オンラインでも仲間と一緒にいる感覚を得る!子供たちが安心して自信を取り戻す学びの場
まなビバ!シリウス代表 安楽岡(やすらおか) 優子氏
「まなビバ!シリウス」は、「すべてのこどもたちが人と人のつながりを感じながら安心して自分らしくいきいきと生きていける」ことを目指して作られた、学校ではない子供たちの第3の居場所です。蔵を改装した対面で集まれる「蔵のがっこう」と、オンラインで全国の子供たちがつながり合う「風のがっこう」、そして群馬県の委託事業「オリナスオンライン」などを設けています。
そして、子供たちが安心してコミュニケーションを取ったり学んだりできるよう、2021年からスクールタクトを活用しています。子供たちが安心できる場づくりへの思いやスクールタクト活用への期待について、「まなビバ!シリウス」代表の安楽岡(やすらおか) 優子さんにお話を聞きました。
「まなビバ!シリウス」は学校ではない第3の居場所
―「まなビバ!シリウス」の概要を教えてください。
安楽岡:まなビバ!シリウス」は一般的にはフリースクールという定義になるのでしょうが、もう少し広い意味で「学び場」という表現を使っています。小学生と中学生が自分らしくいられることを大事したいという思いを軸にした、学校ではない第3の居場所です。
現在、合計47人と関わらせていただいています。内訳としては築100年の蔵を改装し対面で集まれる「蔵のがっこう」に8人、オンラインで関東・関西・九州など全国の子供がつながり合う「風のがっこう」に14人、さらにシリウスパークというSNSでの交流に3人が参画してくださっています。また、群馬県の委託事業「オリナスオンライン」に16人が登録してくださっています。加えて、「オープンシリウス」という、どなたでも参加できるイベントにも6人ほどが参加しています。
―どういったお子さんが通っているのですか。
安楽岡:「蔵のがっこう」は、学校が合わず、「行けない」「行きたくない」という思いを持っている子が多いです。また、小学校から中学校に上がるタイミングでオルタナティブスクールを探して「まなビバ!シリウス」に辿り着いてくださった子もいます。
「風のがっこう」は学校が合わない子が半分で、コロナ禍で自主休校を続けてきている子が半分という構成になっています。
蔵のがっこうでの様子
―子供たちが在籍している小中学校とは連携なさっていますか。
安楽岡:先生たちから「出席扱いにしたいので、様子を教えてください」というご連絡をいただき、レポートをお送りすることがあります。それにより、校長先生の判断で出席扱いになるケースも多いです。
ただ、ここでやっと居場所を見つけて自分らしくいられた子も少なくないので、学校の先生に様子を知られたくないという意向を持っている場合もあります。そのため、学校にレポートをする前には必ず子供とご家庭に許諾をいただきます。
全国の子供たちがオンラインでつながる「風のがっこう」の仕組みとは?
―主にスクールタクトを活用している「風のがっこう」のタイムスケジュールを教えてください。
安楽岡:子供たちは自宅のパソコンやタブレットでそれぞれ参加します。10時から朝の会をして、ここで各自「朝ノート」を書く際にスクールタクトを使っています。10:10から学習タイムがスタートします。ここでは、子供たちが自分で学習する内容を決めて取り組みます。子供たちが自主的に打ち込む時間なので、スタッフは見守ったり質問に答えたりします。自主学習の際には、静かに勉強したい子もいれば、わいわい話しながら取り組みたい子もいるので、Zoomで「静か部屋」と「わいわい部屋」の2パターンでブレイクアウトルームを作って、それぞれの子供が学習に集中できるようにしています。
10:45から「アクティビティ」の時間になります。毎回違うことを行うのですが、ダンスをやったりクッキングをしたり実験をしたりしています。
風のがっこうのタイムスケジュール
アクティビティの時間の様子
―「風のがっこう」はどのような経緯でスタートしたのですか。
安楽岡:もともと「おしゃべり哲学」という哲学対話をオンラインで実施していたので、Zoomを活用したつながりの創出は行っていました。その後、コロナ禍で全国的に一斉休校期間があった時に、無料で子供たちがつながり合える場をオンラインで設けました。SNSなどでも拡散していただき、全国から子供たちが集う現在の「風のがっこう」が作られていきました。
リアルタイムで子供たちの書いた内容を確認できる魅力
―スクールタクトを活用するきっかけを教えてください。
安楽岡:2021年に「風のがっこう」を作った際、書いている内容をインタラクティブに共有できるようなツールを探していました。さまざま調べている中で、スクールタクトを見つけました。私がスクールタクトが素晴らしいと思ったのは、リアルタイムで子供たちの書いている内容を確認できることです。「蔵のがっこう」は少人数で子供たちが取り組んでいる様子がすぐにわかるので目で確認すればいいのですが、オンラインではそれができません。
例えば、みんなと交流することが苦手だったり様子見で参加したりしている子供たちの中には、画面をオフにしてミュートで参加するようなケースがあります。こうした子たちについては、画面の向こうの様子がわかりません。そうすると私たちがサポートのしようがないのです。しかし、スクールタクトであれば、こうした子供たちが今何に取り組んでいるのかがわかります。これにより、スタッフ側が適切な声かけやサポートができるようになると考えました。
毎日の気持ちの共有や探究学習などに活用
―実際にスクールタクトをどのように活用しているのでしょうか。
安楽岡:年度をスタートする際には、スクールタクトを使って、自己紹介を行います。全国に散らばっている子供たちなので、自分の地域のことをみんなに伝えるように促しました。
スクールタクトでの自己紹介
さらに、毎日の「朝ノート」でスクールタクトを使っています。「朝ノート」には、「今日の天気」「今の気持ち」「ひとこと」について書きます。「ひとこと」には、今日の「風のがっこう」で楽しみにしていることや頑張りたいことを書きます。子供たちは、文字や絵などで自由に表現しています。
スクールタクトを活用した朝ノート
また、「朝ノート」は共同閲覧モードにして、スタッフだけでなく、子供たち同士でも見られるようにしています。これにより互いに口頭でのコミュニケーションが生まれています。時間の制約でコメントや「いいね」機能はスタッフが中心に活用しています。
共同閲覧モードを活用することで、口頭のコミュニケーションにも発展
―他にはどのようなことに使っていますか。
安楽岡:いわゆる探究学習のような時間を年に1回から2回ほど設けています。そこでは、スクールタクトを活用しています。例えば、「水」をテーマに取り上げた際には、その不思議に目を向けたり問いを立てたりすることに挑戦しました。最初は、「水」から連想する言葉をマッピングしたりイメージを絵を描いたりしました。その後、最終的にはそれぞれの考察を発表し、コメントや「いいね」機能を活用して交流しました。なお、この「水」の探究を契機に、毛細管現象の実験にもつなげていきました。
今年度は「バケツ稲」をテーマに取り組みました。JAの協力でバケツ稲を提供してもらい、栽培したいという子には配ってそれぞれの家庭で観察に取り組んでいます。スタート時には、バケツ稲の芽が出るために必要だと思うものを3つ挙げました。「日光」「水」などの答えもありながら、「愛」などのユニークな回答もあり、大いに盛り上がりました。
その後、バケツ稲の成長記録を写真などで紹介する時間も設けました。また、バケツ稲の配布を希望しなかった子供も「今はこんな状態になっていると思う」という想像を書き込んで参加しています。
―「アクティビティ」の時間にも活用しているのでしょうか。
安楽岡:そうですね。「アクティビティ」の時間で、月に1回程「ことばプログラム」を実施しています。これは、大学生のボランティアスタッフが大学での学びも交えてプログラムを作成してくれました。子供たちは、「なぜ、コミュニケーションの難しさに差が出るのかな? その理由を考えてみよう」といったワークに取り組んでいきました。いつも画面オフの子がしっかり自分の考えを書く様子が見られ、自分について表現することが苦手なように見える子も、こうした時間を通じて自分につながる機会になったのではないかと感じました。
これは内面を吐露するようなワークだったので、共同閲覧モードはオフにしていました。紹介する時は、スタッフが子供に許可をもらって読み上げるようにしました。たとえ、書いていない子にもそれぞれ思いがあるはずです。アウトプットができなかったとしても、そうした子供たちの心の動きを大事にしたいと常に感じています。
―「風のがっこう」以外でスクールタクトを活用することはありますか。
安楽岡:群馬県からの委託事業で県内の不登校の子供たちが参加する「オリナスオンライン」での活用でも検討を進めています。特にこちらでは「学びの時間」でも使っていきたいと考えています。自習の準備をしていない子に向けて、スクールタクトでクイズ形式で問題を出題していくような活動をしたいと考えています。
オンラインでも子供たちが「一緒にいる感覚」を味わえる
―子供たちを見取るためにどんなことを意識していますか。
安楽岡:何よりも大事にしているのは、子供たちの心理的安全性を築き、安心して自分を表現できるような場とすることです。そのために、Zoomに映る表情やスクールタクトに書く内容、シリウスパークというクローズドなSNSで何を呟いているかなどから随時子供たちの状況を把握して、コメントをするようにしています。また、コメントだけでなくZoomで声をかけることも大事にしています。スクールタクトのコメントを確認していなそうな子に対しては、Zoomのチャット機能で話しかけることもあります。さまざまな方法で、子供たちにメッセージを発信し、きちんと見守っていることを伝えたいと考えています。
画面オフかつミュートで参加していて、声をかけても反応がないと、「あれ、いないのかな?」と思うこともあります。しかし問いを発すると、スクールタクトには書いて取り組んでいる。そうした子については多めにコメントを寄せるなどを意識して、それぞれの子供に合った支援をすることを大切にしたいと考えています。
また、「風のがっこう」終了後には、スタッフ同士で「あの子はこんな感じだったね」「今日は元気そうだったね」と子供たちについて話し合います。さらに、シリウスパークで子供たちがアップしている内容も確認して、コメントをします。このようにスタッフは、常時、個々の子供たちの理解に注力しています。
日々スタッフ同士で話し合い、子供たちの理解を深める
―スクールタクトを活用した取り組みを続ける中で、子供たちにどのような変化が起きてきていますか。
安楽岡:「しっかり見ているよ」「きちんと読んでいるよ」ということを手を振ったりメッセージで伝え続けたりすることで、少しずつ子供たちが変わっていくように感じています。コミュニケーションが増えていく中で、昨年度まで画面オフだった子が、今年度から画面をオンにするなどの挑戦が見られるようになります。子供たち一人ひとりがそうした葛藤と挑戦の変遷を辿っているんです。
スクールタクトは、子供同士でもリアルタイムで見ることができます。例えば、絵を描いている友達の様子を見て、「わ!猫描いていたんだ!」といった内容でその場で盛り上がることができます。オンラインですが、同じ場所に一緒にいるような感覚を持てることがスクールタクトの魅力です。
―これからスクールタクトをどう活用していきたいと考えていますか。
安楽岡:今後、子供たちが学校に戻りたいと思った時に、「まなビバ!シリウス」が間に入って橋渡しをできるようになるといいなと考えています。その際に、子供が在籍している小中学校の担任の先生が「まなビバ!シリウス」で使っているスクールタクトを閲覧できるようにしたら、よりスムーズな連携ができるようになるのではないでしょうか。例えば、担任の先生もその子の書いた内容にコメントできるようになっていれば、ゆるやかに 学校ともつながっていくことができると思うのです。もちろん、子供の気持ちの尊重が大前提ですが、その子も希望し、先生も希望している場合には、そういった活用もできるのではないかと期待しています。
このようにスクールタクトにはまだまだ活用の可能性があると感じています。機能の拡大も活かしながら、これからも、誰一人取り残さず、つぶさに様子を見とり、安心安全の場を作っていきたいと思っています。
まなビバ!シリウス
まなビバ!シリウスは、学校外のもうひとつの学び場(オルタナティブスクール/フリースクール)で、境目のない学びの場づくりを目指しています。理念は「いきいき自分自身を生きる」「ともに生きる」「Design your day, Create your life」。
令和5年度までの5年間で対面フリースクールではのべ1,400名ほど、オンラインではのべ2,200名ほどの子供たちをサポートしています。
Webサイト:https://www.manavivasirius.com/
ICT推進校4年目、授業でも学級活動でも日常的にスクールタクトを活用
東京都の中でも他の自治体に先駆けてICT活用の推進を積極的に行ってきた港区。なかでもICT推進校の御成門中学校は、スクールタクトを活用した授業が進んでいます。2018年にICT推進校に選ばれてから、どのようにして教員たちの間でスクールタクトの活用が広がっていったか、また今現在のスクールタクトの活用状況など、主幹教諭の堀内塁先生(保健体育)とICT担当の清水嵩之先生(理科)にお話をお伺いしました。
休校中も双方向のコミュニケーションができ、ICTのメリットを実感
―御成門中学校がICT推進校になって4年目を迎えますが、これまでの取り組みについて教えてください。
清水:本校は2018年に港区のICT推進校に選ばれ、2020年に生徒一人1台Windows端末を配布し活用していました。タブレット端末は2021年から配布が始まり、2022年の1学期までWindowsと併用、現在はタブレットメインとなっています。
当初はICTに詳しい教員はわずかで、企業など外部の方を招いて研修を行っていました。その後、次第に授業で活用する教員が増え、ICTに強い教員たちが中心となって、校内研修を実施するようになりました。
そんな中、2020年2月から国内で新型コロナウイルスの感染が広がりはじめ、3月から学校が約2カ月間休校に。その時に校内研修をスクールタクト内で実施し、そこでいろいろな機能を知り「こういうことにも使えるんだ」「これならできそうだな」とイメージが広がり良かったと思います。こうして、少しずつスクールタクトの活用を広げていくことができました。
ICT担当 清水嵩之先生(理科)
―お二人はコロナ前からすでに積極的にICTを利用していたようですが、休校中はどのように活用されていたのでしょうか?
堀内:まず、まなびポケットのチャンネル機能※を使って、生徒たちとコミュニケーションを図るようにしました。毎朝、アンケート機能を使って生徒たちの体調を把握し、コロナ禍でなかなか外に出られない状況でしたので、「みんな家で何か運動をしている?」とか「休校期間が明けたら何をしたい?」といった質問を投げ、自由にコメントを入れてもらったりしました。そうすることで、生徒たちの様子をうかがい知ることができました。実際に会うことはできなくても、双方向性のあるコミュニケーションができたことは、とても大きかったですね。
※NTTコミュニケーションズが提供するクラウド型プラットフォーム。スクールタクトを含めたさまざまな学習コンテンツにアクセスでき、保護者や子どもたちとやりとりできるコミュニケーション機能も備えている。
堀内塁先生(保健体育)
―学習面ではどうでしたか?
清水:教員によってやり方はいろいろでしたね。例えばWordファイルで作成した問題を生徒たちに配布し、それを自宅でプリントアウトして取り組み、休校が明けた登校日に提出させるという教員もいれば、スクールタクトを利用して授業を行う教員もいました。通常の授業とまったく同じようにできたわけではありませんが、自宅で取り組めることはできるだけやってもらうようにしました。このときの手応えが、その後のスクールタクトも含めたICT活用を一気に広げたように感じます。
知識の確認や振り返り、生徒同士の意見交換などあらゆる場面で活用
―現在は授業でどのようにスクールタクト活用されていますか?
堀内:私は保健体育を指導していますが、単元ごとにオリジナル教材を作成し、知識の確認や振り返りに活用しています。振り返りは生徒たちにとっては学びを深め、新たな興味につなげるという狙いがありますが、教師にとってもさまざまな気づきをもたらします。生徒たちが振り返りで書いた内容から、自分の授業がどうだったかを知ることができますし、自分の課題を整理することもでき、次の授業の改善につなげることができます。
実技の授業では身体を動かすことが中心となりますが、ときどきスクールタクトを使って生徒同士で話し合いをさせたりしています。例えばバスケットの授業では、5人1グループで1コートに3人しか出られないというルールを設定し、どういう順番でどの選手をどこに配置すると勝てるか、スクールタクトの画面を動かしながら生徒同士で考え話し合い、戦略を立ててもらいました。同じことを紙に書かせると、1回書いたらそれでおしまいになってしまいがちですが、スクールタクトであれば何度でも修正できるので、ああでもないこうでもないと試行錯誤することができます。また、記録に残せるので、前回はどうだったか振り返って軌道修正することもできます。思考を深め広げるツールとして、とても有効だと感じています。
バスケットの授業では、スクールタクトを使い、生徒同士で作戦を考える。
―清水先生はどのように活用されていますか?
清水:私は今、1年生に理科を教えています。授業中はスクールタクトをさまざまな場面で活用しています。例えば新しい単元に入る前に「小学生の頃に学んできたもの」を、単元が終わった後に「学習を通じて新たに学んだこと」をマインドマップのように記入し振り返ることで、知識の確認をしています。授業の後に振り返りをすることで、授業で何を学び、何を得ることができたか自己評価し、次につなげていくようにしています。
単元が終わった後にマインドマップ風に記入し、学んできたことを振り返り次につなげる。
また、生物の授業では「分類」が重要になりますが、動物や植物の特徴を捉えながら、スクールタクト上のテキストボックスを動かしてそれぞれのグループに分類させてみたりするなど、授業内容に応じて有効に利用しています。ときには、少し遊びの要素も入れて、「動物の目の位置を考えてみよう」と、実際に目を描かせてみることもあります。いろいろな目の形がでてきて面白かったですよ。生徒たちが以前よりも楽しく授業に参加しているように感じます。
動物の目の位置を生徒たちに記入してもらい、動物の特徴を考える。
席替えや係決め、学級目標の話し合いなどクラス運営にも欠かせないツールに
―学級運営でもスクールタクトを活用されていますか?
清水:学級活動では、係や委員会を決めるときに、アンケート機能を使ったり、共同閲覧モードをオンにして、先生用のメモを見てもらう形で、「この委員会を希望しているのには、○○さんと△△さんですね」といった感じで、表に組み込んでいきます。同じようなやり方で席替えも行っています。
ほかにも学級目標を決める際に、生徒たちに自由にコメントを書いてもらい、ワードクラウドを利用して、キーワードの絞り込みをおこないます。一番多く挙がった言葉やいくつか挙がったキーワードを組みあわせて学級目標にしています。
生徒たちのコメントをワードクラウドで可視化し、学級目標を決める。
―ワードクラウドは授業にも活用されていますか?
清水:キーワードが瞬時に分かるので、理科の授業でも活用しています。例えば太陽について学習するときに、「太陽の自転とは何か」を生徒たちに考えてもらい、それぞれの考えを書いていきます。それをワードクラウドでキーワード抽出すると、多くの生徒が「黒点」に注目していることが分かります。他に位置であったり、移動の仕方だったりと動きに注目している人もいれば、形に注目している人もいたりと実にさまざま。それを画面共有しながら「こういうふうに考えている人もいるね。こういう視点もあるんだね」とヒントとして提示してあげると、さらに考えを広げ深めていくことができます。
生徒一人ひとりの様子が把握できるようになったことで、個別のフォローが容易に
―スクールタクトを活用するようになってから、生徒さんたちに何か変化は見られましたか?
清水:スクールタクトを利用するようになってからは授業中に発言しない生徒も自分の考えを書くことができるので、生徒一人ひとりの考えが教員の目に止まりやすくなったのは大きな利点と感じています。いい意見だなと思ったら、私の方から指名をして発言をしてもらっています。そうすることで、生徒たちに自信を持ってもらいたいからです。
堀内:スクールタクトを活用することによって、生徒たちの書く量が圧倒的に増えましたね。もともと書くことが得意な子はさらにどんどん書くようになり、書くことが苦手だった子はまずは書いてみようと一歩踏み出せるようになったことが大きな変化だと感じています。
とはいえ、全員がオープンに書けるわけではないんです。なかには自分の考えを人に読まれたくないと、あえて小さな字で書いたり、上から図形を貼りつけて見えないようにしたりする生徒もいます。しかし、スクールタクトなら画面上で把握することができるので、書くことに自信が持てない子には「どんな考えを持っていてもいいんだよ」と声かけをするなどしてフォローすることができます。この「生徒一人ひとりの状況が把握できる」点がスクールタクトのメリットだと感じています。
―先生方の働き方に変化が出ていますか?
清水:これまで教材や資料を渡す際には、プリントして配るという作業が必要でした。それが、スクールタクトを活用にすることによってプリントが省けるようになり、作業効率がとても良くなりました。また、理科の授業には資料がつきものですが、白黒のプリントを渡すよりもカラーの資料の方が写真もクリアですし、視覚的な理解が深まりやすいと感じています。
困った時はチャットボットに質問、回答も早くとても便利
―お二人はスクールタクトをかなり使い慣れているご様子ですが、これらのノウハウは他の先生にも共有されているのでしょうか?
清水:校内研修を通じて紹介することもありますが、スキルを持った教員が日常的に教えてあげることで、他の教員の活用が広がっているように感じます。例えば同じ教科の教員同士で、どんなふうに活用しているのか教え合い、参考にしたり、以前使った教材や資料を使わせてもらったりしています。私たちはたまたまこういう分野が得意だったけれど、使い始めた時期にそれほど大きな違いはありません。みんな初めてのことですから、分からないことがあって当然です。ですから、自然と教員同士で助け合う空気が生まれているように感じます。
―お二人でも分からないようなことがあった場合はどうされていますか?
堀内:私はまず清水先生に聞きます。とはいえ、授業中だったり、つかまらないときもありますので、そういうときはスクールタクトのチャットボットでの問い合わせを活用しています。分からないことを入力すると、回答が返ってくるというサービスですね。チャットでの問い合わせは回答まで時間がかかるイメージがあったのですが、スクールタクトではチャットボットがすぐ回答してくれるので重宝しています。
清水:私もスクールタクトのチャットボットはよく利用しています。細かい話になってしまうのですが、例えば図形とテキストをグループ化したいときのやり方とか、テンプレート登録、作成した課題の複製など、分からないことがあったらすぐに質問しています。丁寧に詳しく説明してくださるので、とても助かっています。
メニューのお問い合わせからチャットボットで質問することができる。(サンプル画像)
―最後に今後の展望について教えてください。
清水:御成門中学校が港区のICT推進校に選ばれて4年目を迎えました。当初はどのようにスクールタクトの活用を広げていけばよいのか分からず手探り状態でしたが、4年目を迎えた今は教員同士が自然に教え合う空気が生まれ、自身で試してみる教員が増えているように感じます。さまざまな場面で活用できるスクールタクトは、今や学校生活にはなくてはならないものになっています。生徒たちの学びに対する姿勢の変化も見られ、教員たちは日々手応えを感じています。これからもスクールタクトを積極的に活用し、「生徒の学びに向かう力」を育てていきたいと思います。
東京都港区立 御成門中学校
2018年に港区のICTモデル校に指定され、以降、教員が一団となってICTを活用した授業を実践。2022年度のスローガンは「生徒の学びに向かう力を育む御成門中学校 ─自ら充実した学校生活を創造し、世界に発信する─」。2022年度の生徒数は270名、ダンス部が全国大会に出場するなど部活動も盛ん。
Webサイト:https://onarimon-js.minato-tky.ed.jp
生徒同士での学び合いを実現!教員の役割はティーチャーからコーディネーターへ
導入前の課題 | |
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1 | 他のICTを導入したものの、リアルタイムで生徒の学びを把握できなかった |
2 | 生徒の主体的な学びを促進したい |
導入後の効果 | |
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1 | 生徒の学習進捗をスムーズに把握でき、授業での活用イメージが広がった |
2 | 「共同閲覧モード」の活用により、生徒間で学びや考えをシェアできるようになった |
学校法人市川学園 市川中学校・高等学校は、千葉県の創立85年を迎える進学校です。生徒の多くが、国公立大学や難関私立大学の進学を目指す中で、一人一台タブレットを配布。授業、ホームルーム、自宅学習でICTを導入、生徒の学習をサポートするツールとして活用している。ICT導入の経緯と授業でのスクールタクト活用方法について、笹尾弘之先生(社会・教育研究部部長)と飯高匡展先生(物理・教育研究部副部長)にお話を聞きました。
※市川学園中学校・高等学校様でご利用いただいているサービスの名称はClassiNOTEです。ClassiNOTEは、Classiユーザー用に提供しているスクールタクトの別名称です。システム上の違いはありません。
※授業風景の写真は分散登校時のものです。
段階的にICTを導入し教員の目指したい授業に合わせて活用
ーICTの導入の背景を教えてください。
笹尾:本校の生徒のほとんどが大学進学を目指しています。2020年の大学入試改革が発表された当初は、議論の中にCBT(Computer Based Testing)の活用なども含まれており、準備が必要だと考えていました。結果的にその導入は見送られましたが、これからの社会ではITを活用する力は欠かせません。遅かれ早かれ学校教育の中でのICT活用は不可欠であると考えて、2016年から現場教員主導のもと、ボトムアップで導入を図っていきました。
本校の教育を支える方針として、「第三教育」という考え方があります。家庭で受ける教育を第一教育、学校で受ける教育を第二教育、そして自分で自身を教育することを第三教育と呼びます。第二教育の充実のために、授業ではスクールタクトを、ホームルームでClassiを導入しました。さらに、第三教育ではLibry(リブリー)という自学自習ツールを活用しています。
笹尾弘之先生(社会・教育研究部部長)
ー授業での活用をスクールタクトにした決め手を教えてください。
笹尾:他のツールも試してみましたが、当時生徒が画面に書いている内容をリアルタイムに確認できるのはスクールタクトだけでした。生徒の学習進捗をスムーズに把握でき、授業での活用イメージを具体的に持つことができました。
ー導入のステップを教えてください。
笹尾:導入1年目は、特別教室3教室分にタブレットを126台用意し、スクールタクトを利用した授業実践を積み重ねていきました。なぜならば、タブレット本体の性能も含めて研究する必要があると考えたからです。各教科で一人エバンジェリスト(伝道師)を決めて、スクールタクトを活用したアクティブ・ラーニングの授業を実践していきました。国語科、英語科、社会科(地歴・公民科)が先行し、続いて数学科と理科が検討を重ねていきました。
2年目の2017年には、中学3年生にタブレットを貸与して活用をスタート。現在は紙とペンで書くことを学ぶコンセプトの中学1・2年を経て、中学3年生から高校3年生まで約1700名がタブレットを所有しています。さらに、各教室に電子黒板付きのプロジェクターを配備して、授業での活用の幅を広げていきました。
ー教科・科目によって導入のバラツキは出ましたか。
飯高:物理は、紙とペンで数式や図を書いて解いていく学習が多いです。時には、タブレットの限られたスペースの中で計算式や図を書ききれないという課題がありました。
また、理科では動画や写真を共有するのではなく、実験など実際に実物を観察する体験が大事だと考えています。五感を使って実物を見て興味関心を持ち、学びに向かう気持ちを高めていくことが重要です。とはいえ、私は今ではスクールタクトを毎時間使用しています。教科・科目の特性だけでなく、個々の教員が授業の目的に合わせてICTを活用していくことが必要だと考えています。
飯高匡展先生(物理・教育研究部副部長)
【実践事例 物理】授業で得た知識と日常を結びつける振り返りの機能として活用
ー物理の授業ではスクールタクトをどう活用していますか。
飯高:私は物理を日常生活と関連づけて学んでほしいと考えています。そのため、授業の最後の5分間を使って、スクールタクトで振り返りシートを配信し、「日常的な事柄や既有知識と本時の内容を関連づけて、考えたことを記述する」ことに取り組ませています。例えば、「スキージャンプの滞空時間が長いのは空気抵抗が関係しているのでしょうか」と、物理で学んだことをスポーツ競技と結びつけている生徒などが出てきます。
生徒のこうした問いを次の授業の導入にもつなげています。冒頭の5分間、「共同閲覧モード」で、他の生徒のコメントを読み、考えたことを記述させます。私も授業内でいくつか振り返りを取り上げて、学びを広げていきます。こうした活動により各授業がつながりますし、生徒は他者の多様な考えと自分の考えを関連づけて視野を広げていきます。
ー実際に生徒さんからはスクールタクトを使った振り返りについて、どのような感想が聞かれますか。
飯高:「わかっていたつもりでいた内容を、他者の疑問を見て改めて考えることができた」「さまざまな日常との結びつきを見て、納得する機会が複数回あり、深い学びにつながったと思う」といった意見がありました。
ーこの振り返りの手法はあらゆる授業で応用できそうですね。他に、どのような活用をしていますか。
飯高:単元の導入の時間に、物理の用語からイメージすることを書かせた上で、「ワードクラウド」の機能で整理をしています。例えば、「波」について学ぶ際に「波と聞いて連想するものをたくさん挙げよう」と促すと、「電磁波」「超音波」といった物理の用語だけでなく、コロナ禍特有の「第3波」などもありました。私が思いつかないような言葉も出てきて面白いです。スクールタクトがなければ、一人一人の考えをここまで瞬時にすくい上げることはできません。個別に指名していったとしても無難な回答に終始する可能性があります。このような導入を行うことで、生徒の関心を足がかりにした授業を展開できました。
生徒に波と聞いて連想するものを挙げてもらい、ワードクラウドで整理。生徒の生の声を可視化して共有。
少し話はそれますが、生徒が自己の内面を表現しやすい環境を作っていくことは重要だと思っています。考えていることをどんどんアウトプットし、生徒同士が授業を共同構築していく。「間違ってもいい。それが他の生徒にとっての学びにもなる」ということを知ってもらえる雰囲気を作るのにスクールタクトは有効だと考えています。
【実践事例 地歴・公民科】「共同閲覧モード」で生徒がリアルタイムで相互に学び合う
ー地理の授業ではスクールタクトをどう活用していますか。
笹尾:私が作ったパワーポイントのスライドをスクールタクトで配信し、そこに生徒が記述する問題演習をしています。これまではプリントで配布していたのですが、地理はどうしてもカラーで見せたい資料が多く、悩ましいポイントでした。スクールタクトではその問題がクリアできますし、生徒が自分の学びを蓄積していける点にも魅力を感じています。定期試験や入試前には、簡単に復習することができます。
今までプリントで配布していたものをスクールタクトで配信。試験前の復習も簡単に。
もう一つ重要なポイントは、生徒同士学びをシェアできるという点です。例えば、東京大学の論述問題を配信して、それを生徒が解く活動をしたとします。生徒の解答にどんどん私が赤字でコメントを入れていくのですが、「共同閲覧モード」にしているのでクラスメイトが何を書いているのかどんな指摘を受けているのかを全員が確認できます。その添削を見ながら自ら学び、自分の解答に生かしていく。これは、まさに本校が大事にしている「第三教育」にもつながる姿勢だと考えています。こうした取り組みは、2020年のコロナ禍の休校措置期間にも実施し、遠隔で協働学習ができる手応えを得ることもできました。
ー自身の学びにつなげるだけでなく、生徒が相互に協力しながら学びに向かう姿勢も生まれていきそうです。
笹尾:そうですね。例えば、東京大学を目指す生徒たちのクラスでは、同じ目標に向けて頑張っているので、「あの子は頑張っているから、これだけの文章を書けるんだ。自分も頑張ろう」と励まされます。互いに問題へ挑戦する姿勢が見えることで、生徒同士で学び合い、モチベーションを高めていけるメリットは大きいと感じています。さらに、前年度同じ授業を受けた先輩が作成した論述が蓄積されているので、それを提示することも生徒同士の学びを加速させるポイントになると思います。
ー公民分野でも活用は進んでいますか。
笹尾:私は法教育に力を入れています。中学3年生では、一つの事案に関して、有罪か無罪かを論理的に説明するという学習をします。「なぜ有罪と書いたのか」の理由を書くだけでなく、生徒間で有罪・無罪相互の主張を見合い、「この無罪の論理に対してどう説得したらよいかを考える」ところにまで学習を広げています。
他にも、社説を読んで自分の意見をスクールタクトに記述するといった活動も行なっています。スクールタクト導入以前は、私がチェックして、シェアしたい意見をプリントにピックアップし、生徒の人数分印刷して配るという工程がありました。その手間がなくなったことは、私にとっては大きな省力化でした。
生徒の学びの履歴のシェアや相互評価に活用し、生徒をコーディネートする存在へ
ー今後、スクールタクトをどう使っていきたいですか。
飯高:大きく2点あります。1点目は、振り返りの記述の蓄積を生かすことです。例えば、私自身が生徒の興味関心や日常生活での経験、つまづくポイントなどを捉えて授業を組み立てるのに役立てることができます。過年度生の振り返りを授業で紹介することもできますね。データの有効活用の視点です。
2点目は、生徒の学びをシェアしていくことに使いたいと思っています。休校期間中、動画を配信していましたが、観る生徒もいれば観ない生徒もいる状態でした。学校から「観てね」と伝えることも重要ですが、生徒に動画を見た感想をスクールタクトに記述させれば学習の履歴を残すことにもなるし、生徒間での学びのシェアにもなります。
笹尾:私は生徒同士の相互評価に用いたいと考えています。最終的には教員が評価しますが、仲間のスピーチを聞いてそれを正統に評価するということをスクールタクト上で行なっていきたい。そのためには、生徒が評価の意味や設計を理解しなければいけませし、仲の良し悪しといったバイアスがかからないようにしなければいけません。導入には何段階かステップが必要ですが、スクールタクトの機能があれば実現しやすいと考えています。
ー学校全体として、スクールタクトを導入したことによる変化はありますか。
笹尾:スクールタクトだけの要因ではありませんが、教員の役割がティーチングからコーチングやファシリテーションへと移行していることはひしひしと感じます。生徒のアウトプットを教員がコーディネートして意見を拾い上げて議論に落とし込んでいく。スクールタクトはそれを補助する有効なツールになりうると考えています。各教員が目指す授業を実現する道具として、うまく活用していきたいと考えています。
学校法人市川学園 市川中学校・高等学校
1936年に開校した千葉県にある進学校。教育の基本方針として、「真の学力」「教養力」「科学力」「国際力」「人間力」の5つの力の修得を目標としています。SSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定され、リベラルアーツ教育に力を注ぎ、教科横断的な探究的な学びも重視します。
スクールタクト導入で生徒同士のコミュニケーションや振り返りが評価可能に
※仙台育英学園高等学校秀光コース・秀光中学校様にご興味のある方はこちらをご確認ください。
※取材は2019年11月に行いました。記事内の授業風景は新型コロナウィルス拡大抑制を目的とする休校要請以前に撮影したものです。
仙台育英学園高等学校秀光コース・秀光中学校の特色
仙台育英学園高等学校秀光コース・秀光中学校は、2018年に国際バカロレア(IB)の中等教育プログラム(MYP)を提供する東北初のIB校として認定されました。6年間の中高一貫教育、学習方法としてのIB教育、教育の軸としての“Language, Music & Science”によって、高度な学力・豊かな感性・生涯学習者としての自覚を持ち、持続可能な社会の構築に“至誠”によって貢献するグローバルシティズンを育成することを教育目標としています。
IBに沿った生徒の評価手法がスクールタクト導入の背景
仙台育英学園高等学校秀光コース・秀光中学校では、1人1台のPC環境を整備し、IBのレポート課題や効果的な授業実践を目指していました。スクールタクト導入目的は、教員が生徒の評価をより効果的に行うことにありました。東北で初のMYPを提供する国際バカロレア認定校である本校は、その教育手法の特性から生徒の適切な評価手法を模索していました。
授業によって習得した知識のテストによる評価手法だけではなく、生徒同士の授業中のコミュニケーションや振り返り、実生活への応用などをルーブリックに基づいてテストと同様に評価する必要がありました。もちろんレポート提出による評価も行っていますが、授業中の様々な活動を記録しておく必要性を認識していました。
従来は、無料で使えるGoogle関連のソフトウェアを使用していましたが、本校に最適なツールを検討する中でスクールタクトにたどり着き、利用を開始しました。様々な教科に汎用的に対応していること、プレゼンテーション機能があること、生徒同士が相互にコミュニケーションを取りながら学習や振り返りを行えることなどが、本校の求める要件に合致していたため「まずは試しに使ってみよう」という気持ちで使い始めました。授業効率の向上とMYPの単元計画に基づく授業設計、特に観点別評価において発表やグループワークが必須な点などを考慮した結果、スクールタクトの導入を決めました。
スクールタクト導入前準備とハードウェア選定
本校は2017年に、全校舎に無線LANの整備、各教室にプロジェクターの整備を行い、翌2018年に全教室への設置を完了しました。授業で本格的にICTを使用する前に、生徒へのClassiアンケート調査も行いました。1日あたりのインターネット利用時間、保護者の制限の有無などをあらかじめ調査することによって、ICTを利用する上での問題点を洗い出しました。
(※仙台育英学園高等学校秀光コース・秀光中学校でご利用いただいているサービスの名称は「ClassiNOTE」です。ClassiNOTEは、Classiユーザー向けに提供しているスクールタクトの別名称です。名称が異なるだけでシステム上の違いはありません。)
アンケートの結果をもとに、ハードウェアの選定においては、生徒の資料作成能力を高める必要があると判断し、iPad等のタブレット端末ではなく、キーボードが付いている端末を要件としました。また、スクールタクトを直感的に活用するためのタッチパネルがあること、インカメラが使えること、データがクラウドに保存され消失しにくいなどの条件から、中学生にあたる前期課程ではChromebookを選定しました。高校生にあたる後期課程では、プレゼンテーションソフトやウィルス対策ソフトの要件を満たすPCを利用するBYODを実施し、1人1台のPCを利用する「Own PC制度」を実現しました。
IBの授業特性にも最適だったスクールタクト
本校では、従来から様々なICTツールを使用していましたが、スクールタクト導入後には多くの変化がありました。教員の変化としてまず挙げられるのは、教員間での情報共有が盛んになったことです。スクールタクトの使い方やノウハウ共有にとどまらず、その他のICTツールの利用においても共有が活性化しました。また、各授業の特性に応じて柔軟にツールを切り替えられるようになり、同時に、生徒の側も授業の特性に応じてツールを使い分けるようになりました。生徒は、ICTに苦手意識を持つこともなく、楽しみながら使うようになってくれました。
国際バカロレアの授業特性にも最適で、生徒同士の授業中のコミュニケーションや振り返り、実生活への応用などを評価することができるようになりました。
スクールタクトによる先生方の変化
以前にもまして授業での創意工夫や改善をするようになりました。また授業の中でも流れに変化をもたせようとすることで、生徒自身はもちろん、自分自身の授業に対するモチベーションも更に向上しました。本時の振り返りを熱心にやるようになりました。
はじめは、ICTは難しいのではないかという気持ちがありましたが、使ううちに自分の意識が変わってきました。授業以外の時間でも生徒の解答や意見が確認でき、次の授業での改善につなげることができます。生徒の指摘やコメントをまとめて見ることで、苦手な部分や得意なところを発見でき、今後の指導に役立ちます。
授業が効率よく進むようになりました。そのため自分自身が精神的に疲れないということが大きな効果ですね。また、発表が得意ではない生徒の発表では、あらかじめ回答を見た上で、「いい意見だね!じゃあ発表してごらん」と自信を持たせてあげられるようになりました。
生徒が、パソコンやタブレットを勉強のための道具として使えるようになりました。スクールタクトを使うと他の生徒の考えも見られるので、勉強を自分の中だけで完結させないようにする意識が芽生えたと思います。また、生徒が家にいる間の学習の様子も見られるようになったことで、課題を細かく出してチェックできるようになりました。
今までは問題集の問題をただ解かせるだけでしたが、生徒同士のコメントやフィードバックを増やすことを意識した課題づくりができるようになりました。画面上で生徒の回答がリアルタイムで確認できるため、各生徒の理解度やつまづいているポイントの把握がしやすくなりました。
生徒たちが使ってみて感じたスクールタクトの良いところ
グループワークで、グループ内で話し合って内容を打ち込めるし、他のグループ同士で様々な意見を見ることができ、「こういう捉え方もあるんだな」とか「こういう表現の使い方があるんだな」といろいろ考えることができるのでいいと思います。
課題の提出などが時間的に効率化したし、グループワークで一人ひとりが授業に対して積極的に参加できるようになりました。先生に聞くほどでもない簡単な質問でも仲間内では聞けるし、どのような言葉を使えばより明確に伝わるかなど、みんなで話し合ってからパソコンに打ち込むので、より発展的な意見を言い合えると感じています。
紙やノートに書いて一人ずつ発表しなくても、全員の意見を一つずつ見ていけるので、それを見た上で自分の意見をまとめることができるのはとてもいいところだと思います。特にキーワードによってみんなが一番考えていることや多く使われている言葉を見ることができるので、それによって自分の焦点があっているか、自分の考えが正しいかどうかも確認することができます。
自分の考えが他の人と合っていないと不安になりますが、他の人の考えを取り入れることにもなるし、自分もまた新たに成長できると思っています。そういった意味で、スクールタクトを使うことで授業が効率化されている点は大きいです。今まではノートに書き写すのが大変で、自分の意見と照らし合わせる時間も足りませんでしたが、今では大きな違いや共通点を見つけることが簡単になりました。
紙の授業より効率的になったと思います。先生の授業中の負担が軽くなったり、他の友達の解答を見ることができるようになりました。紙を使っていたときは先生が動き回っていて大変そうでした。また、他の友達の解答から新たな気づきを得ることができるようになりました。また、苦手だったタイピングの練習になるので、TとFの位置がわかったり、以前より速く打てるようになりました。
夏休みの宿題も、今までは提出から採点まで1カ月待たないといけませんでしたが、今は先生がすぐに採点してくれるようになりました。解答をクラスメイトと共有することが簡単で、スクールタクトにデータが残るので、復習が簡単になりました。中学校1年生のときのデータも残っています。また、スマホでログインできるので、電車の中でもノートを広げることなく簡単に確認することができます。
単純に機械に慣れることが良い点だと思います。また、解答を簡単に共有することができるのはすごく良いです。今まではホワイトボードに代表の人が解答を書き、みんながそれを見ても会話が生まれなかったし、そもそも時間がかかっていました。でも、今は他の生徒の解答が見えるので、生徒同士の会話が増えました。例えば、「この計算式が違うのでは? もっとこうすればより簡単にできるのでは?」などの会話が生まれています。
今後どのようにスクールタクトを活用していくか
学校全体ではグランドデザインの方針に基づき、各学年・教員の状況に応じて柔軟な活用をしています。例えば、1年生であればPCを学校で保管し、授業での教員監督下で利用してもらったり、3年生は自宅に持ち帰って課題に取り組んでもらうなど、各学年・教員同士が上手く声がけすることでフレキシブルに運用しています。個人的には、今後このような関係性がICTを使った教育において重要になると考えています。一方で、SNSの利用やインターネットのフィルタリングについては現在も最適な対応を模索しています。
本校は、生徒が双方向に取り組むIB型の授業をテーマとしています。そのため、MYPの前提となる環境整備に注力したいと考えています。例えば、教員全員が参加するミーティングが毎週あるの
で、そこでスクールタクトを使った効果的な授業方法を教員間で共有し、学校全体の授業のクオリティ向上を実現していきたいです。また、年度の更新によって教員が入れ替わった際に研修会を行うこと、教員同士が使い方を共有し合う時間を設けること、教員同士の授業研究など、スクールタクトに限らずICT全般の知識を共有し研究していきたいです。
スクールタクト導入後の活用状況については、以下の実践事例をご参照ください。
- 中1 学級活動 文化祭の振り返り
- 中2 社会(地理) 近畿地方(歴史的景観の保全)
- 中3 数学 関数 y=ax²
- 高1 物理基礎 波と媒質の運動
- 高3 英語表現Ⅱ 英文理解を深めるための和訳
先生の目線で作られているから、かゆいところに手が届く
スクールタクトを活用している長野県伊那市は、2020年7月に「日本ICT教育アワード」の経済産業大臣賞を受賞しました。今回は、伊那市立東部中学校でのスクールタクト導入の経緯や活用方法についてお話を伺いました。
スクールタクト導入の決め手は直感的なわかりやすさと汎用性
伊那市立東部中学校 足助 武彦教諭
足助:今まではPC教室の端末を使っていたんですが、それをiPadに置き換えるにあたり、「学習支援ソフト」の選定を行いました。従来の学習支援システムだと非常に使いにくかったのが、スクールタクトは直感的にわかりやすくて汎用性があったため、これが導入の決め手になりました。
「かゆい所に手が届く」という感覚が大きいですね。今までだと、先生方は机間指導をしながら生徒の学習の様子を捉えていたんですが、スクールタクトだと手元でリアルタイムに学習の様子が把握でき、生徒が書き直している過程までわかる。先生が自分の授業を行う際に、生徒がどう反応しているか手に取るようにわかるのは、本当に授業に活きてくると思います。
足助:スクールタクトが非常に使いやすいと評判になると、いろんな教科に広がっていきました。教科によって様々な使い方がされていて、私が他の先生方に一つひとつ例を挙げて「こんな使い方もできますよ」と伝えると、すごく喜んでもらえます。そういう幅広い機能が備わっている点から、企業目線ではなく、先生たちの目線で作られているシステムだと感じます。
あとは、開発やサポート体制のレスポンスの良さ。「こういう機能があったらいいな」とフィードバックすると、すぐに対応してくれる。教育現場の声を大切にしてくれるところが、スクールタクトが使い込まれていく理由の1つじゃないかと思っています。
スクールタクトは時と場所を超えたつながりを創る
足助:学校数が比較的多い伊那市の中でも、東部中学校は規模の大きな学校なんですが、一方でまわりの学校はとても小規模なんですね。伊那市としては、日本全国で問題になっている、少子化人口減による小学校の統廃合はやらないと決めました。本当に少人数になってもその学校を存続するんだと、3年間そのための取り組みを行いました。小規模校の子どもたちに何とか学習機会を保障するため、小規模校と中規模校を結んで一緒に遠隔授業をやってきたんです。
スクールタクトでは、他の学校の生徒たちが書き込んだ部分が見えるし、それに対してコメントし合えるわけです。遠隔授業において、違う学校の子たちと自由に交流ができることは、本当に大きい意味がありました。
小規模校の中には学年で一人きりという生徒もいて、県下で一番大きな本校に入ってきた時にどうなるんだろうと、親御さんなどは心配されていました。その生徒は、5年生の時から近くの小学校と遠隔授業をやっているなかで、呼びかければ実際に同じクラスにいるかのように、一緒に授業を受けていたんですね。
その後本校に入学し、今は中学1年生として大勢の友達がいるクラスに加わっていますが、本当に自然に入り込むことができています。いわゆる「中1ギャップ」なんていうのも感じさせない。スクールタクトは、そういう「時と場所を超えたつながりを創る」素敵なソフトだと思いますね。
教室でのスクールタクト活用事例
国語担当 下條 将教諭
下條:授業の中で、生徒の考えをみんなで共有したり、それに対してお互いにコメントを送ったり、友達の意見を参考にしながら自分の意見に還元するような活動を行う際に、スクールタクトをよく活用しています。スクールタクトの中では、コメントを送り合える機能に特に魅力を感じています。多数の生徒が、一人の考えに対して瞬時に意見を寄せることができるので、みんながどういう考えを持っているかがリアルタイムにわかる点が素晴らしいです。
理科担当 松村 健太郎教諭
松村:理科だと科学分野の「粒子概念」というのが大事で、目に見えない世界についてモデルで想像したり考察する場面があります。そういう時に、生徒がスクールタクトを使って色を変えたりして、感覚的に自分の頭の中を表現できるのはすごく便利だと思って活用しています。
あとは生物の分野で、水中の微生物について一人1種類調べる場合など、それだけでいつも授業が終わっていたのが、スクールタクトを使用すると一覧で表示されて、簡単に微生物図鑑が作れるのはとても便利だなと思っています。
スクールタクトによる生徒たちの変化
下條:一番大きな変化は、生徒が一つの教材に対して、すごく前向きに主体的に取り組むようになったことです。スクールタクトは楽しく感覚的に扱えるので、普段なかなか手を挙げて発言できない生徒も、その場で自分の考えをどんどん出したり、友達にコメントを送ったり、積極的な参加ができるという良さが見えました。授業の雰囲気にかなり活気が出てきたと思います。
松村:今まで紙に書くのでは手が止まってしまう生徒が多かったのが、生徒自身もデジタル機器に慣れているせいか、スクールタクトならとりあえず感覚的に書いてみるということができています。何もできないとか、諦めてしまう生徒がいなくなり、生徒の興味関心が間違いなく紙ベースの時より高まっていることはすごく感じます。スクールタクトは生徒にとって一番気軽に使えるツールなんです。
また、学習履歴がわかるのも大きいですね。自分がどのように学びを深めてきたのか一目でわかるので、本当に生徒の達成感が違うなと思います。
スクールタクトについての生徒たちの声
- スクールタクトを使って自分の意見を発信できたし、他の人の意見もわかった点が良かった。
- 授業がすごくわかりやすくなって、ありがたい存在だなと思います。
- ノートを振り返るよりスクールタクトの方が楽に見れるので、振り返りにすごい便利です。
- スクールタクトを使う授業では、喜びを持って授業に向かう姿勢が強くなりました。ノートにまとめるのは得意ではないんですが、スクールタクトは色も使いやすく、まとめやすいのでとても便利です。学習課題に取り組む意欲がすごく高まったと思います。
授業のユニバーサルデザイン化
寺島 努教頭
寺島:本校には800名を超える生徒がいて、それぞれがいろんな個性を持っています。従来の音声言語だけの環境だと、人前でしゃべるのが苦手な子もいれば、集中して取り組むのが苦手な子もいます。
スクールタクトでは、相手の考えが文字でわかって記録に残り、自分の考えを気軽に発信できるという良さがあります。これは授業のユニバーサルデザイン化だと思うんです。スクールタクトを使用することで、どんなお子さんでも「学んでよかった」、「今日この1時間友達と交流できて良かった」と、そんなふうに思ってもらえる授業・毎日が実現できたらいいなと思います。
※所属・役職は全てインタビュー当時のものです。
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