子供主体の学び合いをいかに実現するか 岡崎市で始まった「学び方改革」の目指す姿
「いずれは一人一台端末の時代が来る」という認識のもと、文部科学省によるGIGAスクール構想以前より教育委員会と学校が緊密に連携してICTを活用した学びの実践に力を入れてきた愛知県岡崎市。2020年1月には「岡崎版GIGAスクール構想」の実現に向けた取り組みをスタート。全ての多様な児童生徒たちが、自らの特性を生かし、誰一人取り残されることなく個別最適化された学習に取り組めるようにすることで、これからの時代をたくましく生き抜く資質・能力を育成することを目標に、具体的な方針が策定されました。
具体的な方針として掲げられた3本の柱は「ICT環境の整備」「学び方改革」「働き方改革」。
今回は中でも同構想による「学び方改革」に着目。誰一人取り残すことなく、それぞれの資質・能力を育むために、教員主導から学習者主体の授業への転換を目指すその想いと実際の教育活動、その中でスクールタクトが果たしている役割について、同構想の実現を担うお三方にお話しいただきました。
岡崎市教育委員会
所在地
愛知県岡崎市
市内学校数
小小学校47校、中学校20校
インタビュー対象者
岡崎市教育委員会教育政策課GIGAスクール戦略係 係長 川本祐二氏
岡崎市教育委員会教育政策課GIGAスクール戦略係 指導主事 杉坂和俊氏
岡崎市教育委員会教育政策課GIGAスクール戦略係 GIGAスクールアドバイザー 本間茂夫氏
スクールタクトを活用し、能動的に学び続ける子供たちを育む
他自治体に先駆けて、2020年10月に児童・生徒一人1台の端末整備を実現した東京都港区。すべての教員・児童・生徒に端末が行き渡り、スクールタクトを活用したタブレット授業がスタンダードになった今、次なるステージへと上がろうとしています。港区のこれまでの取り組みと今後の展望について東京都港区教育委員会の富樫学指導主事にお話を伺いました。
他自治体に先駆けて日常的にタブレットを活用
―はじめに港区のGIGAスクール構想実現へ向けてのこれまでの取り組みについて教えてください。
富樫:港区では2018年3月に策定した「港区情報化アクションプラン」に基づいて、電子黒板機能付きの大型提示装置の設置やWi-Fi通信環境の構築など、各校のICT環境の整備を進めてきました。その後、2020年10月に児童・生徒一人1台のタブレット端末整備を完了し、翌年の4月から国語・算数・数学のデジタル教科書の活用をスタート。新型コロナウイルスの感染が拡大した9月には、すべての小中学校でハイブリッド型のオンライン授業を実施しました。コロナ禍でも学びを止めることなく安心して学べる環境を実現できたのも、スクールタクトの「使いやすさ」が大きかったと感じています。
―スクールタクトを導入された経緯を教えてください。
富樫:最初はICTモデル校の御成門中学校で実証的に導入しました。コロナ禍での手応えにより、その後港区全校で導入する運びとなりました。現在スクールタクトは授業に欠かせないものとして定着したように感じます。
東京都港区教育委員会 指導主事 富樫学氏
先生の役割は「教える」から「子供たちの考えをより深める」へ変化
―スクールタクトの魅力はどこにありますか?
富樫:ツールとして非常に直感的で、先生も児童・生徒も使いやすいところが一番の魅力だと思います。先生は児童・生徒の考えを瞬時に手元で確認できるので、授業を展開していく上でとても有効に活用することができます。
すでにかなりの先生が使われていますが、スクールタクトは各教科の課題テンプレートが充実しているので、ICTに苦手意識を持っている先生でもはじめの一歩として利用するのにとても便利です。
また、これまでは先生が板書したことを児童・生徒がノートに書き写すという時間が必要でしたが、スクールタクトで課題を共有することでそれらの時間が短縮されたのも大きなメリットになっています。
―スクールタクトを活用したことで、児童・生徒にどのような変化が見られるようになりましたか?
富樫:例えば中学生のケースで言うと、生徒一人ひとりの考えが把握できるようになったことが大きいと思います。中学生になると、思春期に入り、周りを気にして人前で発言するのを嫌がったり、ためらったりする生徒が増えてきます。けれど、そんな生徒もタブレットなら心理的なハードルが下がり、抵抗なく書き込めるようです。
これは小・中学校に限らずですが、これまでの集団授業では、発表することが好きな子や得意な子が多く発言をして授業を進める、という側面があったと思います。それがスクールタクトを活用することにより、普段なかなか発言ができなかった児童・生徒の声を拾えるようになったことは、とても大きな魅力に感じます。
また、児童・生徒にとっても、さまざまな考えや意見を共有できることは、多様性を育む点でとても有効です。特に港区の区立小中学校には、外国籍の児童・生徒も多く在籍することから、自分と異なるバックグラウンドをもつ友達がどのような考えを持っているのかを知ることができます。こうしたさまざまな考えや意見を共有し、認め合い、その上で自分はどう考えるか、というのが今の時代の教育には不可欠だと感じています。
スクールタクトで意見を共有する(サンプル画面)
―スクールタクトによる学びの変化はありましたか?
富樫:スクールタクトの活用によって、授業の進め方は大きく変わってきています。板書や発表の時間が短縮された代わりに、児童・生徒はじっくり考えたり、クラスメイトと話し合ったりする時間がどの教科でも必ず入ってくるようになりました。そういう点において、港区が目指す主体的、協働的な学びが実現しつつあります。先生の役割も「教える」から「子供たちの考えをより深める」へと変わり、より中身の濃い授業になっています。スクールタクトは先生方のスタンダードになってきているといえます。
―よくICTの活用については、先生の得手不得手で活用頻度の差が出てしまうと聞きますが、どのようにして活用を広めていったのでしょうか?
富樫:港区ではICT活用推進のために、令和3年度に「GIGA×TEACHERS港区推進チーム」を発足しました。港区の教員なら誰でも参加でき、参加表明した先生方でTeamsのグループを作り、各自の実践や研修内容を報告し合い、情報を共有しています。こうした情報によって、「こんなこともできるんだ」と授業のヒントになったり、「こんなことをやってみたい」「こんなことにも使えるのではないか」と新たなチャレンジにつながったりしているようです。現在は212名(取材時)の先生が参加していて、学校の垣根を越えた横のつながりが生まれています。
また、今年度からは教育研究会に新たに情報部会を作り、国語科や社会科といった教科部会と同じように授業実践の研究を行うことになりました。スクールタクトの活用についても多くの先生方に広がっていく機会になればと考えています。
新たな学校教育を目指し、能動的に学び続ける子供たちを育む
―タブレットを使った授業が当たり前になった今、新たに抱えている課題はありますか?
富樫:2021年12月よりタブレットの持ち帰りができるようになり、児童・生徒は学校だけでなく家庭でもタブレットが使用できるようになりました。これまで以上に情報モラルに関する指導が重要だと考えています。児童・生徒のみならず保護者や教職員を含めた意識啓発が急務となっています。各校で子供たちに指導をするのはもちろんのこと、保護者向けに講習会も実施しています。
このような活動を通じて、SNSなどの使い方といったインターネット利用におけるルールやマナーを身につけるだけでなく、私たちが情報に囲まれている世の中でどう生きていくか考え続けるきっかけになってもらいたいと考えています。
―今後の展望をお聞かせください。
富樫:港区では次なるステージとして「港区GIGAスクールタスクフォース」※による学びの支援体制を強化していく意向です。具体的には先ほどでた情報モラルを高めていくことと、授業改善のみならず教員の働き方改革の推進、ICT専門チームとの連携の強化が挙げられます。
先生方の校務でも積極的にICTを取り入れ業務を効率化することで働き方改革につなげていきたいと考えています。そのほかにも各学校の校長にも協力いただき意図的に教育活動に取り入れていくなど、より一層のICT活用促進につながる動きも広げていきたいです。
今後もスクールタクトをはじめとするICTコンテンツを活用しながら新たな学校教育を目指し、生涯に渡って能動的に学び続ける子供たちを育んでいきたいと思います。
※港区GIGAスクールタスクフォースについて
https://www.city.minato.tokyo.jp/houdou/kuse/koho/houdouhappyou/documents/20220426_tasukufo-su.pdf
港区教育委員会
所在地
東京都港区
市内学校数
小学校19校 中学校10校
インタビュー対象者
東京都港区教育委員会 指導主事 富樫学氏
ICTを活用し「教える授業」から「学び合う授業」へ 学習者を中心に考えた授業の意義を伝えていきたい
栃木県宇都宮市では、NTTコミュニケーションズが提供するクラウド型プラットフォーム「まなびポケット」と端末管理ツールをパッケージ化した「GIGAスクールパック」を導入しています。2021年3月に宇都宮市すべての小中学校で児童生徒に端末が行き渡り、GIGAスクールパック経由でスクールタクトの利用も始まりました。
今年度は本格的な活用を進めるとともに、ICTを活用することで「授業が変わること」を伝えていく一年にしたいという宇都宮市教育委員会の大島指導主事。現在のICT活用状況やスクールタクトの活用についてお話を伺いました。
GIGAスクールパックの「スクールタクト」がChromebook導入の後押しに
―2020年度から全国の小中学校でGIGAスクール構想が急ピッチで進められていますが、宇都宮市ではどのような構想を立てていますか?
大島:宇都宮市ではGIGAスクール構想の推進のため市独自のGIGAスクール構想の実現イメージを示しています。ステップ1〜3までの3段階の目標があり、ステップ1では『すべての児童生徒、教職員が1人1台端末を文具の一つとして、授業の内外で日常的に活用できるようにする。』ステップ2では『協働学習ソフトなどを活用した授業を行えるようにする。』ステップ3では『教科の学びをつなぎ、社会課題の解決に生かす。』という目標設定を掲げています。
宇都宮市GIGAスクール特設サイト「宇都宮市におけるGIGAスクール構想の実現」より。
宇都宮市には小学校が69校、中学校が25校ありますが、2021年3月にすべての小中学校で児童生徒に端末が行き渡りました。文具の一つとして活用していくために、まずは写真やQRコードの読み取り、検索など簡単なことから始め、端末に慣れることに重点を置いてきました。2022年5月時点では、多くの学校がステップ1の段階にいます。一方で、ICTが進んでいる一部の学校では、ステップ2の1人1台端末を活用した協働学習にステップアップしつつあります。これだけの学校数があるので、学校や教職員によって、どうしても取り組みに差が出てしまうというのが課題ですが、その差を解消していきたいと考えています。
―スクールタクトを導入された経緯を教えてください。
大島:2020年の前半、多くの自治体がそうであったように、宇都宮市も1人1台端末のOSを何にするかで悩んでいました。
選定委員会を経て、NTTコミュニケーションズのGIGAスクールパックによりChromebookを導入することが決まりました。このGIGAスクールパックにスクールタクトが含まれているのですが、優れた協働学習支援ツールであるのはもちろんのこと、縦書きに対応できないGoogleドキュメントの短所を補うことができるのも導入の要因となりました。
またこの時点で私たちは小金井市のスクールタクト活用事例も聞いていましたし、クラウドのよさを集約したようなChromebookこそGIGAスクール時代の端末にふさわしいと考えていました。
導入後は2021年から少しずつスクールタクトなどの利用が始まっていき、体制が整っていくのはうれしかったです。
スクールタクトを使った「振り返り」で子ども同士の交流が活発に
―スクールタクトはどのように活用されていますか?
大島:最も効果的に活用されていると感じるのが「授業の振り返り」です。今までの授業では、授業の最後に児童生徒が振り返りの文章を書き、それを回収した後で教師が読み、一人一人にフィードバックするという流れでした。それが、ICTを活用することによって、教師が児童生徒の振り返りを瞬時に把握できるだけでなく、児童生徒が振り返りをお互いに共有できるようになり、いいねボタンで賛意を示したり、意見や感想を送り合ったりすることができるようになりました。
以前は先に書き終えた児童生徒は時間を持て余していましたが、自分が書いた後に友達の感想を読んだり、コメントをつけたりすることができるので、振り返りをさらに進化させることができるようになりました。それによって授業が活性化し、デジタル化のミッションである「学習者主体の学び」に近づきつつあると実感しています。
―一方で、現時点で課題はありますか?
大島:ICTを積極的に活用することで、学習者を中心にした授業へと変換できているのは、まだ一部の教職員に限られています。ですが、「ICTを活用して行こう,授業を変えよう」という動きが少しずつ出てきていると感じています。その入口として、スクールタクトが活躍しています。9000点以上用意されているテンプレートはさまざまな場面で活用できます。これまでの授業の中にそのまま組み込んで使う人もいれば、一部アレンジする人もいます。日常的なICT活用を目指す教職員が、最初に挑戦する協働学習支援ツールとしてスクールタクトの多様なテンプレートは大変役に立ちます。
スクールタクトのテンプレート画面
ただ現状は、まだ紙でやっていたことがデジタルに置き換わっただけという実態もあります。宇都宮市がICT導入により目指すところは授業の変革です。進んでいる学校では、授業の予習は児童生徒各自が家庭で行い、授業はそれらを生かした協働的な学びを中心としたものに変わりつつあります。こうした学校間の差をなくしていくために、市では25名のICT支援員をおおむね4校に1人配置し、児童生徒・教職員の端末操作支援や授業支援などをサポートしています。ICT支援員は月に一度集まり、各校から上がった声や課題を共有し合い、改善につなげています。
主体的な学びに必要なのは“安心感”
―スクールタクトを導入されてから、生徒に何か変化はありましたか?
大島:やはりスクールタクトを使っての「振り返り」の効果は大きいですね。振り返りをすることで、子ども同士の交流が盛んになり、「笑顔が増えた」と感じています。特に高学年になると、先生からの評価をもらうよりも、友達から「いいね!」や感想をもらうほうが嬉しいみたいですね。こうした活動を通じて、普段はあまり一緒にいない友達ともコメントのやりとりができ、学級の中で認め合う雰囲気作りができてきています。それが学校生活への「安心感」につながっているように感じます。
先生が「仲良くしなさい」と言うよりも、子どもたちの中で自主的にできたつながりのほうが「安心感」を得られるのだと思います。どんな考えや感想を持ってもいいんだ。そう思えるから主体的な行動ができるようになる。こうした交流から生まれた「安心感」の先に「主体的な学び」があるのだと感じています。
宇都宮市教育委員会 教育センター 副主幹・指導主事 大島昌幸氏
―今後、スクールタクトにどのようなことを期待されていますか?
大島:学習履歴だけではなく、子どもたち同士のつながりを可視化できるようになる※ と、心のケアにも使えるようになるのではないかと考えています。
データに基づいた教育を、と言われていますが、実際にデータの解析や分析ができる教職員はごくわずかだと思います。ですが、「心の天気」というアプリが注目されているように、子どもたちの様子をもっと知りたい、と気にかけている教職員は多いと思います。まずはそういう簡単なところから始めてみたほうが、学校には馴染むのではないかと考えています。今後、それをスクールタクトが担ってくれるのではないかと期待しています。
―今年度はどんな1年にしたいと考えていますか?
大島:ICTを活用することで「授業が変わること」を伝えていく1年にしたいと思います。きれいなノートを書くことを指導し、教職員によってまとめられた板書を写せば、知識が身につくだろうというような授業は、そろそろ終わりにしなければいけません。
子どもたちはChromebookを手にしたので、教職員が教えなくても児童生徒同士が相互に学んだり、自分で調べたりすることで分かることがたくさんあります。「教える授業」から「学び合う授業」へ。1年で大きな転換が起こるとは言い切れないですが、ICTを使えば、学習者を中心に考えた授業に変わっていきます。その意義を伝えていく1年にしたいですね。
※スクールタクトでは、生徒同士のコメントのやり取りの回数などが可視化できる「発言マップ」機能がご利用いただけます。
宇都宮市教育委員会
所在地
栃木県宇都宮市天神
市内学校数
小学校69校、中学校25校
インタビュー対象者
宇都宮市教育委員会 教育センター 副主幹・指導主事 大島昌幸氏
普段の授業にスムーズに導入。先生も生徒も考えの見える化の効果を実感
導入前の課題 | |
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1 | 授業の一連の流れの中で活用できる授業支援ソフトを探していた |
2 | 机間巡視だけでは、子供たちが考えた過程の全てを見ることができない |
導入後の効果 | |
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1 | 「課題配布、課題に取り組む、机間巡視」という普段の授業の流れを変えずにICTを活用できた |
2 | 子供の状況や考えをベースに授業を構築しやすくなった |
長野県伊那市では、総合的な学習の時間に力を入れています。生活の中に学びがあるという考えのもと、子供たち自身が考え、気づくことを通して生き抜く力を育むことを大切にしています。ICTにも力を入れており、森の中でのICTの活用など、最先端のツールと昔からの学びを両立させ、地方にいながら世界に通用する力を身に付けられる教育を目指しています。
伊那市教育委員会 学校教育課 ICT教育推進係長 竹松政志氏と伊那市ICT活用教育推進センター/高遠中学校 足助武彦教諭にスクールタクトの導入経緯や利活用を進める工夫について伺いました。
普段の授業の流れを変えることなく導入できた
―スクールタクト導入前の状況を教えてください。
竹松:伊那市はiPadを導入していますが、「使えるアプリはないか」とアプリ頼みになっていました。アプリの特性に応じて授業を構築する必要があり、場面ごとには使えても授業の一連の流れの中での活用は難しいという状況でした。そのためICTを活用して子供たちの意見を集約するところまで踏み込めていませんでした。
伊那市教育委員会 学校教育課 ICT教育推進係長 竹松政志氏
―スクールタクト導入の決め手は何でしたか。
竹松:スクールタクトならアプリに授業を合わせるのではなく、「課題配布、課題に取り組む、机間巡視」という普段の授業の流れを変えずにICTを活用できると感じたことです。
加えて、「わかった・わからないボタン」など児童生徒の状況がわかる機能がある点が決め手でした。スクールタクトによって、大人しい子供の反応などこれまで見えなかった部分も見えるようになりました。
スクールタクトを使って課題に取り組む様子
プロセスを含め、考えを「見える化」できることが大きな魅力
―子供たちの状況がわからないという課題があったのでしょうか。
足助:机間巡視では、考えた過程の全てを見ることはできません。スクールタクトなら書き換える前の状態を含めて見ることができます。「子供たちが書いたものがリアルタイムで見える」のは、シンプルな機能ですが教員にとって非常に重要です。
また、教員は子供の状況や考えをベースに授業を構築します。例えばある課題の回答を回収し、縮小コピーして全員分を1枚にまとめ、次の授業で配布しその問いについて議論するというように、丁寧に授業を構築しようとするほど準備には手間がかかります。スクールタクトなら全員の考えを「見える化」することが一瞬でできるのも大きな魅力です。
伊那市ICT活用教育推進センター / 高遠中学校 足助武彦教諭
自分の考えを表現し、共有することで考えが深まる
―現在のスクールタクトの利活用状況を教えてください。
市内には小中学校が21校あります。昨年までは各校3クラスに1セットしかiPadの用意がなかっため、利用率は3割程度で、毎回の授業で利用する先生もいれば、遠慮する先生もいるという状況でした。
昨年12月には一人一台の配布が完了しており、現在は利用率も上がっている状況です。
―どのように活用されていますか。
足助:授業では、課題を配布し、各自が書き込んだ意見を共有することで考えが深まっていくという使い方をしています。スクールタクトを使うと、紙だと提出しない子も喜んで提出するんです。今の子供たちのライフスタイルに合っているのかもしれません。
また、コロナ禍の休校期間にスクールタクトで日記を書く試みをしたのですが、授業以外でも使えることがわかり、利活用の幅が広がりました。
自分の意見を書き込んだり、共有することにスクールタクトを活用
竹松:ブラウザで動くため、インターネット環境があれば場所を選ばないのもメリットです。これまでのソフトウェアは学校内でしか使えませんでしたが、スクールタクトなら児童生徒がどこにいても教室に近い環境を構築できます。教員もどこからでも課題を作成、配布できます。伊那市ではコロナ禍の学習はもちろん、遠隔授業にも活用しています。
―遠隔授業とはどんなものでしょうか。
竹松:ビデオ会議システムで複数の学校を繋いで授業を行っています。小規模校では、同じメンバーで長く過ごす中で意見が固まってきてしまうことがあるため、遠隔授業は様々な知識や意見に触れることができる非常に良い機会です。そのような課題解決のために始まった取り組みですが、今では小規模校に限らず実施しています。
―遠隔授業ではどのようにスクールタクトを活用されていますか。
竹松:ビデオ会議システムだけだとお互いの手元が見えないので、スクールタクトをで課題を出し合ったり、共同閲覧モードで意見を共有しています。
遠隔授業の様子
足助:高遠中学校では、2年生の美術で写生会の事前準備を遠隔授業で行いました。高遠高校の芸術コース美術専攻の生徒さんとオンラインで繋ぎ、写生を行うためのラフスケッチをスクールタクトで共有しました。高校生からコメントを入れてもらい、そのアドバイスを参考にしながら写生に取り組みました。双方の生徒たち、中高の先生方にも非常に評判が良かったです。
美術専攻の高校生が記入したアドバイス
先生も子供たちも、考えを「見える化」できるメリットを実感
―授業や準備に変化はありましたか。
竹松:課題の配布・回収の時間短縮など、効率が良くなりました。また課題をスクールタクトで作成することで紙よりも見やすくなったという声をよく聞きます。
ただ、先生方は効率化よりも子供たちの考えの「見える化」や机間巡視では拾いきれなかった意見の集約という点にメリットを感じているようです。スクールタクトで見ていると、考えを表に出せない子や机間巡視中にノートを隠してしまう子も素晴らしい意見を持っていることに気づくことができます。
―子供たちの感想をはいかがですか。
竹松:9割以上の子供たちが授業が楽しくなったと言っています。意欲向上にもつながるので何よりです。他の人の考えが見られて良いという声も多いです。あまり話す機会のなかった友達の考えに触れ、その子のすごいところが見えるなど、子供たちもその良さを実感しているようです。
コロナ禍のスクールタクトでのオンライン授業を経て、学校に来られなかった子が登校できるようになったという話も聞きました。
友達と話し合う様子
利活用のカギは、「子供たちの学びにとってプラス」と実感してもらうこと
―多くの先生に使ってもらうためにどのような工夫をされていますか。
竹松:ICTに明るい先生ばかりではないので、2014年から足助先生に各校を回ってもらい研修を実施しています。簡単な機能から使い始めたり、先生が授業で困っていることがスクールタクトで解決できることを伝え、利活用につなげていきました。
―市内での利活用を進めるために、活用している学校の数を増やすという観点と、学校内で使っている先生の割合を増やすという観点があると思うのですが。
竹松:学校数を増やすのは、校長先生の理解が得られれば早いです。活用する先生を増やすには、抵抗感をぬぐう必要があります。特に「子供たちの学びにとってプラスになりそう」「授業で使える」と実感してもらうことが大切です。実は、使ってみて合わないという先生はあまりいないんです。故に、使うきっかけづくりと丁寧なサポートが大切だと思います。
優等生もなかなか答えを書けない子も、他者の考えに触れて学ぶことが可能
―スクールタクトで友達の考えに触れ、学んだ子供たちはどう成長していくと思われますか。
足助:クラスには優等生もいればなかなか答えを出せない子もいます。どちらのタイプの子も、スクールタクトで他の人の考えに触れ学ぶことができます。
優等生タイプの子は、仮に不正解であっても友達の考えを知ることはプラスだと言って喜んでいます。色々な考えがあることを認識しつつ努力できる人に成長できるでしょう。逆にすぐに答えの出せない子は、スクールタクトで友達の解き方を見ることで分からないまま過ごす時間が少なくなります。他者の考えを参考にして取り入れることを身につけたり、自分の考えに気づいたりすることができるんです。
グループで学習する様子
家庭学習と連動した授業でこれからの社会で求められる力を育成したい
―今後スクールタクトをどう活用したいですか。
足助:家庭学習と授業をもっと連動させたいです。「子供たちの回答をコピーし、次の授業で配って共有する」という授業の流れの前半部分を、家庭学習でやってしまうんです。教員は家庭学習の状況をスクールタクトで確認し、それを元に授業を構築できます。子供たちは予習した状態で授業に臨みますから、知識を注入する授業ではなく、友達と議論しながら自分の考えをまとめていく授業を展開できます。これからの社会で求められる力を育成することができると考えています。
スクールタクトの画面を見ながら話す児童と先生