閲覧機能やコメント・いいねのやり取りにより、お互いの考えを見合ったり、交換し合ったりすることができます。本実証ではまず、学級規模15〜30人の小学校2〜4、6年生を対象に日常的にコミュニケーションが生まれる朝ノート活動のログデータを用いた児童同士の人間関係のつながりの可視化(コミュニティグラフの作成)を試みました。これにより、児童間でどの程度・どのような方向でコミュニケーションが成立しているか、また学級全体でどの程度まとまりのあるコミュニティが形成されているかをビジュアルで把握することができます。
 また、早稲田大学の河村茂雄教授によると、学級集団形成の発達段階が上げることで、児童同士のまなび合いや支え合いが活発になることが指摘されています(※1)。コミュニティグラフから得られた情報を元に、班分けAIを用いて新しいコミュニティの繋がりを生む班の組み合わせを提案することで、学級経営や学びの場づくりを支援しました。

班分けAI実証プロセス

 約1年間の実証研究の結果、コミュニティグラフは合計20回の調査において、「先生自身の感覚とおおむね同じ」以上の回答が8割程度得られるなど、先生の感覚値に極めて近い学級状況を示しました。また、班分けAIを活用した班活動を通して、班内で相互に活発なコミュニケーションがとられ、クラス全体で大きなコミュニティ形成へ近づいたことが確認できました。実践した児童や先生からは「班分けシミュレーションが、ほぼ自分の考えと同じだった」「今までよりも交流が盛んになり仲良くなった」「協働的な活動に手応えがあった」等のフィードバックが得られました。
 現在は分析やAIの精度を上げるとともに、班分けAIをクラス分けに応用する等、データ活用の用途を広げる研究を進めています。また、今回示された先生の感覚知の可視化をクラス全体での大きなコミュニティ形成・いじめや不登校傾向の早期発見につなげる方策を探究しています。
 今後も現場の先生方をサポートしながら、子供たちの「生きる力」を育むサービスの開発を継続していきます。

実証の詳細

1.方法

コミュニティグラフよる学級状況可視化

    1. 朝の会で朝ノートを実施することで、日常的に子供たちが自ら発表する機会・他の児童の発表に対してコメントする機会を設ける
    2. 朝ノートにおいて児童たちが相互にコメントし合うコミュニケーションデータから、1カ月ごとの「お互いに興味・関心を持っている児童同士の関わりグラフ(コミュニティグラフ)」を作成する
    3. グラフの同じ色同士をコミュニティとして併せて表示することで学級集団状況を可視化し、先生の感覚値を形式知にすることで学級経営の支援を試みる

 

分かること=学級の状態 

    • 誰が誰と繋がっているか、また中心で活発な児童は誰か
    • 端にいるフォローすべき児童は誰か
    • どんなコミュニティでクラスが形成されているのか

コミュニティグラフ例
コミュニティグラフ例

 

班分けAIモデルによる班分け提案

  1. 相互コメントデータを元に、まだ相互コメントが成立していない児童同士の関わりを増やすきっかけを班分けで生み出すために、班分けAIモデルを開発し、おすすめ班を提案する
  2. 端寄りにいる児童(周辺児童)に着目し、架け橋(仲介児童)を通し、まだ相互コメントが成立していない児童同士(特に中心児童⇔周辺児童)の関わりを増やし、コミュニケーションを活性化させるきっかけを班分けで生み出す。それにより、クラス全体としてのコミュニケーション・関わりの更なる活性化を目指す。
    ※おすすめ班は席替えやプログラミング、体育等の班活動の際に適用する

 

2.成果(2021年4月時点)

コミュニティグラフ

  • 中心にいる児童(リアルでも活発・普段内向的だが朝ノートには活発に取り組む・朝早く登校してシートを開く)および周辺にいる児童(何かしらの理由で参加できない・参加に積極的でない)が先生の感覚と一致していた
  • 「社交性や積極性が出てきた児童」や「登校しぶり予兆/解消した児童」等もデータに表れており、人間関係(友人との関わり)で悩みがありそうな子やフォローが必要そうな児童について、先生の感覚を補強できた
  • これまで先生が感覚で把握していた感覚値をビジュアル化することで、形式知にすることができた
  • 朝ノートの相互コメント成立数の増加が、学級状態(活発具合)の定性的フィードバックとほぼ合致した
  • 2人の児童間のデータの変化から、先生も気付いていなかった関係性を示すことができた

実証学級の1つにおけるコミュニティグラフの変化
学級の1つにおけるコミュニティグラフの変化

班分けAI

  • 班分けの元になる顕在的な人間関係(友人との関わり)の部分について、ほぼ先生の感覚・考えと一致していた
  • 実際の班分けでは学力・体力・運動能力等を考慮するため、複数パターンの班分けを提示され、担任が判断で選択できたことが良かった
  • 実際におすすめの班分けを試行したところ、児童からは「今まで話せなかった◯◯と話すことができて仲良くなれた」という声があり、授業中の協働的活動でも、どの班も互いに協力し合って和気あいあいと活動しており、とても良い学習活動ができたという手応えがあった

 

3.ご協力いただいた先生・児童の声

【コミュニティグラフ】

  • 毎日の朝ノートの実践と、コミュニティグラフ等の分析結果を指導に活かすことがうまく噛み合い、今年度の学級経営の軸になりました。分析・示唆・実践というサイクルが功を奏したのは間違いなく、こんなに学級経営が大成功な年は近年稀でした。もっとたくさんの先生たちに知ってほしいと感じます。

【班分けAI】

  • 子供と子供を繋げる仲介役という視点がなく、自分だけではそれを見出せなかったと思います。繋がりのない子を繋げるだけでは難しさがありますが、仲介役という情報があることで、試してみたくなりました。
  • 少人数学級なので、皆が家族のような雰囲気と思っていた部分がありましたが、データで示されて初めて気付いた関係性があり驚きました。少人数学級でも繋がっていない関係性を見出し、新しいコミュニケーションを生み出せることが素晴らしいと感じます。クラス替え後は子供たちの関係性が分からないので、1年間の早い段階でできれば学級経営の大きなプラスになりうると感じました。

【全体】

  • 1学期に多かった友人関係のトラブルが激減し、クラス全体が周りを気遣えるようになりました。自分をコントロールできない子がいても、皆で何がいけなかったのか、どうすれば皆にとって良いか、考えることができています。
  • 話すのが苦手で、教師の問いかけにも固まってしまうような子が、デジタルだからこそ自己表現の機会を得られました。クラスの皆から認められ、コミュニケーションがとれるようになり、積極性が激変しました。
  • 教員側に「授業中は立ってはいけない」という意識がありましたが、今回の実証を通して「自由に立ち歩いて友達の良いところを見付けたり、分からないと正直に声を上げたり、教え合ったりしてもいいんだよ。」という声掛けができるようになりました。実際、子供達の間には、分からないことを分からないと言える雰囲気、協力して課題に取り組み、困った時はお互いに助け合う雰囲気が生まれました。授業中の学ぶ姿勢や発言量が変化し、個別学習も協働的活動も大変はかどりました。他の先生からも、授業中の雰囲気がすごく良いねと言われます。

スクールタクトに記入された班活動の感想1
スクールタクトに記入された班活動の感想2
スクールタクトに記入された班活動の感想3
スクールタクトに記入された班活動の感想4
スクールタクトに記入された班活動の感想

※1 河村茂雄. (2017). アクティブラーニングを成功させる学級づくり:「自ら学ぶ力」 を着実に高める学習環境づくりとは. 誠信書房. 河村茂雄(監修).(2012).シリーズ事例に学ぶ QU 式学級集団づくりのエッセンス 集団の発達を促す学級経営 小学校中学年.図書文化.

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